首輪を握る者 1   ABC DEF GHI JKL MN




ただいま。 俺、やっぱりロマンスには縁遠いよ。 俺が欲しいのは生を感じる人の体温だ。
男は俗物だからどうしたって肌で感じたい。 心と頭は全くの別物、俺自身がそれを一番知ってる。
はっきり言って綺麗な思い出なんて今でもいらないよ。 死の間際で思い出したいのは人肌なんだ。

所詮俺は男で、お前らがよく言っていた “最強ペットちゃん” も、今では専用の首輪つきだぞ?
誰にどんな抱き方をされても。 そんなもん、一気に吹き飛ぶぐらいの二つの腕がただ恋しかった。
正確に言うと四本の腕。 あの二人の腕に抱かれる度、今死んでもいいと思う。 恋心は凄いよ。
二人は皆が尊敬する忍びだ、なのにそんな忍びの体温だけが目当てで帰ってきた俺って、最低だな?




「彼女達へ報告が先ですか。 恋人は二の次なんだね? 淋しいなあ、ふふ。」
「先に火影室に報告に行きなって、モウ! 誰かに捕縛されても知らないヨ?」
「テンゾウさん、カカシさん・・・・」

「うみの中忍、お帰り。 そろそろかな、と思ってたよ。」
「首が届いた、って聞いてたからネ。 ・・・・お帰り、うみの中忍。」
「只今・・・・ 戻りました。」

いつもながらどこにいたのか全然分からなかった。 慰霊碑で帰還報告をしていると現れた二人。
これはもう習慣だから変えようがない。 カカシさんもテンゾウさんもよく慰霊碑に来てる。
忍びで、死に別れた人がいない方が珍しい。 二人も個別に墓の前にいるのを知ってるよ、俺。
そう、知ってるんだ。 リアリストの俺なんかよりも、ずっと深い情を持っているという事も。

「オレもマンセル仲間によく話しかけるヨ。 アイツらの目になるって約束したしネー。」
「ボクはなんと言えばいいのか分かりませんが・・・・ しいて言えば赤ん坊仲間かな?」
「・・・・くすっ! 話を逸らすのが上手いですね、潜入員も真っ青です。」
「「まあ・・・・・・ ね?」」

カカシさんはオレと同じく、下忍の頃から組んでたスリーマンセル仲間に今を報告してる。
テンゾウさんが言った赤ん坊仲間とは、死んでしまった他の実験体の事だろう? 知ってるよ。
何もかも教えてくれたじゃないか。 話を逸らしてヤツ当たりしない様にしてるんだね・・・・

自分達は二の次で淋しいだの、捕縛されないか心配だの言ったけど、それは信じてくれてた証。
俺を信じて待っててくれた。 任務に就く前と、何ら変わりない様な態度で接してくれたんだ。
三日前、三代目に任務は成功したと聞いたはず。 でも時間がかかり過ぎても何も聞かない。

里に連絡を入れなかった訳、チャクラも封印したままの三日間、どこで何をしていたんだと。
すぐに話を逸らした事といい、とことんまで紳士だ。 普通は質問攻めにするところだろ? ここ。

木の葉の暗部、四天王と呼ばれるほどの忍び。 その立場なら任務に横やりを入れる事も出来た。
何が起こってるのか知る権利があると、現場に乗り込んで来て干渉するのは容易だったはず。
けれどそうしなかったのは、何も言わなくても任務と関係がある事だと信じてくれたからだ。
嬉しいけど、でも。 ここまで理解力のある優秀な忍びを独占してていいのか、少し気後れするよ。


「・・・・・何があったか聞かないんですか?」
「「・・・・・・・・・。」」
「対象以外と寝て来ました、俺。 責めないんですか?」
「まさか。 身を守る為なんでショ? むしろ・・・・」
「うみの中忍、ひょっとしてボク達を誤解してる?」

「誤解・・・・?」
「ワザと話を逸らしたのは寛大だから、じゃないヨ?」
「・・・・・どういう・・・・」
「殺気が漏れない様に必死で抑えてるだけなんだけど?」
「?!」

「オレ達、そこまでデキタ人間じゃないヨ。 フフ!」
「やっぱりね? そんな事だろうと思った。 ふふ!」
「まーた。 そんなに嬉しそうにしちゃって・・・ どうなの、その顔。」
「ボク達の殺気を感じて嬉しいの? 本物のマゾなんじゃないですか?」

「これって・・・・・ 抑えきれてない・・・ 負の感情・・・・」
「あのね。 当然でしょう、今すぐ殺してやりたいよ、知らない誰かさんを。」
「くす! 誰かさんを狩ったら。 里間の交渉の話も全部ぶち壊しですけど?」
「ソコが問題なの。 うみの中忍が手に入れた首を無駄にしちゃうじゃない。」

「「だから抑えるのに必死。」」
「・・・・・・・こんなのって・・・・。」


俺だけが俗物的な熱を求めている訳じゃなかった。 どんな時も冷静沈着なこの二人が・・・・・
全てを分かってくれる紳士的な態度は本物、でもその裏にこんな恐ろしい狂気を隠してた事が嬉しい。
優秀な二人を中忍が独占してていいのか気後れする? 馬鹿だろ俺。 この狂気こそ、俺に相応しい。
後でたっぷりその体に聞いてやる、そう言わんばかりのこの怒気・・・・ 一気に体が熱くなる。

「・・・・・っっ!! カカシさんっ! テンゾウさんっ!」
「・・・・ハイハイ、オレ達に夢見過ぎだってーの。」
「・・・この殺気・・・・ 俺だけの首輪だ・・・・」
「やっぱりマゾだね。 ボク達は正真正銘のサドですが。」

命が懸ってたら別、けれどもし自分達以外の男を心の中に入れたら、生きながらこの首を落とすよ。
生命維持できる様に臓器を全部巻物の中に移して。 その首と臓器の巻物は鉢に活けるつもり。
口づけは毎日してあげる。 でも任務で扮している青年と同じく本当に言葉を奪ってやるからね、と。

そう言ったんだよ、二人が。 ・・・・そうかも。 俺、本物のマゾかも。 この二人の狂気が心地いい。