首輪を握る者 13
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俺がセンっぽさを出せば出すだけ、トキワは虚しくなる。 センのいない現実を突きつけられて。
それを感じるからこそ、彼は優秀な忍び。 現実と向き合える強さ、乗り越える強さを持っている。
トキワより先に動いて心底ほっとした。 だって彼はセンを拉致するつもりだったんだから。
忍亀さんの仕事の早さとは関係なく、そんな事になってたら、俺は二度と二人に会えない所だった。
一歩でも出遅れたら・・・ 翌日すぐに行動していなければ俺は・・・・。 正直ゾッとしたよ。
カカシさんやテンゾウさんと同じ、現役の暗部には到底適わない。 運がよかっただけだ、本当に。
三代目の心潜術のおかげで、相手に読ませる思考と読ませない思考、頭の記憶は出し入れ自由。
ドクドクと騒ぎ出した心音に、雁字搦めにしてくれるトキワの束縛が嬉しいと心で答えて誤魔化す。
そういう態度に徹した。 でないと、俺の心の底の震えが伝わってしまっただろうと思うから。
あのなぁ。 そんな危ない事、思ってても口走るなよ。 運動中だからなんとか誤魔化せたけどな。
急に早鐘を打った心臓も、縛られて入れられてる今だからこそ、不審に思われずに済んだんだ。
潜入中はこの記憶の箱があるから、俺の思考は敵を欺ける。 でも心音までは・・・・ ね?
センとしてのこの反応でより一層深く貫かれ、俺の体はただトキワが与える快感だけを拾った。
・・・・・手足の腱を切って監禁したい、あの言葉に心が震えたのは、怖かったからじゃない。
だってトキワは、そんな事絶対に出来ないと知ってるから。 彼は小鳩の里が誇る暗殺部隊の忍び。
本来の彼はこうなんだ、いや彼だけじゃなく。 暗部と呼ばれる忍びは皆、残虐性を秘めているんだ。
二人に二度と会えなかったかもしれないと思った時に感じた、背筋が凍る様な恐怖じゃない。
分かる? なんで俺の心臓が騒ぎ出し心が震えたか。 歓喜だよ、嬉しかったから、なんだ。
俺は任務で交わっている時、相手に読まれない思考の方で、二人を思いながら抱かれていた。
しかも俺の狩りの対象である抜け忍じゃなく、彼は現役の暗部。 出し抜けない所も二人に近い。
もしこれがカカシさんとテンゾウさんの言葉なら。 そう思ったら跳ねあがったんだよ、心拍数が。
トキワは本当にそうだろう。 義理堅く優しい立派な忍び、この印象はきっと間違っていない。
ウチの里の暗部もそうだから。 でもそんな優秀なはずの忍びが垣間見せた残虐性に、心が震えた。
暗殺工作員のセンとしてでなく、中忍うみのイルカとして。 トキワに二人を重ねていたからだ。
そしてハッキリと自覚した。 俺は二人にならそうやって縛られてもいい、殺されてもいいと思ってる。
トキワは朝方までセンを放そうとしなかった。 多分この体の痕は、4〜5日消えないかもしれない。
あと一日。 もう一日トキワと過ごしたら木の葉の里に帰れる。 カカシさんとテンゾウさんの元へ。
・・・・・・・・なんだ? 俺は今目覚めたんだけど・・・・ あんた、寝てなかったのか??
俺の起床を確認して、トキワは俺の首の紐を解いた。 一昨日からこの紐だけは解かなかったのに。
この部屋にあった、まだ未使用の紐。 サクヤがセンを縛ったのではない、真っ新の赤い紐。
「センに新しい首輪を買ってやるつもりだったんだ、おれ。 これはその代用品だった。」
「・・・・・・ぅ?」
「ありがとう。 もういいよ、センのフリは止めてくれ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
驚いた。 どういう風の吹き回しだ? 明日を待たずに今日で終わりとは。 だってあんなに・・・・
術の効果は三日で切れると言ったが、そんなのは全くのデタラメ。 術もクソも、元々俺だし。
ただ、この忍びなら三日もあれば気持ちの整理がつくな、と俺が思っただけ。 という事は・・・・?
・・・・そうか。 分かってたけど。 やっぱりこの人は・・・・ もの凄く優秀な忍びだよ。
「まだあと一日ありますが・・・ それでも?」
「降参する。 全面降伏だ、完敗。 ・・・・・このままじゃ確実にあんたを拉致る。」
「・・・・・・・・・・・。 それは・・・・・。」
「分かってるよ、だから白旗だ。 木の葉に総攻撃されたら、ウチの里なんかひとたまりもない。」
・・・・だからやめろって。 さすがは現役暗部だ、またもや恐ろしい事を真顔で言った。
でもちゃんと、自身がとるであろう行動を冷静に見つめるもう一つの眼を、内に置いているんだ。
自分がそうならない為にはどうしたらいいかという判断力と、それを実行に移す決断力がある。
任せて下さい、百年の恋を一時で覚ましますから。 綺麗サッパリと現実へお戻ししますよ。
「ふふふ。 賢明なご判断ですよ、トキワ上忍?」
「・・・・・・・うわー いや、分かってたけど。 まるで別人だな、あんた。」
「くすっ! どうやら・・・・・・ とってもご満足いただけたようで?」
「満足どころの騒ぎじゃないぞ? ・・・・・・昨日のあの言葉は、おれの本音だ。」
「・・・・・でもあなたはそこまで馬鹿じゃない。」
「ああ。 だからあんたから出て行ってくれ。 おれには無理だから。」
「分かりました。 ・・・・・・でも後ろからバッサリ、は止めて下さいね?」
「あはは、するかよ! ほんと、つくづくセンとは違う。 くすくすくす・・・・」
そうだろ? 普通は疑うもんだからな。 実は両方俺なんだけど、とは口が裂けても言えない。
サクヤは気だるそうに片肘を枕にしてる。 俺の首に巻いてあった赤い紐をその手に巻きつけて。
ベッドの上、下半身だけにシーツが掛かってる姿を見れば、そこらの女は間違いなく欲情するよ。
俺にだって恋心を見つける事が出来たんだ。 あんただって、その腕に抱く人をみつけられる。
こんな魅力的な男、女がほっとかないだろう。 恋心の方から迎えに来るんじゃないか?