時の歯車 3
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木の葉の額当てを着けていたので、ウチの忍びだと判断し、その男を火影室に連れて行った。
例え敵で、その罠であっても、今は意識を失っているこの男の方が、困ったことになるだろう。
肩からぶら下げたままの男に、三代目は少し考え込んでいたが、やがて何かを感じ取った。
どうやら、知っている木の葉の忍びだったらしい。 それにしても、時空間忍術とは驚きだ。
「三代目、信じられません。 ミナト先生以外に、時空間忍術を扱う者がいたなんて・・・・」
「どれ、この者は、ワシの屋敷に連れ帰ることにし・・・・ おお、気が付いたか、イルカ。」
「・・・・・・あ、あれ? 俺アカデミーの会議室で・・・・」
「イルカ? この人の名前ですか、それ。 顔に似合わず、可愛らしい名前ですね。」
ベストを着用しているから、中忍以上の忍びだ。 三代目が引き取ろうとしたら、男が目を覚ました。
アカデミーの会議室? ・・・・オレの肩に担がれていながら、ずいぶん平和な目覚めの台詞だ。
“イルカ”と三代目に呼ばれた男は、テンゾウのその言葉に素早く反応して、オレの肩から飛び起きた。
「テンゾウさんっ! 名前のコトはお互い言いっこなしで・・・・・ え? どういうコト??」
「あなた・・・・ ボクの名前を知っているんですか?」
「あ・・・・あ、あ、んた・・・・今 、ナニを・・・・」
「え? カカシさん・・・・・も・・・・?! あ、そうか、コレ夢? なんてリアルな・・・・」
あまりの事にフリーズした。 飛び起きる一瞬、男はオレの耳に軽く口づけたんだ。 なんだ?!
しかも人の首と腰を支えにして、トンッと起き上った。 その手は柔らかいモノを扱う様に優しい。
テンゾウの名前どころか、オレの名前まで知ってる。 まあ、確かにオレらはある意味で有名人だ。
でも男が口から発した呼び方は、親しみがこもっていた。 さも近しい人のように話す。
「イルカ、夢ではないぞ?」
「!!!! 三代目? 嘘だ・・・・ 三代目なんですかっ?! 嘘だ、じっちゃん!! 」
「コ・・・コラ、イルカ、離さぬか。 ・・・・ワシを窒息させる気か?」
「ううううっぅぅうぅぅ、じっちゃん!! ううううああっっ・・・ ひっ、・・うぅぅ・・」
「・・・・イルカや、これは夢ではない、わかるか? 温かいチャクラを感じるじゃろ?」
オレにさりげなくセクハラした男は、今度は火がついたように泣きだした。 三代目火影にしがみついて。
木の葉のベストを着けた大人の忍びが、声をあげて泣く姿を始めて見た。 テンゾウも驚いている。
アカデミーとか何とか言ってたから、教員なのかもしれない。 こんな先生で、大丈夫かアカデミー。
三代目になだめられ、ようやく落ち着いてきたようだ。 けど三代目の袖を持ったまま、放そうとしない。
仕方ないから、火影様はそのまま話を始めた。 オレ達にも聞くようにと、前置きして。
「ココにおるイルカは、おそらく未来から来た、木の葉の忍びじゃ。」
「?! 未来から?? それは・・・・どういう・・・・・」
「時空間忍術と申しておったな? お主たちがミナトの術を見間違えるはずがない。」
「この人が使ったんじゃないとすると、一体誰が、何のために??」
「まだわからん。 じゃが、こ奴はワシの知っておるイルカと同じチャクラをしておる。」
三代目が言うには、今のイルカという忍びは下忍で、テンゾウと同じ年だというコトだ。
九尾事件で両親を亡くし、三代目がしばらく預かっていたそうだ。 “じっちゃん”は、だからなのか。
木の葉隠れの火影に向かって、あまりに無礼なふるまいだと思った。 きっとこの男のいた時代では、
三代目は亡くなってしまったのだと、あの態度でわかる。 まだその目には、涙が浮かんでいた。
「俺・・・・・ 過去に来ちゃったんですか? コレは現実の出来事? ぐすっ・・・・」
「今、お主がなぜこの時代に来たのか。 心当たりはあるか?」
「うぅ・・・・ アカデミーの会議室にいたんです。 ひっく、それだけしか・・・・ すみません。」
「・・・・あんたが自分の意志で来たんじゃないなら、謝る必要はない。」
「・・・・悪い事した訳じゃあるまいし。 あなたの方が被害者でしょう?」
「ありがと・・・・ うぅ・・・ やっぱり優しいや・・・・ ぐす・・・・。」
思わず言ってしまった。 オレより年上なはずの忍びが、いつまでたっても泣きやまないから。
それは横にいたテンゾウも同じだったみたい。 コイツが誰かの肩を持つなんて、珍しい。
三代目は、そんなテンゾウを微笑ましく思ったようで、テンゾウの家にイルカを住まわせると言った。
だが、オレは異議を唱える。 あの男がオレにしたコトは、立派なセクハラだから、絶対ダメ!
何が“優しい”だ。 テンゾウをこんな手癖の悪い男とひとつ屋根の下に居させる訳にはいかない。