優しい獣達 7   @AB CDE GHI JKL MN




オレは忍犬を口寄せした。 さっきの術紙を嗅がせ、そこに残ったサギリ、うみのイルカのニオイを追わせる。

途中で忍犬の一匹が吠える。 この小屋にさっきのふたつのニオイと、もうひとり別のニオイがする、と。
ふたつのニオイはあのお子様とサギリ。 おそらく、この小屋に逃がしたあの子といたんだネ。
という事は上忍の一人はあの茶碗の偽物を持って、もう火の国を出たな。 残った一人はどこにいるのか。



「この小屋からあの子供の小さい足で帰った。 そして、さっき城に着いたという事は・・・・。」
「うん。 ・・・昨日の夜中にはもう、ヤツはサギリを連れて移動してる。」
「あの文はあらかじめ作って置いた書簡、だから別に伝言をあの子に頼んだんですね。」
「ああ、茶碗をすり替えられたと思い込んだあの大名が、今度はウチに奪回に行かせるかも、ってネ。」

もうひとり別のニオイか。 それがサギリと一緒にいる忍びのニオイ。 そのニオイを今度は追わせる。

子供が懐いていた料理人を攫ったところで、なんのメリットが?? まあいい、この時点ではまだ生きてる。
“あとで忘れずに俺も回収して欲しい” 回収ってナニさ! 自分の死体のコト? ふざけんな!
オレ達が来た意味を、台無しにしするな! あんた、何が何でも絶対生き残っていなきゃダメだヨ?!


「・・・・木の葉隠れの中忍だと、バレてない事を祈りましょう。」
「その中忍は、自分がどこかでボロを出して、死ぬ可能性も考えてるみたいだよネ。」
「あの文にあった“回収”っていうニュアンスですね?」

「あのトロそうな子を見逃すなんて上忍じゃないですよね、何か取引をしたんでしょうか。」
「・・・・・あんま考えたくないけど。 最初からサギリが目当てだった、とか?」
「・・・・・・・・・・・・・。」

コイツの何気ない疑問で、生きているコトを確信した。 “回収”と書いた、その本当の意味も。
料理が得意で子供が懐くなんて、まるで母親のようじゃないか。 しかも命懸けで子供を助けに来た。
・・・・・もし、そんな人間が目の前にいたら? オレ達上忍は他の忍びより、死を背負って生きてる。
そんな温かな強い魂を見せられたら、欲しくなる。 ヤツはサギリを、霧隠れに連れて帰るつもりだ。



「自分に気のない相手なら・・・・ 洗脳するか、何度も犯して従わせて離れられなくするか。」
「・・・・オレ達が来たからには“救出”だヨ。 それ以外は認めない。 だろ?」
「・・・・・・はい!  カカシ先輩・・・・     スミマセンでした。」
「はぁ?? ナニいきなり謝ってんの、お前。 気持ち悪いヨ!」

「いつも部隊長と肩を並べている先輩が、ボクは羨ましかったんです。」
「お前はアイツの後を引き継ぐんだって? 今度はお前が、並ぶんだろーが。」
「ははは、やっぱり先輩達は、すごいや。   ・・・・ボクも、そうなれますかね。」

「なろうとすれば、なんにでもなれるヨ。 木の葉隠れで唯一の、木遁継承者だろ?」
「はい! 誰にも真似できない、ボクだけの・・・・ 先輩、これからよろしくお願いします。」
「ハ、生意気な木遁使いめ! やっと可愛げの芽がちょこっと出たよ、ちょっこっとダケな?」

「「ブッ!  あはっはははは!!!」」



ワザと明るく振る舞う。 きっとこれから目にするのは、耐えがたい仲間への屈辱だから。
潜入員であるがゆえに。 彼が生き残ろうとするなら、それは自己暗示しかありえないんだ。

自分は雷の国出身で天涯孤独の料理人。 その設定を自己暗示にかけ、本来の自分を心の奥底に沈める。
オレ達が見つけて、火影様に解いてもらうまで。 彼は木の葉の忍びである事すら、忘れてるだろう。

忍びである事に誇りがある。 木の葉に産まれて出会ったたくさんのヒト。 どれも守りたい大切なモノ。
オレもソレに気付くのに時間がかかったヨ。 あんたは早くからソレに気が付いていたんだネ。
どんなに汚れようが関係ない。  だから・・・・ 生きるコトを選んだ自分を責めないでほしい。
暗示を解いた後、例えその事実が嵐のように押し寄せようとも。 その強い心で、自身を受け止めて。



「・・・・・17才、潜入部隊に入って一年目。 三代目が可愛がってるらしい、あと、アスマも。」
「あのヒトこういう無鉄砲な人間、大好きなんですよね。 あと、ボク達みたいな問題児も。」
「はは、言えてる。 ・・・・・“回収して欲しい”か。 生きる残る道を選んでくれたんだよネ。」
「そうですね・・・・。 “あとで忘れずに”ですからね。 嫌がっても連れ戻しましょう。」

オレの忍犬達が、国境近くの色街で足を止めて遠吠えをする。 ニオイを見つけたんだ、サギリと上忍の。
サギリ自身を望むなら、洗脳の可能性はない。 性的拷問・・・・・ つまり快楽に溺れさせて従わせる。
自里に連れていくには、そうするしかない。 ただのサギリなら一日もあれば、快楽の虜になるだろう。

オレ達を信じて救援に向かわせた三代目。 ええ、連れ戻しますよ、例え本人が忍びである事を忘れててもネ。