時の歯車 4   @AB DEF GHI JKL MN




何か異変があったらすぐに対処できるから、一緒にいた方がイイというのは理解できるんだけど。
男の素性は、三代目とオレ達だけの秘密にするというコトになった。 異議を申し立てた結果がコレ。
もうすぐ処分しようと考えていた。 独りでは広過ぎる、父さんの残してくれたオレの持家。
ココには嫌な思い出しかないのに、三人で暮らすコトになった。 オレの上忍寮では狭過ぎるから。

「わぁ・・・・ 当時はこんな荒れてたんだ・・・・。」
「?? あなた、先輩の実家を知ってるんですか?」
「ん? だって・・・・ じゃなくて、えっと・・・・・。」
「ひょっとして未来のオレ、あんたに家を売ったの? 近々、手放そうと思ってるから。」
「駄目だっ! ここにはサクモさんの思い出がある。 絶対そんなことしちゃいけない!」

あまりの迫力に押された。 あんなにビービー泣いてた男が、オレに説教か?! 余計な御世話だ。
男のセクハラを三代目にチクらなかった。 感謝はされても、怒られる筋合いはない。
気を取り直して、黙らせようとしたが、男の目を見てオレが黙ってしまった。 なんだその目は。
なんだ、その泣きそうな面は。 なんで怒ってるあんたが、泣きそうになってんだヨ。 調子狂う・・・。

「・・・・・・ま、あんたとテンゾウが来たから、その予定はなくなったけどネ・・・・。」
「よかった・・・・。 あ、何か作るよ。 テキトーに材料買ってきて? 俺は掃除して・・・。」
「「・・・影分身の術っ!!」」
「・・・・・あはははは、やっぱり凄いなふたりは。 影分身か! さすがっ!」

ほとんど帰らないから、家の中は埃だらけだ。 一人で掃除なんかしてたら日が暮れる。
オレと同じ事を思ったらしいテンゾウも、影分身を出した。 買い物係と掃除係に分担した方が早い。
男は泣いたり、怒ったり、笑ったり、感心したり・・・・ 忍びのくせに、すごく感情表現が豊かだ。
この男に成長する、今のイルカのコトが、少し気になった。 どんな下忍なんだろう?




「忍者アカデミーの先生なんですか?」
「な、なんで・・・・ 俺、ポロッと言っちゃった??」
「自分で“アカデミーの会議室”って言ってたじゃない。」
「そうだね、そうだった。 よく覚えてたね、うん。 アカデミー教師だよ。」

手分けしたら、あっと言う間に掃除が終わり、人が住める家になった。 必要品の買い出しも全て終了。
男はアカデミーの先生だから、イルカ先生と呼ぶことにする。 火影様は未来のコトを話すなと言った。
先のコトを今の時代の人間が知ったら、未来が変わってしまう、いっさい口外してはならない、と。
何が起ころうとも、全ては先に繋がる伏線、決して変えてはいけない摂理がある、とも。

「三代目は・・・・ イルカ先生のいた未来には、もう死んじゃってるの?」
「あー・・・うん、夢だと思ったから、思いっきり泣いちゃった。 バレバレだよね・・・・」
「ご自身もきっと感じたと思います。 だから先の事を言うなと、念を押したんでしょう。」
「・・・・変えちゃ・・・いけない摂理か・・・・ 苦しいよ、知ってて何も出来ないなんて。」

イルカ先生が吐き出すように洩らしたその言葉は、オレの心につき刺さった。 同じだったから。
死ぬと知っていても、送り出さなきゃならなかった四代目、クシナさん。 オレ達は何も出来なかった。
テンゾウもまったく同じコトを思い出しているんだろう、拳に力が入ったのがわかった。
イルカ先生は、オレ達の目を見て笑った。 “全部、知ってるよ” という顔で、優しく微笑んだ。

「・・・・不思議な人だネ、イルカ先生。 オレ達のコト、何でも知ってるって顔してる。」
「何も言ってないのに・・・・ まいったなぁ、観察力がずば抜けてる。 勘もイイし・・・」
「単にイルカ先生が、わかりやすいんだと思います。 滲みでてますから、感情が。」
「未来の事は話さないけど、ふたりがどう解釈するかまでは責任持てないな、これじゃ。 ふふふ。」

ホントに調子が狂う。 テンゾウも、こんなに打ち解けて話すなんて、始めてかもしれない。
それに・・・・ なんだろう、オレ達のコトをすごく・・・・・ すごく大事に思ってるようだ。
だってほら、目が。 イルカ先生は目を合わせる度に微笑む。 “大好き” そう言ってるみたいに。
オレにさり気なくセクハラしたくせに。 悪いと思ってない、きっと。 天然のセクハラ魔王だ。