首輪を握る者 7
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潜入員が掴んできた情報から、情報分析部は俺を呼んだ。 小鳩〈こばと〉の里の元暗部を狩れと。
小鳩の里、名前はどことなく可愛らしいが戦争請負を売りとしている、どの国にも属さない里。
当然、暗殺部隊も充実しているし、情報網を独自に持っている、なかなかに強かな忍びの里だ。
敵に回すと厄介だが味方につけると楽、そういう里に恩を売る口実が作れるこのチャンスを生かす。
その男の首を手に、小鳩の里の忍びをも騙していた裏切り者を始末しておきましたよ、と恩を売る。
どこの隠れ里も他里に借りを作るのが嫌いだからね。 木の葉に借りを返すまでは敵に回らないだろ?
なんでもあの里では戦死したと報告されていた暗部らしい。 死を偽装して里抜けしたんだな。
でも壁に耳あり障子に目あり、ウチの潜入員は木の葉のビンゴブックに載っていたその男を見つけた。
そこで最強ペット君の俺の出番だ。 死んだと思わせて安心しきっているだろう男に飼われに行く。
でもまさか第三者が絡んでくるとは思わなかったよ。 しかもその第三者は現役の暗部の男。
まあ・・・・ これぐらいでボロを出すようじゃ、木の葉の潜入部隊、暗殺工作員としては失格だけど。
なんとかしないと。 まず俺とサクヤの間に割り込んで来た男、トキワの目的を探らないと。
滑り出しは上々。 あるSMグラブの店の前で考え込んでいた俺の頭を覗き、引っかかってくれた。
嬉しい、こんなに俺の事を満たしてくれる人は他にはいない、同じ忍びでもあの人とは大違いだ・・・・
死んでもあの世で絶対に俺を見つけて下さいと、頭で繰り返しながらサクヤにその思いを覗かせる。
縛られる事に喜びを感じ、サクヤの激しい愛を感じて幸福感に浸る、ありがとうと感謝しながら。
そんな偽りの毎日を送っているある日、トキワの話が出る。 唯一信用できる男だと俺に語った。
昔、危なかった時に助けた事を恩だと感じてくれている奴だと。 ・・・・・嘘だと直感で思った。
だって暗部だろ? 今も現役の。 かたや、里とそんな仲間を騙してのうのうと生きている元暗部。
殺しの業にとっとと背を向けた者を仲間とは思ってないよ、絶対。 暗殺部隊の忍びなら尚更に。
この場合は二通り考えられる。 本当にそんなお人好しの男か、計算高く忍耐強い男か、のどちらか。
・・・・現役の暗部だ。 逃げないで戦い続けてる忍び、優しいだけの男が、生き残れるはずがない。
カカシさんやテンゾウさんもそうだ、戦い続けてる。 忍耐強く俺の気持ちの変化を待っててくれた。
驚くほど紳士的でお互いを信頼し合ってる優しい男達は、あの二人だけ。 二人が特別なだけだ。
話だけじゃなく、実物とついに対面した。 サクヤは自分の留守を任せるほどに信頼しているらしい。
信用しすぎだ、馬鹿。 仮にも元暗部だろ! 内心そう思ったけど、これでトキワの目的が探れる。
俺の頭に入っている記憶は三代目の心潜術。 影級の忍びでもなけりゃ、偽物だと見抜けない。
案の定、トキワも俺の作る至極の空間を気に入ってくれた。 サクヤが大切に囲っているセンも。
サクヤさんの事を助けてくれる友人、とても優しい人、サクヤさんと同じで強く立派な忍びだ。
トキワが来る度にそう思わせた。 三代目の心潜術のおかげで、俺本来の思考は記憶に残らない。
サクヤが感じ取っているのもトキワが感じ取っているのも、センという理想のペットの思考。
現役の暗部は先入観を持たず冷静で、忍耐強い忍び。 自分と相手との力の違いを客観的に判断する。
全部俺が実感した事だ、現役の暗部にはかなわないと。 考えろ、トキワの本当の目的は・・・・・。
もしトキワがサクヤより強い忍びなら、とっくに二人とも殺されてる。 裏切り者とその情人だから。
そうか、その逆だ! 実力が同等か下なら安全策を取る、逃がさない様に、つかず離れず待つ。
小鳩の里の暗部 トキワは待っているんだ。 俺と同じく自分を信用して相手が隙を作る瞬間を。
このままだとサクヤの首は小鳩の里のものだ。 木の葉の切り札として使えないし、俺も殺られる。
任務は失敗した挙句、俺も死ぬだと? 冗談だろ、三代目にもあいつらにも顔向けできない。
同じ様な計略が同時進行しているなら、先に動いた方が勝ち。 俺はくたばらない、先手必勝だ。
現役暗部と騙し合いをするのは初めてだけど、俺は二人の体温を感じる為に、必ず生きて里に帰る。
「・・・・セン。 ごめんな。 帰る前にお前に謝っておくよ。」
「・・・・・?」
「さっきサクヤに話したんだ。 ・・・一応用心しておけと。」
「・・・・・ぅ。」
「 “覚悟してるから大丈夫” ・・・・・そうか、そうだったな。 とにかく、ごめんな?」
・・・知っているよ、聞いてたから。 サクヤに不安を植え付けたんだろ、殺せる隙を作る為に。
逃がすふりをして仲間を待機させて囲むとか、里に戻っていいぞと、見え透いた嘘をつくとか。
あんたを信用しきってるサクヤとセンなら、なんの疑問も持たず背中を預けるはずだからね。
銭亀の甲羅干しを見るのが大好きなセン、俺が蓮池を気に入ってるから、サクヤはこの町を出ない。
なら待つしかないもんな。 頼める友人はお前だけ、一緒に殺してくれとサクヤが言い出すのを。
じっと忍耐強く待っていたのは、この為だろ? 分かるよ、あんたは現役のしかも優秀な暗部だ。
・・・・・だから俺は先手を打つよ。 あんたの嘘に誘い出されて殺される訳にはいかない。
もう一度、カカシさんとテンゾウさんに抱いてもらうんだよ、俺は。 確かに暗部は嘘が上手。
でも13才のあの時に俺は悟ったんだ。 それだけはないな、と思わせた奴が一枚上手なんだと。
サクヤは絶対に俺を殺せない、そこまでセンに依存しまくってる。 そこが逃げた忍びの弱さだ。
二人の熱くて優しい腕が恋しい、俺が感じるのは二人の愛撫だけ。 サクヤに抱かれている時もね。