優しい獣達 3
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イルカ先生はこれから、年少クラスのクナイ実習があるから絶対抜けられない。 私はただの実習生。
どの授業に参加してもいい。 それはつまり、少し抜けても誰にも迷惑をかけない、ということ。
案の定、授業開始の鐘がなる。 イルカ先生は振り向きざま “そ、そういうプレイだから!”と叫んだ。
何それ、ムカつくっ! デリカシーない空気読め男のくせに。 私に生きる誇りを持たせてくれたくせに。
“はいはい、ご馳走様です”両手をあげて降参のポーズ。 私がバカをやらないか心配なんだろう。
何の心配かって? 決まってる、里のエリート上忍に喧嘩を売らないかどうか、心配なんでしょ?
イルカ先生がチラチラ振り返りながら、職員室を出て行った。 うん、その心配は当たってる。
・・・・・先生の気配が遠くなった。 これから私が行くところはひとつ。 そう、上忍待機所だ。
「失礼しますっ! カカシ上忍、ヤマト上忍、お時間作って頂けませんか?」
「わぉ、多岐中忍、目の保養だv カカシもヤマトも美味しそうだけど、食あたりおこすよ?」
「うー 中忍くのいちトップのミコトちゃんまで・・・ このタラシども!! 世の中不公平だ!」
「ハイ、そこ。 ひがまないの。 多岐中忍はオレ達に話があるんだって。」
「あはは、まったくね? 多岐中忍、アカデミーは今抜けてても、大丈夫なんですか?」
「はい、問題はありません。 おふたりにどうしても確認したい事があって。」
「ん。 アカデミーの裏山に行く? すぐ校舎に戻れるし、今の時間ならひと気もないしネ。」
「そうですね、そうしましょう。 あ、皆さん、お聞きの通りです、ボク達少し抜けますね。」
・・・・・これだ。 私の事を心配してるんだ? このさり気ない優しさに、今まで騙されていた。
あ〜あ。 里のエリートもやっぱり、一皮むけば獰猛な獣か。 ちょっと夢見てたな、バカみたいだけど。
穏やかに大切な人との時間を慈しむ。 修羅の道を歩もうと、その欠片も感じさせない、そんな雰囲気。
イルカ先生の横にいるこの人達は、まさにそんな理想の忍びの姿だと、私が勝手に思ってただけ、か。
「きーーーっっ!! なんだあの紳士的な態度! イイ男オーラ出しまくりやがって!」
「・・・・・あー、 だからモテんじゃないの? 少なくとも、飢えてる風には見えないから。」
「きーーーっっ!! おれにも女よこせーーーっっっ!! できれば行動がカワイくて、尽くすタイプv」
「・・・・・・・里のくのいちに一体何求めてんだ、おまえ。」
今から私が言う言葉に、どんな言葉が返ってくるのかな? どんな巧妙な言い訳をするつもり?
それとも、私を脅す? 真実を知った私が火影様に言うと、イルカ先生は取り上げられちゃうもんね?
個人的趣味、ソレも性生活に、他人が口をはさむなんてホント馬鹿げてる。 でもすごく悔しい。
私があの時諦めず生き残れたのは、ペーペーの教員実習生との会話を思い出したから。 イルカ先生との。
「お忙しいのに、わざわざお時間を作って頂いて、まずは、ありがとうございます。」
「まずは? んー、出来れば手短にお願いネ?」
「ボク達暇そうに見えて、暇じゃないんです。」
「・・・・・・イルカ先生に、もっと優しい別の恋人、見つけてあげてイイですか?」
うわっ! 結構キツイ。 もの凄い殺気が絡みつく。 でも本気で殺す気なら、こんなもんじゃない。
さすが、木の葉の暗部の部隊長クラス。 赤土の里の暗部と対峙した時と、比べ物にならない。
カカシさんの片目が、先の言葉を要求してる。 何か訳があるなら聞いてやる、そんな感じ。
「別れろなんて言ってません。 もうひとり恋人を増やしたらどうか、そう提案してるんです。」
「多岐中忍。 何か勘違いしてるようだけど、カカシ先輩はボクしか認めない。 ボクも同じだ。」
「・・・・・オレさ、まどろっこしいのは好きじゃないのヨ。 何でそんな提案持ちかけたの?」
「性的拷問を強要する恋人じゃなく、大切に抱く恋人がイルカ先生にはいた方がイイかな、って。」
ちょっとだけ冷静に対処してたふたりの顔色が変わった。 なんで知ってるんだ、って思ってるでしょ?
私は二年前の体験を話した。 赤土の里の暗部に捕縛され、性的拷問を受け、洗脳寸前までいった事を。
そしてその時支えになったのが、里の仲間や火影様との思い出、当時のイルカ先生との何気ない会話。
今の私が立ってられるのは、イルカ先生のあの言葉があったから。 誇り高い忍びとして戻ってこれた。
「だからすぐにわかったんです。 イルカ先生の体のアザが何なのか。」
「・・・・・・イルカ先生はなんて言ってた? アンタの性格だと、先に先生に言ってるよネ?」
「ええ。 先生曰く、同意の上の、そういうプレイなんだそうですね。」
「・・・・・・イルカ先生が・・・・・ そう言ったんですか?」
なにこの意外な反応。 ひょっとして、毎回その後で後悔して泣いて謝ってる、とか言わないでね?
もしそうなら、いい加減にしろ、だ。 甘えてんじゃないわ、木の葉の暗部の部隊長ともあろう者が。
本性を現して逆切れするとばかり思ってた。 どんな脅しにも屈しない、そう踏ん張ってたのに。
私自身は残念ながら、イルカ先生とはそういう関係にはなれない。 それが出来れば一番いいんだけど。
私の中の誇りを見つけてくれた、大切なヒトだから。 そのまま思い出として、この心に残しておきたい。
そしてもっと残念なのは、一度男に溺れてしまった者は、二度と女を抱けない。 快楽を知ってるから。
きっともうイルカ先生は、女も男も抱けない。 抱かれなければ満足出来ない体になってると思う。
「だから決めました。 イルカ先生に、優しく抱く恋人を見つけてあげよう、って。 ほんのご恩返しです。」
「・・・・・・・大きなお世話。 馬に蹴られて死んじゃうヨ?」
「イルカ先生が同意と言ったなら、その通りです。 煙がないのに火を起こすつもりですか?」
「別れなくてイイと言ったじゃないですか。 ・・・・・獣じゃない恋人が増えるだけですよ。」
「・・・・・例えもの凄い手柄を立てたくのいちでも。 オレ達のコトには口出し無用。」
「・・・・・・ボク達以外に、イルカ先生の恋人は必要ありません。 押し売りはお断り。」
「あら、死と隣り合わせな忍びの里は、恋愛は自由なはずですよね? 違いましたか?」
「「・・・・・・・・。」」