首輪を握る者 4   @AB DEF GHI JKL MN




サクヤはセンの人柄について何も語らなかった。 ただ体の相性がいいのだと、そう言っていた。
センは束縛されるのが好きらしい。 紐で縛ってやると喜ぶんだそうだ、そういう体質だと。
なるほど、おれ達忍びにはおあつらえ向きの相手だ。 しかも女と違って丈夫で月のモノもない。
抱きたい時に好きなだけ抱けるお気に入りのペットの様なものか、そう思っていたんだ。


確かに具合はいいだろうが、ただの従属型の生奴隷に、あいつが入れ込む訳がないと思ったよ。
サクヤほどではないが、おれも少しなら心潜術を扱える。 覗いてみたんだ、センの記憶を。
きっとサクヤはもっと確かな情報を引き出したんだろう、だから連れ帰って来たんだな・・・・・

おれが記憶を覗こうとおでこに手をやったら、センはほほ笑みながら目を閉じてじっとしていた。
頭を覗かれるのを怖がらない。 むしろ、長々書くよりも早いから覗いて下さいという様な態度で。
きっとサクヤもよくセンの頭を覗いているのだろう。 癖なのか、もう片方のおれの手を握った。

おれが見たのはセンの断片的な記憶の欠片。 そういう体質になった訳も、言葉を失くした訳も。
なんとなくだけど読めた。 サクヤとの記憶も垣間見た、センの頭の中にたくさんあったから。
センの中ではもう、恐ろしい目に合った悲しい記憶より、サクヤとの幸せな記憶の方が多い。

こうしていると嫌でも分かる。 センは隠し事をしないんだ、覗かれて困る事が何もないから。
おれの手のひらが、センの記憶を拾う。 もう片方の手からはセンの幸せという感情が入ってきた。
・・・・なあサクヤ。 この男はお前がいなくなったら・・・・ 死んでしまうかもしれないぞ?

またセンに怖い思いをさせる事になる。 彼の言葉を奪い、性癖を植え付けた男の様に力ずくで。
一緒にいたいと願っていただけのセンの気持ちを無視して。 おまけに今度は足かせにされる。
センを里に連れて行けば、間違いなくサクヤの首輪にされるから。 少しだけこの男に同情した。

「・・・・セン。 サクヤに出会えてよかったな?」
「・・・・・っ、ふっ。」
「くす! その嬉しそうな顔をみればよくわかるよ。」

センはとろけそうな顔でほほ笑んだ。 あの人が俺の全て、他には何もいらない、そんな瞳で。
この感情が全部本物だから心地いい。 ほとんどの人間は言葉と心は違う、おれ達忍びは特に。
センが伝えてくる無意識の喜びの気が、おれの手から流れてくる。 同時にサクヤとの記憶も。

「・・・・・そうか。 昨日は一杯縛ってもらったんだな?」
「?! ぁあぅぅぅ・・・・ っっ!!!」
「ははは! ごめん、これは見る気はなかったんだ、勝手に入って来た。 ・・・気持ちよかった?」
「ぅぁぁぅ・・・・ んー んっ。」

とたんにまたパシパシと叩かれた。 くすくすくす! おい、サクヤ。 お前、ちゃんと躾けろよ。
はいはい、降参。 センいいか? おれやサクヤ以外の忍びに殴りかかっちゃダメだぞ?
そんな事分かってますっ! きっと言葉を話せたらこう言っただろうな。 なんて心地のいい空間。


この男の感情には嘘がないんだ・・・・・ 言葉を使わなくても態度や表情で全てわかる。
気持ちよかったかと聞いたら、センはモジモジとしながら膝を抱えた。 コテンと膝に顔を預けて。
サクヤがいない事を実感してるんだ。 昨日の夜を思い出して・・・・ 余計に淋しくなったんだな。

「・・・・おれがサクヤに変化して縛ってやろうか?」
「?! ぅぁううあぅううぅ!」
「冗談だよ、そんなに怖がるな。 そんな事しょうものなら、サクヤに殺されちまうよ。」
「・・・・ぅ!」

しまった、早まった。 目の前にいるのはおれなのに、サクヤの事しか頭にないらしいセン。
どこそこの里の誰々に変化して〜 とか。 遊女達なら大喜びで強請ってくるからつい・・・・・。
あんまり淋しそうだったから、歓楽街のノリで提案してしまったよ。 センは違うのに。

でもまあ、この時の記憶をサクヤが後で知ったとしても、いつのもノリだと思ってもらえる。
・・・・・・しかしとっさに口から出た言葉は本物だ。 この男を抱いてみたいという欲望は。
サクヤとセンに信用してもらい、里に連れて行くのがおれの任務。 余計な色気は出さぬが吉だ。


「明日には戻ってくるからな? それまではおれがセンのお守だ。 忍びが無料奉仕だぞ?」
「ぅぅぅ! ぁぅぅっ!」
「ははは! 大丈夫だ、報酬はちゃんと考えてある。」
「・・・・・・・・??」
「セン、悪いんだけど、にわかボデイガードさんの為に飯をご馳走してくれる?」
「っ!! っんっ!」

お安いご用です、と言わんばかりに台所に向かったセン。 これならお前も文句をつけられないだろ?
部屋に入るなとは言わなかったんだから。 お前の事ばかりを考えているセンと過ごしただけだ。
サクヤ、センの作る飯は美味いな? このおれが何のためらいもなく口に入れてしまったよ。