時の歯車 11
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「やっぱりここにいたか。 その顔じゃ、まだ戻ってきてないみたいだな?」
「・・・・・お久しぶりです。 ええ。 過去と同じ時間経過とは限りませんから。」
「ひょっとして、一ヶ月もたたない内に、戻って来るかも知れない、なんて思ったりしましたヨ。」
「焦る事はない。 あの時未来に戻ったのは、おれたちが知っている。 そうだろ?」
そうだ。 だから心配なんだ。 行って欲しくなかった、イルカ先生に残って欲しかった。
下忍のイルカは、まだオレ達のコトを知らない、恋人になってくれる保証はない・・・・って思った。
一ヶ月と二日。 あんなに甘やかされて、オレ達が “元気でネ” なんて見送れるはずがない。
過去のオレ達が、少しでも違ったコトをしてしまったら、イルカ先生は戻ってこないかもしれないんだ。
そう言えばこの人は、イルカ先生と再会した時に、さりげなく協力してくれたよネ。
「・・・・アカデミー長。 あなたが、イルカ先生を二十歳の若さで推薦した時は、驚きましたよ。」
「そりゃ、お前、イルカに見所があったからだ。 あの説教は、教師以外の何者でもない。」
「あ、腹立つコト思い出したっ! アンタあの時、オレ達のイルカ先生にセクハラしたろっ?!」
「はははは、時効だ、時効! あの時は年も近かったしな? 今じゃ、息子みたいなもんだ。」
暗部の部隊長だったこの人は、引退後、何故かアカデミーの教師になった。 そして今やアカデミー長。
イルカ先生を狙ってんのか? とも思ったけど、きっと部隊長は、オレ達の為にそうしたんだ。
先生の未来の恋人がオレ達だと、この人も知ってた。 あの10年間、どんなに我慢していたのかも。
好みの人間をすぐ口説くような人だけど、三代目に劣らないぐらい情に厚い。 だから皆に慕われてた。
オレ達の為を思って、一日でも早く“アカデミー教師のイルカ先生”になるチャンスを与えたんだ。
まあ、イルカ先生にその資質がなければ、採用もなかったんだけどネ。 先生はみごと期待に答えた。
「・・・・イルカが会議室から消えて、二ヶ月か・・・・。 ちゃんと食ってるか?」
「・・・・・当たり前でショ? 戻って来た先生を、思いっきり抱く予定なんだからっ!」
「そうですよ、体力つけとかないと! コレでまた印をつける予定なんです、先輩と!」
「なんだそりゃ。 スタンプか? ・・・・シリコン製の??」
「よくぞ聞いてくれました! これはオレ達が特注したヤツ。 その名も“チュー印ガム”!」
主人公の男は独占欲が強く、ヒロインに刺青を入れようとする。 自分の名前を太ももの内側に。
ヒロインは“私のココには、刺青じゃなく、いつも唇で印をつけて”と男にねだり、18禁へ突入。
今年発売された《イチャイチャパラダイス 独占欲 〜唇の主張〜》の、そのシーンから思いついた。
オレ達も先生に印をつけてみたかった。 ただ吸うだけじゃなくて、いや、それも楽しいんだケド、
いっそのことホントに唇の形にしたらどうかって。 チューッていう形。 シャレが効いてるでショ?
「コレ優れモノですヨ〜? こっちをキュッ、キュッって噛むだけで、真空状態になるんですヨ!」
「ほら、ここ。 先が唇の形に型抜きしてあるでしょ、だからそのまんまの形に鬱血するんです!」
「お前ら・・・・・ アホだな。 暗部の黄金時代を築き上げたコンビが、今じゃ、子供返りか。」
コレも作ってから、ハッとした。 あの時、先生の腕の内側にあったキスマークはコレか、と。
いつでも心の準備が出来る様に“チュー印ガム”で印をつけるのは、あえて、腕の内側にした。
ココ何ヶ月か、いつもイルカ先生は、腕の内側にあのキスマークをつけて、生活していたんだヨ。
薄くなって消える度に、新しくつけた。 オレ達しか知らない、先生の印。 先生はオレ達のモノ。
“こんなのつけなくても、俺はあなた達のモノなのに”と、最初イルカ先生は苦笑いしてたっけ。
「その内にみんなでお揃いにしよう、って事になったんです。 腕の内側につけっこしました。」
「イルカ先生だけは、ふたり分だから両方の腕についてるんだヨ、可愛いでショ?」
「イルカもアホ三号か。 ・・・・・はははは、これじゃ、あの時お呼びがかからない訳だな。」
「・・・・・アカデミー長、先生にお呼ばれした様な記憶、増えてないですよね?」
「はははは、安心しろ。 猫パンチくらった記憶しかない。」
「ボク達にごまかしは通用しませんからね? あなた、先生を口説いた前科があるんだから。」
「おーおー、暗部最強の黄金コンビが、ただの男になっちまってまぁ・・・・」
そのとーり! イルカ先生の前では、オレ達はただの男。 わがままな子供そのもの。
イルカ先生の帰りがあんまり遅いから、過去の自分達を疑いはじめた。 返してくれないカモ、って。
かつての部隊長の記憶に変化はなかった。 チョット元気が出たヨ。 だから先生、はやく戻って来て。