首輪を握る者 5   @AB CEF GHI JKL MN




次の日仕事から戻ってきたサクヤにしっかりと釘をさされたよ。 ああいう冗談は二度と言うなと。
でも部屋に入った事はお咎めなしだった。 センの惚気にも似た気が嬉しかったのかもしれない。
センの惚気はおれに聞かせる為の自慢じゃなく本心。 おれは浮気テストみたいなもんだ。
自分と違う男が目の前にいるのに、センの心は変わらない。 それを実感できるからだろう。

あれ以来、二人は完全に信用してくれる様になった。 サクヤが家を空ける時は留守を頼まれる。
相変わらず頭の中はサクヤで一杯のセンも、おれが行けば歓迎してくれる。 サクヤの友人として。


センを抱いてみたいとか、そういう肉欲の部分ももちろんおれの中にあったが、それよりも。
表情と変わらない心、嘘のない空間がたまらなく心地よかった。 センは言葉を発しないから。

唯一辛いのは“トキワさんはとても義理堅く立派な忍び”と思っているセンの気と心の声だ。
昼間っから白粉の匂いをさせて行った時は、少しがっかりしたっけ。 その通りだったんだが・・・・
“トキワさん、今日は遊んできたんだ”としか思っていないセンの本心を感じ取って。
時折、そうやって感じる辛さや淋しさが、まだこの時のおれにはどんな感情か分かっていなかった。




もうそろそろ話を切り出してもいいだろう。 何をどういう風に伝えればいいか、ずっと考えていた。
そこで思いついたのが、センがおれの情人だと里に思われている、という話。 もちろん嘘だ。

どうやら誰かにつけられた様だ、そいつが勘違いしてトキワが男を囲っているらしいと報告した。
度々留守を任されいる、行き先が同じで会っている人物も同じ、そう思われても仕方がないと。
サクヤの存在はまだ知られていないが、このままいけば間違いなく生きていると里に知られる。
そうなったらサクヤは追われてしまう、当然サクヤの本物の情人であるセンも狩りの対象になると。

サクヤに先に話すより、嘘がつけないセンに伝える。 センの感情からおれの気持ちを読めるはず。
二人の事を必死で守ろうとしている義理堅い友人の姿を。 そうすればサクヤはおれの話を聞く。
そして決断するはずだ、追われて生きるより里に戻ってセンとの暮らしを続ける事を選ぶ。


「・・・・・・?」
「・・・・ああ、ごめんセン。 考え事をしていた。」
「っ、ぅぅ・・・?」
「はは、違う違う。 サクヤの仕事に問題がある訳じゃないよ。」
「ふー。」
「くす! センは本当にサクヤの事しか頭にないんだな? ははは!」
「・・・・・ん!」

「・・・・・・・・・・。 なあ、セン。 おれ、変な誤解をされてるみたいなんだ。」
「?」
「ほら、よく、サクヤに頼まれてここに来るだろ? それを勘ぐった奴がいてな・・・」
「ぅう? っっぃ?」
「そうだ。 ・・・・・・おれがセンを囲ってると思われてる。」


いや、今はまだそう思われてるだけなんだが。 ここを知られたという事が問題なんだよ。
センはサクヤから、あいつが元忍びだと教えてもらっただろう? だからあいつには敵がいる。
もしその敵にここを嗅ぎつけられたら。 分かるか? サクヤだけじゃなくセンも危険なんだ。

こう言えばセンは二人の将来が不安になり、おれを頼ってくる。 そしてサクヤに泣きつくはず。
だがその意に反してセンは静かに泣きだした。 でも泣いているのに、不安じゃ・・・・ ない?
センから伝わってくる感情は幸福感。 でも泣いているという事は悲しいからなんだろう?

「セン・・・・・ お前・・・・ 嬉しいのか?」
「・・・・ぐす・・・・ っ、っっ・・・・。」
「・・・・・そうか。 一緒に逝けるから・・・・・ 嬉しいのか。」
「ぅっ・・・・。」

簡単な事だと思った。 ちょっとセンを不安にさせて、サクヤに里へ戻る決心をさせるだけだ。
センに泣きつかれたサクヤなら、必ずおれの言葉に耳を傾ける。 おれと長の提案を受け入れる。
説得を試みるのがおれの任務、センが洗脳されようが呪印を施されようが、おれのせいじゃない。
死を偽装してまで里を抜け、一人だけ業の苦しみから逃れたサクヤ。 里の飼い犬になればいいと。


なのにおれは・・・・ “サクヤが戻ったら、二人で町を出ろ”気づいたらこう言っていた。
二人を上手い具合に言い包めて、里へ連れて行くだけの簡単な説得任務なのに。 逃がしてどうする!
サクヤが生存している事はおれが既に報告している。 例え逃がしても追われる事に変わりはない。

寧ろ、おれが説得に失敗したら今度は強硬手段に訴えるだろう。 サクヤの弱みも報告済みだから。
つまり、センがサクヤの首輪になると里は知っているんだ。 力ずくでセンを拉致するだろう。
そして里から離れられない様に処置を施して、サクヤの力を利用する。 里の為に働くんだ、と。

・・・・・おれはサクヤの為に逃がそうと思ったわけじゃない。 あいつは里を抜けた裏切り者だ。
なのにこんなことを口走ったのは、センに悲しい思いをさせたくないからだ。 そうか、おれは・・・・。