首輪を握る者 3   @AC DEF GHI JKL MN




「オレを殺しに来たのがお前とは・・・・。」
「・・・・・生きていたんだな、サクヤ。」
「トキワ、里の追い忍ではないのか?」
「ああ、違う。 おれしかお前の存在に気付いていない。 本人かどうか確認・・・・・」

「っつ! 待てって! 早まるなっ!! 今ここで殺りあったらどちらも無傷じゃすまないっ!!」
「・・・・・お前の口を封じれば、オレの生存を知る者はいない。 そうだろう?」
「サクヤもしかして・・・・・ 傷を負うと悲しませる相手がいるんじゃないか?」
「・・・・・・・・・・・だったらどうだと言うんだ。」

「おれはあの時の借りを返しに来た、助けてくれた時の借りを。 だから誰にも喋らない。」
「・・・・・・・・・・・。」
「だが他の誰かに知られる前に、この町を出た方がいい。」
「・・・・・・・。 町の真ん中の池にある、大きな蓮を知ってるか?」

「ああ、わりと有名だからな。 デッカい葉っぱの蓮だろ?」
「好きなんだ、アイツが。 あの葉っぱの上に時々甲羅干しに来る銭亀を見るのが。」
「問答無用でおれの口を封じようとした原因は・・・ それか。」
「・・・・すまん。 だから、あの蓮池の見える場所で暮らしていたいんだ、アイツと。」


分かった、おれは何も見なかった事にする。 お前が生きていたと分かっただけで、良かったよ。
お前はおれの命の恩人、あの時助けてくれた事は今でも忘れない。 だから里からの情報を流してやる。
この町の方面に、お前の顔を知っている仲間が任務に就く時は知らせる。 出歩くなよ、分かったな?

そう言ったら、サクヤは無言で頭を下げた。 どうやら滑り出しは上々の様だ。 まずは信用させる事。




思った通り、サクヤは愛する者を囲っていた。 あいつがこの町に留まっている理由も分かった。
だがおれの予想とは、かけ離れた人物像で驚いたが。 デビュー 一歩手前の、いわゆる商売者。
なんでも、そういう志向の店の前を行ったり来たりしてたそうだ。 その店に身売りする覚悟で。

おれも含めて、忍びはサディストが多い。 まれに正反対のマゾヒストもいるが、本当にごく過少。
そういう店とは、おれ達忍びの欲求を満たしてくれる店の事だ。 手荒い扱いを容認する娼館。
性的思考は千差万別だ。 需要と供給の問題で、買い手が多いからそういう商売が成り立っている。
おれ達忍びは何事にもイーブンを好み、里外の歓楽街で遊ぶ事が多い。 当然娼館もその中にある。

サクヤはそこへ女を買いに行き、金も出さず唯で商売者を連れ帰って来た。 それがあの男、セン。
顔を横一線する傷痕があったから、センと名付けたと言っていた。 本人も気に入っているらしい。
どの女とも長続きしなかった男が、名を与えて囲っていたのは同じ男。 訳有りの商売者崩れだった。




サクヤはおれを信用している。 おれがちょこちょこ里からの情報を横流ししてるからだ。
全部はサクヤの大切にしてる男、センを捕える為だ。 だが本人にはまだ会った事がなかった。
男に、センによほど入れ込んでいるらしい。 信用しきっているおれにさえ見せないのだから。

だが焦る事はない。 忍びだった男、それも暗殺部隊にいた男が、堅気の職に就ける訳がない。
今でも手を血に染めながら仕事をしているだろう。 案の定、おれに頼み事をしてきた。
サクヤは自分が不在の間、センを見張っててくれと言った。 正確にはセンを囲ってる部屋を。

やっとセンの顔を拝める。 部屋を見張っててくれと言われたが、入るなとは言われていない。
せっかく築いた信用が台無しだ、抵抗されては元も子もない。 快く里に連れて行かなければ。
サクヤと二人で幸せに暮らせると信じ込ませるんだ。 その後上層部がどう動くかは知らせずに。


「セン、入っていいか? おれはサクヤにあんたの事を頼まれたトキワだ。」
「・・・・・・・・・。」
「大丈夫だ、警戒しなくていい。 サクヤからおれの話は聞いてるだろう?」
「・・・・・・・・・・。」
「自己紹介ぐらい自分でさせてくれると嬉しい。」


カチャリとチェーンを外す音が聞こえた。 だがドアにはうかつに触れない、でないと何が起こるか。
恐らくサクヤの事だ、防犯用に結界を施しているに違いないからな。 中から招き入れれば別だ。
だからこうやって中にいるセンがドアを開けてくれれば、おれは何の問題もなく部屋に入れる。

・・・・はじめまして、セン。 あんたの話は聞いてるよ。 おれはサクヤと同じ忍び、トキワだ。
暗部のおれがその名を名乗り挨拶をしたというのに。 センは何も言わずにほほ笑むだけ。 ・・・?
更にはいきなりおれの腕をとり、どうぞとジェスチャーをした。 口が・・・ きけないのか?


「セン、あんた声が・・・・・・」
「んー ・・・・ あぁーーー ううぅーーーーー 」
「そうか。 声は出るんだな? ・・・・まさかとは思うが・・・・ サクヤがやったのか?」
「ぅうぅうううーーーっっ!!!」

自分の生存を知られない為に言葉を奪う事は考えられる。 だがセンはさっきの笑顔から一変した。
一般人の、それも商売者崩れの拳など痛くも痒くもないが。 パシパシとおれの胸を叩いている。
それでもあの人の友達なのかと。 そんな事あの人がする訳ないでしょう?! と、咎める様に。

その通りだ友達じゃない、あいつを騙しているからな。 まるでおれの計画が見透かされた気がした。
ごめん、そんな訳はないな。 疑うのは職業病だ、許してくれと謝ったら、すぐに笑顔に戻った。
言葉が話せないせいか、センは表情が豊かで。 書くより早いのか、スキンシップ表現も多い。

サクヤの話をする度にほほ笑み、その顔と行動で表現してくれる。 いかに自分が今が幸せなのかを。
センを安心させて柔軟するはずの足がかりになる初対面で・・・・ おれの方が柔軟されてしまった。