首輪を握る者 8
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用心しろ、とサクヤの不安を煽った。 アイツはあの小さな懸念からあらゆる事を想定するだろう。
そして不安になり思い詰める。 センはいつでも自分と一緒に死んでくれる、それならばいっそ、と。
だがあいつにセンを殺せる気概はない。 性的興奮を得る為に縛りを楽しみはするが、それだけだ。
おれ達忍びが相手をいたぶって楽しいと思えるのは、対象が生きているからで、その反応が楽しい。
稀に殺しそのものを楽しむ奴もいるが、そういう奴は壊れてしまった連中。 生者とは関われない。
そこまで堕ちてしまった忍びに待っているのは、悲しむ者が誰もいない孤独な死、だけだ。
里の仲間から疎まれ、敵からも軽視される。 センの様に、一緒に死にたいなどと思う者もいない。
センが気に入っているからこの町を出ない、自分の手でも殺せない、ならば残された道は一つ。
二人の事情を一番理解している友人に任務を依頼する事。 おあつらえ向きにその男は暗部だ。
そう、このおれに正式な暗殺任務を依頼するしかない。 センと一緒に自分を殺してくれと。
人殺しの業から逃げるのは敗者、諦め癖がついている負け犬。 だから奴は自分から生を放棄する。
明日か、明後日か、もう少し先か。 サクヤは追い詰められればそういう楽な道をとる、必ず。
二人一緒に首を跳ねてくれとか。 二人一緒に貫いてくれとか。 その後全部燃やしてくれ、とか。
一般人がよくやる心中の様に、赤い紐でお互いの体を縛り、抱き合ったまま死ぬのを希望するかもな。
どんな希望でも聞いてやるよ、殺されてくれるなら。 おれは暗部だ、仕損じる事は絶対にない。
寸止めなんて余裕だ。 お前だけを確実に仕留めて、センの体には傷一つつけない自信がある。
確かにお前は優秀な忍びだったよ、おれ達を裏切るまでは。 里長もその力を惜しむほどにな。
仲間から犠牲を出してまで狩る必要はないが、無傷で確実に狩れるというのなら話は違う。
一度里を裏切った忍びの力など、もう必要ない。 裏切り者には死を、それが忍びの掟だ。
後は任務依頼を待つだけ。 友人として最後に頼みたい事がある、とサクヤが言い出すのを。
サクヤの後を追おうとするだろうな。 でもおれがさせないよ、センを騙すなんて簡単だから。
センと違って、おれは忍び、しかも暗部だ。 お前を傍に置けるならどんな嘘でもつき通すよ。
そうだ、センに新しい紐と首輪を買ってやろう。 柄にもなく心が躍る、どうしてくれるんだ。
もうすぐお前をおれのものに出来るから。 あの嘘のない心地のいい空間を、おれだけのものに。
「お呼びでしょうか、長。」
「トキワ、例のサクヤの件だが・・・・」
「上々ですよ。 後は最後の連絡待ちです。」
「・・・・そうではない、狩る必要がなくなった。」
「っ?! どういう事ですか?! サクヤはおれが・・・・」
「今しがた、木の葉隠れの里から書簡が届いた。」
「木の葉・・・・ どうして木の葉が?!」
「偶然ある町で発見したそうだ。 “小鳩の里の死人”を。」
「・・・・・・・・・。」
そうだ、サクヤは戦死したと公表された。 もちろん里の慰霊碑には、今もその名が刻まれたまま。
他国のビンゴブックからは除外され、首にかかった賞金は、各国のお偉いさんの手元にそれぞれ戻る。
おれがあの町で偶然サクヤを発見した様に、木の葉の諜報員もまた、偶然発見したという事だ。
既に削除されたとはいえ手配書に載っていたんだ、他里の草の記憶からは抹消できないだろう。
「・・・それで木の葉は・・・ なんと?」
「 “これも何かの縁、御里を欺いた裏切り者は始末しておきます。 楽しみに首を待たれよ” 」
「はっ! 何が・・・・ これも何かの縁、だ! 恩着せがましい奴らめ!」
「だが、一人の犠牲も出さず始末をつけられるなら、それに越したことはない。」
「そんなっ! 長、おれに任せると言ってくれたじゃないですかっ!」
「仕損じれば死ぬのは木の葉の忍び。 高みの見物・・・・ これが里としての判断だ。」
「それは・・・・・。 はい、長の意向は理解出来ます。」
「木の葉はウチがサクヤの生存を知らぬと思っているのだ、まずはあちらのお手並み拝見といこう。」
「・・・・・これならいけると・・・・ せっかく罠を仕掛けたのに・・・・・」
「名も知らぬ木の葉の忍びがどうなろうと構わん。 だがトキワ、万一にもお前を失う訳にはいかない。」
「・・・・・・・・。」
違うっ! サクヤはどうでもいい! そんなもの・・・ 首を落とした手柄など木の葉にくれてやる!
おれが欲しいのはセンだ、サクヤが囲っていたサクヤの弱み。 もうすぐおれのものになるはずの。
・・・・木の葉はもう刺客を送り込んだのか? だったらセンは・・・・ センが殺されてしまう!
「我里の悩みの種が労せずして一つ減るならば・・・・」
「長っ! 木の葉はもう動いているのでしょうか?!」
「? ああ、書簡には確か・・・ “狩り専門の手練れの者を送った”とあったぞ?」
「くそっ!! 長、今迄の働きに免じてどうか、数日の休暇を下さい!」
「ト、トキワッ! 待てっ!! 木の葉と事を構えるなっ!!!」
「分かってますっ!! ただおれは・・・・・ くっ! ・・・・・失礼しますっ!!」
長は先ほど書簡が届いたと言った。 もし上手くいけば、町まで先回りできるかもしれない。
予定通りにおれがサクヤを殺し、そして遅れて来た木の葉の刺客にサクヤの首を渡すんだ。
書簡を送った木の葉に恥をかかせる訳にはいかないからな、と。 そうすれば着せる恩などない。
自分の首はやる、だからこの男と一緒に殺してくれ、と刺客に遺言するサクヤの姿が頭に浮かぶよ。
狩り専門の刺客とやらの到着がまだな事を願うばかりだ。 頼む・・・・・ セン、無事でいろっ!