優しい獣達 8
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「カカシ、もうひとり、別のニオイが加わってる。 ・・・・今は、その別のヤツと一緒にいるぞ。」
カカシ先輩の忍犬の一匹が口を開く。 この色宿に三人のニオイ。 ひどく困惑しているようだ。
「・・・・・どういう事でしょうか。 霧忍は二人のハズですよね?」
「そうか、てっきりもう国を出てたと思ってたけど、まだいたんだ、偽物持って行ったヤツは。」
「偽物とすり替えた奴と・・・・ 子供を餌にサギリを攫った奴が・・・・ ここで合流??」
「「・・・・・・・・・・・・・。」」
「目的がサギリなら・・・・ 水の国に入国する前に自里に報告してるはずだよネ。」
「・・・・・・・。 里からは否、の答えがきていたのかもしれませんね・・・・・。」
「霧隠れの里は国外の者、ましてや役立たずの男など、よほどのコトがない限り受け入れないのかも。」
「お偉いさんの口利きがあれば別ですよ・・・・ 例えば喉から欲しい品物をぶら下げて、とか。」
うん、水の国でのその大名の地位を利用するつもりだヨ。 茶碗を片手に里への口利きを頼むつもりだ。
忍びとの契約は、本人同士が約束しないと意味がない。 裏切り者には死を。 それはどこの里も同じ。
いよいよ、上忍の本気がうかがえる。 任務にかこつけて、そうまでして欲しいか、料理人のサギリが。
「奥にいる子がサギリ? 陽公様に頼まれたんでね、返してもらうヨ?」
「木の葉の・・・ 暗部?! なんでお前たちみたいなのが・・・・・。」
「菊千代様が、どうしてもサギリを助けて欲しいそうです。 すみませんね。」
「・・・・・・ くそ、俺だけじゃ分が悪いな・・・・。」
なかなか話がわかる男だ。 城の中で誰に変化していたのかな。 まあいいや、素直に返してくれるなら。
襖を隔てた奥の部屋から、湿った空気が漂っている。 悩ましい声も、途切れ途切れに聞こえてくる。
なかなかの自制心を持ってるみたいだ、味見はしていないらしい。 というか・・・・
もし手を出したらどうなるかを知っている。 サギリの所有者、もうひとりのヤツが怖いのかもしれない。
「こんなくだらない任務に上忍二人。 ウチの金持ちのお偉いさんは、暇人ばかりだ。」
「なんら変わりませんよ、どの国のお偉いさんも。」
「ははは、木の葉も、たかが料理人救出に暗部ふたり、だもんな、違いない。」
「・・・・・・じゃあ、奥の子、もらっていくよ?」
まあ、素直に返してくれるなんて思ってなかったけどね。 カカシ先輩が襖に手をかけようとした時、
霧隠れの上忍は臨戦態勢をとった。 ボク達ふたりと事を構える気だ。 勝ち目はないのに。
“こんなコトで、命を無駄にすることないと思うケド、アンタ賢そうだし”そう言ったカカシ先輩に、
“こんな俺にも、アイツには義理があるんでね”と言った。 怖いんじゃなくて、義理立てしてたのか。
「ただ返したんじゃ、アイツに申し開きが出来ない。 力づくで奪って行きな。」
「・・・・・アンタはそれでイイの?」
「サギリはあの茶碗を毎日見てた、それこそ暇があったら。 土色の茶碗に銀色のひと線がはいった茶碗。
千のなんとかっていう、有名な茶人の残した逸品だってな。 でもサギリはそんな事は知らなかった。
いつも明るく、はじける笑顔で城の皆に慕われてた。 そのサギリが懐かしそうに淋しそうに微笑んで。
祖国の雷の国を思い出す、ただそう言って見てた。 はは、なかなかすり替えられなかったんだ、俺達。
身内は皆いないからと、あの子供をバカみたいに可愛がって。 身分なんか気にせず、よく怒ってたよ。
アイツの気持ちがわかる、心底サギリが欲しいんだ。 けどこうなった以上、仕方がない。
大名がサギリを取り戻したと知ったら、アイツは間違いなく奪いに行く。 それだけ本気なんだ。
なあ、だから・・・・ サギリを産まれた祖国 雷の国に、記憶を奪って帰してやってくれないか?」
「・・・・わかりました。 面と向かって約束しましょう。」
「ありがとよ、もし約束をたがえたら・・・・・ 化けて出てやるからな?」
そう言って霧の上忍はボク達に特攻して来た。 避ける気なんてサラサラない、カギ爪の正面に。
ボクのカギ爪が深々と心臓に突き刺さる。 カカシ先輩の忍刀が、彼を中心から真っ二つにした。
任務は失敗、偽物を掴まされたんですよ、あなた達は。 サギリは木の葉の潜入員です、なんて。
憐れな男に追い打ちをかける必要はない。 ここまで騙しきる潜入部隊の忍びが、本当に恐ろしく感じた。
うみの中忍は、敵の狙いがあの茶碗だと気付き、偽物とすり替え、解決するつもりだったんだ。
陽動に子供が使われるなんて思わなかっただろうな・・・・ ボヤ騒ぎ程度で充分だから。 そして。
・・・・・まさか自分がターゲットにされていたなんて。 夢にも思わなかっただろうね・・・・。