時の歯車 6
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イルカ先生が来てから一週間。 何日か前、任務に行くと言ったけど、今度はオレ達が拒否した。
なんか・・・・ 先生を暗部の中に置いておくのが心配になった。 この人は誤解を招きかねない。
こんな感じで暗部の隊員に接したら、その気があるのだと思われて、間違いなくヤラれちゃう。
無意識なんだろうけど、柔らかく肩を抱いたり、手の甲をそっとなでたり。 先生の手はなぜか優しい。
「・・・・・あのさ、イルカ先生。 なんでそんなに嬉しそうなの?」
「ん? 嬉しそうだった? あ、まあ、そうだね。 ふふふふ。」
「いつもそんな感じで笑いますよね・・・・ 勘違いされちゃいますよ?」
「勘違い? 何と間違えるんだ?」
「「わかってない・・・・。」」
任務に同行出来ないのならと、先生は三代目のお世話を申し出た。 里に少しでも貢献したいそうだ。
三代目なら事情を知っているから安心。 誤解を招きそうな微笑みも、軽く流すだろうし。
火影屋敷に出入りするようになって、イルカ先生は水を得た魚の様に、それはもう生き生きとしてる。
一緒にいられるコトが楽しいらしい。 それはそうだろう、再び逢えない人だと、知っているから。
イルカ先生は三代目のお手伝い、オレ達は暗部の任務へ、が馴染んできた時、突然平穏が崩れた。
「お前・・・・ どこの里の者だ? コイツらを手なずけて、何が目的だ。」
「っつ・・・・・。 うぅ・・・・・・。」
「 部隊長?! 」
「 イルカ先生っ! 」
暗部部隊長が瞬身で現れ、イルカ先生を拘束。 先生の頸動脈にクナイがピタリと当てられている。
まずい・・・・ あの殺気は、間違いなく敵の潜入員だと思ってる。 何をどう説明すればいい?
里が不安定な今の状況じゃ、聞く耳を持ってもらえない。 せめて部隊長には話しておけばよかった。
信じる要素・・・・ オレ達は火影様が断言したから、イルカ先生が別の時軸から来た人だと信じた。
部隊長が信頼する人物、三代目の口から直接、説明してもらう他ない。 オレは忍犬を口寄せした。
「ウーヘイ、すぐに三代目を呼んで来いっ! 頼んだぞっ?!」
「お前達が標的なんだ。 コレは暗部内で処理する。 火影様の手を煩わせるんじゃないっ!」
「 やめて下さい部隊長! その人は敵じゃありません!! 」
「何を聞かされた? ・・・・・コイツはウチの、木の葉隠れの忍びじゃない。 騙されるな。」
「 くそっ、イルカ先生っ!! 」
殺気だった部隊長は、オレ達がどう言ったところで、敵に騙されていると思い込んでいる・・・・
確かに、部隊長補佐になりたての若造、木遁使いの新人、他里のターゲットにされてもおかしくはない。
でもオレ達は、そこまで馬鹿じゃないヨ? 敵の間者を見抜けないほど、間抜けなガキじゃない。
部隊長のコトはもちろん信頼しているケド、いつまでも新補佐扱いや、新人扱いはしないで欲しい。
「もう、三代目に知らせましたっ! クナイをどけて下さいっっ!!」
「そんなことで、おれの補佐が勤まると思ってるのか?! 自分の尻は自分で拭くんだ、いいな?!」
「部隊長っ!! ボク達は騙されている訳じゃありませんっ!!」
「・・・・・あなた、俺を敵と決めつける前に、自分の部下の言動を、信じたらどうです?」
先生の首筋に、赤い線が出来た。 皮一枚で止めてあったクナイに、声の振動が伝わったからだ。
皮膚が切れ、薄っすらと血が滲んできたのに、イルカ先生は話しを続ける。 なんて無茶なコトを!!
部隊長の目を、面越しにジッと見つめている姿は、今まで見たコトもないほど強いものだった。
「俺、どう見てもあなたより弱いでしょう? ただの中忍一人、いつでも殺せるじゃありませんか。
俺は逃げも隠れもしません。 なら、ふたりの話ぐらい聞いてあげても良いんじゃないですか?
あなたが部下を信じないで、自分は部下に信じてもらえると・・・・ 本気で思ってるんですか?」
号泣したり、セクハラしたり、優しく微笑んだり・・・・ そんなイルカ先生が部隊長に説教してる。
一歩も引かないといった態度で、淡々と語られる言葉は、道理が通ったしっかりしたものだった。
この人は忍者アカデミーの先生。 忍びのタマゴに道理を教える教師なんだと、こんな時に思い知った。
オレ達忍びは、皆が里の武器。 イルカ先生は、その武器を探して磨き上げるひとなんだと。