優しい獣達 11
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『子供って可愛いですよね!』と、あれからボク達のイルカ先生は忍者アカデミーの教員を目指した。
子供に読み書きを教えていたら、先生になりたくなったそうだ。 そして19歳で実習生に。
その頃か。 ボク達に、無茶苦茶な提案をして来た多岐中忍が、イルカ先生と会話したのって。
確かに、その時のイルカ先生との会話に、誇りを持っただろう。 そして、支えにもなったはず。
『どう逆立ちしても、女の心の強さに俺達男は、かなわないよ』 それはあの時に実感しただろう言葉。
先生の何気ない言葉じゃないんだ、あれは・・・・ くのいちの仕事を、心底理解して言った言葉だ。
やっと着いた雷の国。 そして・・・・・ やっとその顔が拝めた。 あの時の、霧隠れの上忍。
「・・・・コイツのせいで、ボク達のイルカ先生は・・・・ クソッ!」
「ヤマト!! まだ殺すな! ・・・・オレも死ぬほど我慢してる。」
多岐中忍、本当に男は女にはかなわないんだ。 男は・・・・・ ボク達のイルカ先生は、壊れた。
でも三代目が元に戻す方法を教えてくれたんだよ。 だからボク達は、コイツをずっと探してた。
あの日を終わらせる為に。 そのせいでカカシ先輩もボクも、よくチャクラ切れでぶっ倒れたけどね。
もう明日から、その心配はいらなくなる。 だってコイツを殺したら、ボク達の全てが元通りだ。
「あの時、水の国まで追うか、宿で戻りを待つか、を選択してればよかったって、悔やんでたヨ。」
「頑張ったサギリを、早く里に連れて帰りたい一心でしたから。 諦めがつくと思ってましたし。」
「なんのコトかわからない? オレ達をいつ怒らせたかなんて考えてる? 不思議そうだネ。」
「あはははは! そうか、そうでした。 コイツはイルカ先生が誰か、わからないんだった!」
『こんな事なんてなんでもない、里のくのいちはもっと酷い目に合ってる、これもね立派な武器なんですよ』
あの後、そう眩しい笑顔で、ボク達に心から感謝したイルカ先生。 ボクより弱い忍びを強いと思った。
こんな強い光に照らされたら、闇の中を生きてるボク達は、あっという間に丸裸にされてしまう。
ああそうか、そういうのはお前が一番よく知ってるよね。 だってサギリをずっと探してたんだから。
「よし、これでコイツのチャクラを全て封印した。 あ、手足の運動神経、麻痺させなきゃ。」
「ボクの木遁で連れて帰るのは、もう勘弁して下さい。 殺してしまいそうになる・・・・。」
「いいヨ、ブルに運ばせるから。 ・・・・・口寄せの術!! ブル、コイツ乗っけてやって。」
「あ? なんだ野郎か、色気ないな。 ・・・・おい、意識がしっかりしてるぞ、暴れないか?」
「それは心配ありません。 木の葉の里まで、一緒について来て下さいね。 とばしますよ?」
サギリを守ってくれと、陽公家の若殿が任務依頼してきてね、霧忍が自分を探してる事を知ったんだ。
それからだ、イルカ先生に終わらない日が始まったのは。 抱こうとするとあの日に、サギリに戻る。
霧忍が自分を探してる事を知ったイルカ先生は、サギリにならなければと、無意識に自己暗示をかける。
あの時のように、うみのイルカを心に沈めていはいない。 だから・・・・・ 感情はそのまま。
『霧の上忍ふたり。 生きて帰るには自己暗示しかないな。 三代目なら俺を見つけてくれるし。』
『イ、イルカ先生?! ナニ言ってんの? ちょっと!』
『俺は雷の国出身、小さい頃忍界大戦で肉親を皆亡くした、修行中の板前。 今は陽公様の城にいる。』
『イルカ先生!? なんの冗談ですか、しっかりして下さい!』
イルカ先生はあの時のうみのイルカに戻る。 サギリに徹する為に自分を意識下に沈めた、潜入部隊の忍びに。
表情も・しぐさも全てがイルカ先生じゃない。 あの時のサギリのモノだ。 けど、口から出る言葉は。
本来なら心の底に沈んでいるはずの、あの時の“うみのイルカ”のモノ。 イルカ先生はあの日に戻った。
強制的に眠らせたけど、次の日、目を覚ましても先生はそのままで。 ボク達は三代目を呼んだ。
『・・・・・イルカは誰の呼びかけにも答えん。 イルカの中では、あの日が再現されとる。』
『そんな・・・・ イルカ先生は・・・・・ ずっとこのままなんですかっ?!』
『同じ事を再現し、イルカに助けが来たと、わからせるのじゃ。 さすればあるいは・・・・。』
『再現?! あの日をですか?! あんな・・・・ イルカ先生にあんなコトしろっていうの?!』
『ナルトの事もある、イルカには・・・・ 元に戻ってもらわねばならん。 わかるな?』
『『・・・・・・・。』』
イルカ先生に目隠し、あの時の様に性拷問を施した。 あの快楽地獄から助け出したはずのボク達が。
その間、ずっとイルカ先生は戦ってた。 ボク達に言ってる訳じゃないのはわかってる。 けど・・・・。
心の中にいた自分はそうしていたんだろう、霧忍を罵倒する言葉が、イルカ先生の口から次々と飛び出す。
『は、バカじゃねーの?! 男の体に夢中になってんじゃねーよ!』
『俺は木の葉の潜入員なんだ、残念だったね。 後で仲間が助けにくるんだよっ!』
『上忍が中忍に絡め取られてどうすんだ。 木の葉隠れには、そんな間抜けはいないよ?』
『体? そんなモンいくらだってくれてやる。 これは俺の入れ物なだけ、本当の俺は此処にいる!』
『こんなコトで俺が思い通りになると? 木の葉の潜入員を舐めんじゃねーよっ!!』
『うわ、暗部だ!! まさか暗部が動いてくれたの?! へへ、俺頑張ったでしょ? 生きてますよ!』
『ありがとうございます、きっと来てくれると信じてました、木の葉隠れは仲間を絶対見捨てないから。』
半日の拷問の後、ボク達は暗部になってイルカ先生を助ける。 自作自演なのに、何度も感謝された。
あの時こうやって一人で戦っていたイルカ先生に欲情したなんて。 面の中であふれる涙は、何に対してか。
面を取り、ごめんネ、ゴメンなさい、と震える手で抱きしめた。 そうしてやっと、今のイルカ先生に戻る。
イルカ先生は何も覚えておらず、“優しい獣が爪を立てただけ、全然平気ですよこんなの”と笑った。