真実を抱きしめる 8   @AB CDE FHI JKL MN




イルカ先生が依頼人と色々会話をしていてくれたおかげで、様々なコトが見えてきた。 ある仮説も浮ぶ。
外に出さないのは、血液提供者の健康を心配してのコトじゃない。 単純に、外に出られては困るからだ。
今回の依頼人の妹だけじゃない、きっとその施設にいる血液提供者全員がそうだ。 同意の上の軟禁生活。

本人に連絡ができる、書類上も問題なし、金銭取引も。 本来なら誰も何も不思議に思わなかっただろう。
全て本人の同意書があって、その本人の口から直接聞いているコトだ。 写真の配達もちゃんとあった。
ただ依頼人が、家族の前でよくやっていた、ありのままの妹の写真が欲しいと、そう願っただけ。
そう願わなければ。 ただおしとやかに微笑む写真で満足していれば、今回のコトは発覚しなかった。

つまり、それだけ完璧に世の中に溶け込んでいる施設だというコト。 この火の国の中に溶け込んでる。
洗脳、ウチの忍びが弾かれた結界、誰にも悟らせない存在。 どう考えても、忍びが絡んでいる証拠だヨ。
先生も言ってたネ、そんな環境は想像つかないってサ。 出来過ぎた話には必ず裏があるもんなんだよネ。




「・・・・札に弾かれた奴らが言うには、血液センターに張ってある結界札は二枚重ねじゃったらしい。」
「なら一枚は木の葉の結界札でダミー用。 もう一枚は、他里の結界札、という事になりますね。」
「火の製薬に確認してみたんじゃが・・・・・ 火の製薬グループには、血液センターは存在せんらしい。」
「と言うコトは。 他里の奴らが火の国の民を使って、ナニかの人体実験を行っているトカ?」



オレ達が先生のミスだと思って受付に行ってる間、シカクさんがかなり情報収集してくれてたらしい。
今回のコトは、木の葉の里のお得意様の老舗企業、火の製薬と何の関わりもない全くの別の施設だった。
火の製薬グループだと言えば、火の国の民の信用を得られる。 この国では一番大きな製薬会社だから。

星の数ほど子会社がある、そのうちの一つだと名乗ったところで証人は箱の中だ、発覚するコトはない。
おそらく、火の製薬関係者となんらかの繋がりのある家庭からは、提供者の採用を行わなかったはずだ。
提供者の募集は中流層から。 大企業の名を出されれば、それだけで舞い上がってしまうような一般人。
もし本人が死亡しても、世の中の為に役立ったんだと納得せざるを得ない状況を作り出しているんだヨ。

シカクさんが予想した通り、コレはただの盗撮依頼では済まなくなった。 暗部の手を借りるほどの依頼。
本人の同意があって契約が交されているなら、悪質だが取引というコトになる。 ・・・・でもここは火の国。
どこの国の隠れ里か知らないけど、自国の民を使ってやれヨ! 他国の民だから平気? ふざけんな!


「今回の依頼は盗撮、よって先に先行した中忍二名に依頼料は支払うモノとする。」
「「はい、賛成です。」」
「・・・・・お主達にはワシからの勅命じゃ。 アズサ、カオル、おるかっ!」
「呼んだかい、親父様。」
「・・・・・ここに。」

ホラネ? 三代目もそうとう怒ってるヨ。 その血液センターを潰す為に、カオルとアズサを呼んだもん。
オレ達四人に行けってサ。 暗部の部隊長四人を向かわせるってコトは、今から即、潰してこいってコト。
でもテンゾウとオレだけでも大丈夫だと思うケド。 ・・・・なんだろう、まだナニかあるのかな・・・・?
三代目がここまで怒ってるのは、久しぶりだヨ。 怒ってる・・・・? 違うな、憤って・・・・ る??

「・・・・今から言う事は、右から左に流せ。 国主に知られてはならん。 よいか。」
「「「「・・・・・はい。」」」」


「そこまで巧妙な洗脳なら“根”の可能性が濃厚じゃ。 もしそうなら相手は同じ木の葉の忍び。」
「「志村・・・ ダンゾウか・・・・・。」」
「本人はもちろん、家族の同意もあって血液提供をしておる。 そこに契約がある以上干渉は出来ん。」
「「・・・・・・あいつ。」」

「・・・・いかな理由があろうとも、洗脳は本人の意思ではない。 よってワシは計画を阻止する。」
「「・・・・・承知。」」
「新興の隠れ里の忍びに、火の国の民が人体実験の為に使われておった。 表向きはそうしておく。」
「「・・・・御意。」」

「洗脳された被験者の更生は、木の葉の責任において全て里で行うものとする。 人命保護を優先せよ。」
「「「「かしこまりまして。」」」」
「暗殺戦術特殊部隊 四部隊長。 これより血液センターに出向き施設を抹消せよ!  ・・・・・散!!」




ははは、まいったネ。 コレも・・・・ ヤツお得意の、里の為というヤツか。 ・・・・どうりで。
ここまでうまく国に溶け込んでたワケだ。 根の可能性が濃厚? イヤ、三代目はおそらく確信してる。
オレ達四人を向かわせたのは、迅速に潰す為だけじゃない。 三代目は危惧しているんだヨ、人命を。
先日、木の葉の忍びが結界札に弾かれたコトは、ヤツにも既に情報が伝わってるはずだからネ・・・・。

「飛んでいくのが一番速い。 光太郎を呼ぶよ。 アンタ達、振り落とされない様にしな?」
「・・・・・ん? おれ達も乗せてくれるのか。 落ちる心配はないが・・・・・」
「・・・・・念の為、ボク達変化しましょうか? 無機質の何かに・・・・・」
「ま、この面子を見れば、緊急事態だってわかるでショ。 それにアズサが一緒だしネ?」


地を走るより空を飛ぶ方が速い。 光太郎はアズサの口寄せ獣、巨大隼だ。 光の速さで飛ぶと言っていい。
移動速度なら、この光太郎の右に出る獣は地上に存在しないヨ。 アズサも隼に変化するけど比じゃない。
ただし。 ただの鳥じゃない、口寄せ獣だ。 とんでもない肉食獣。 己が目に映る生物を獲物と認識する。

どうやってこんな恐ろしい鳥を手懐けたんだと聞いたら、アズサは死後、自分を喰っていいと言ったらしい。
契約をかけて戦って、自分の足元にひれ伏したハヤブサに。 光太郎はその勝者の驕りのない態度に惚れた。
だからアズサの言には忠実だ。 ・・・・・アズサが制止しなければ暗部の隊員でも獲物。 襲ってくるのヨ。

「アハハ! 心配ない、アンタ達なら覚えているよ。 ・・・・・・口寄せの術っ!! 来い、光太郎っ!!」
「来てやったぞ、アズサ。 ・・・・・・・・・相変わらず不味そうだな、お前達。」
「光太郎、間違っても食うなよ?」
「ははは・・・・・ 冗談だ。 暗部四天王は食わん。 乗れ。」

「「「・・・・・・・・。」」」



あの男が全ての証拠を消す前に。 せめてイルカ先生が話した依頼人の妹だけでも・・・・ 生きていて欲しい。
羽に埋もれていなければ、目も口も開けていられなかったかもしれない。 息も出来なかっただろう。
時速約200キロで飛ぶ隼。 その親玉ともいえる巨大隼 光太郎の羽の裏に吸着して、オレ達は大空を駆けた。