時の歯車 14
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イルカ先生がいなくなって、今日で三カ月。 記憶の中で過去のオレ達は、ちゃんと見送っている。
ミナト先生たちの術が、いくら凄くても、元々その世界での転送を、目的としていたようだからネ。
未来から呼び寄せられたイルカ先生が、過去と同じ期間で戻るとは限らないと、予想はしていた。
運が良ければ次の日戻ってくるかも・・・・ なんて、甘い期待をしたコトもあった。 でも・・・・・
「おう、そろいもそろって、ボーっとしてやがんな。 あの時の冷静さはどうした?」
「アスマ。 うん、ちょっとヘコんでる。 だってさ、もう三カ月だヨ。」
「イルカ欠乏症で、もう乾きまくってます。 潤いが恋しい・・・・。」
「そんなあなた達の為に、プレゼントよ? ジャーン! これ見て?」
さすがのオレ達も、今は膝を抱えて、この慰霊碑にもたれかかってるダケ。 先生、遅いヨ・・・・
なんかいつの間にか、アスマと紅がオレ達の前にいた。 ゴメーンね、気付かなくて。
紅がオレ達に持って来たのは、一冊のアルバム。 三代目が生前、アスマに預けたそうだ。
始めは、なんでこんなのをおれが預かるんだ、とか思ってたらしい。 本人に渡せばイイじゃないかと。
「このアルバムは、来るべき時が来たら渡せ、ってアスマが預かってたんだって。」
「アカデミー長に預けると、ホイホイ渡してしまうから、お前が預かって時期を待て、ってな?」
「アタシ、この中を見てみたの。 そしたらイルカが山盛り! ね? 時期って今でしょ??」
「お前達が平静でいる内は、多分その時期じゃないなと、おれなりに解釈したっつー訳だ。」
ホントだ・・・・・ イルカ先生だ・・・・・ オレ達がただ、見ているコトしかできなかった頃の。
三代目がこの日の為に、オレ達に用意しておいてくれた、10年分のイルカ先生の記録アルバム。
確かにアカデミー長に預けたら、事情を知ってるあの人のコト、すぐオレ達に手渡しただろう。
全く関係ない第三者の方が、その時期を冷静に判断する。 それが自分の息子なら更に、信頼できる。
三代目・・・・ こんなの、いつ撮ってたんですか? オレ達全然、気付きませんでしたよ・・・・。
「あ! 先輩、ココんとこ見て下さい。」
「ん? ・・・・・おお?? チョッと待て、コレ全部、ひょっとしたら・・・・」
「そうか!! ・・・・・あははは、本当だ!! ここにも!」
「うわー、 怪しいな、コレ。 はははは、コレなんか、幽霊みたいだヨ!!」
「・・・・・なんか、ムチャクチャ元気になったわね・・・・ ってか、子供みたい??」
「おれたちの判断は正しかった、ってことだ。 今が“来るべき時”そうなんだろ、親父?」
ただの10年間の、イルカ先生のアルバムじゃなかった。 オレ達3人のアルバムだったんだ。
被写体はイルカ先生だけど、どの写真にもオレ達が映り込んでいた。 イルカ先生と同じ写真の中に。
オレ達はいつも、遠くからイルカを見守っていた。 映ってても不思議じゃない。 凄くちっちゃいケド。
三代目は、オレ達がイルカを見守ってるコトを、知ってて撮ったんだ。 そして残してくれた・・・・
「ありがと、アスマ、紅。 すっごーく、潤っちゃったっ!」
「あははは! ええ、もうしばらく、耐えられそうです。」
「そうか、そりゃ、よかった。 ・・・・おい、紅。 帰るぞ?」
「エー? アタシ達も一緒にやりましょうよ“暗部を探せ!”みたいで面白そうじゃない?」
「いいんだよ! そりゃ、こいつらの楽しみなんだから、取ってやるな。」
「・・・・うふふ、わかった。 あ、お礼は “ズブロッカの52°” でいいから。」
「紅!! な、なに言ってんだ! 気にしなくていいぞ、このアルバムは・・・・」
「“ズブロッカの52°”ネ? バッチリ、任しといて?」
「アスマさんには“マッカランの18年モノ”を差し入れますよ!」
「う・・・・ マッカランの18年モノ・・・・。」
「じゃあ、ヨロシクッ! イルカが帰ってきたらすぐに届けてね? ホラ、行くわよ、アスマ!」
「い、いや、そう言う事じゃなくてだな・・・・。」
ふふふ、最初は亭主関白かなって思ってたケド。 アスマ、しっかり紅の尻に敷かれてるー、ははは。
アイツらも結構、里のベストカップル的な存在感だけど、オレ達3人にはかなわないヨ?
そりゃ正式に付き合いだしたのは三年前だけど、なんてったって、知り合った年期が違うからネ。
写真のどこにオレ達がいるのか、発見するたびに笑える。 戻ったら、先生にも見せてあげよう。