優しい獣達 9
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『またコレを見てるのか。 そんなに恋しいなら国を出なければよかったのに。 ・・・・帰りたいか?』
『火の国で修行して来たと言えば、どの国に行っても自慢できます。 一人前になるまでは帰りません。』
『ははは、サギリの作る料理は今でも十分美味いよ。 オレお毒見役だから、役得だ。』
『味見係を軽視するモノじゃありません! 何かあれば、あなたは一番に死んでしまうんですよ?!』
『たかが味見係の殿のお毒見役。 ・・・・オレを心配してくれるのか?』
『ただつっ立ってる城の兵士よりも。 毎日その身を挺して殿をお守りしてる。 ご立派ですよ。』
『ははは、そんな風に考えた事はなかったな。 お給金がいいもんでね。』
『そうそう、今日はカレイを煮つけました。 後で殿のお部屋に、持って行ってもらえますか?』
『わかった。 サギリの煮物は特に美味い、楽しみだ。 ・・・・例え毒が入っていてもかまわないさ。』
あの脅迫状が悪戯かどうか、まず確かめないと。 俺はここ最近の城での出来事の情報収集に努めた。
気にかかったのは、陽公様が凄い有名な人の茶碗を手に入れた事。 素朴さがいいと言うだけで衝動買い。
これかも。 水の国のある大名と、最後は一騎打ちみたいになって、オークションで競り落としたらしい。
あの大名の茶器収集癖は有名だ。 もしそうなら、早いとこ偽物に替えておこう。 水の国なら霧が動くな。
もう潜って二週間だ。 なんの気配も感じられない・・・・ という事は上忍。 でもこんな事に上忍?
あの茶器が目当てなら、騒ぎを起こして持って行くはず。 偽物を持って行ってくれるまで待てばいい。
一ヶ月して何もなかったら、それこそただの悪戯だ。 本物の茶碗を返して、オレは撤収する。 けど・・・・
もし上忍が潜ってたら、悔しいけど俺には判別がつかない。 すり替わった人物はすでに殺されてるだろう。
ちょっとした騒ぎで十分だろうに、誘拐を企てるなんて。 なり済ました人物だけじゃなく、あの子まで。
本物の茶器は隠しておいたから、問題はないとしても。 陽動に使われた菊千代様は殺されてしまう。
さっき菊千代様を連れ去った時、かすかだがふたつのチャクラを感じた。 変化をといたんだ、きっと。
【無事に帰して欲しくば、お前が助けに来い。 ガキはお前の名を呼んでいる。】 分かってる、これは罠だ。
俺が目当て? 木の葉の忍びだとバレていたのか? でもチャクラはいっさい使ってないし・・・・・
敵は霧の上忍がふたり、か。 生きて帰るには自己暗示しかない。 三代目なら俺を見つけてくれるし。
頭を覗かれてもいいように、二重三重に自己暗示をかけよう。 どんな情報も、俺からは引き出せない。
例えどんなに頑丈に自分を心の底に沈めたとしても、火影様なら絶対すくい上げてくれる。
式を飛ばした。 後は後任に任せて菊千代様の命をお救いしよう。 乗り切って見せる、俺は潜入員だ。
菊千代様は指定された小屋にいた。 用意しておいた術紙をそっと髪に隠す。 きっと気付いてくれる。
あ、そうだ。 本物は無事だと知らせておかなくちゃ。 こんなつまらない事で、また余計な血が流れる。
城で木の葉の忍びに会ったら『本物は床の間の下に』と言って下さい、そう菊千代様に伝言を頼んだ。
突然後ろの引き戸が開き、振り返る間もなく目隠しをされた。 しまった、早く暗示をかけなくては。
俺の心にカギをかけるキーワードは“いろはにほへと”菊千代様に出しておいた明日までの宿題だ。
目隠しをされた時、頬を撫でられた。 ひょっとして、この上忍はサギリに惚れたのか?! うそだろ?!
それなら体を与えておけば殺される心配はないかも。 まいったな、頭を探られるだけかと思ってた。
・・・・性拷問か。 くのいちになった気分だよ。 回収に来た仲間がビックリするだろうな・・・。
「このっ!! サギリを放せ!! おまえはどこの忍びだっ!!」
「菊千代様、俺は明日には戻りますよ、大丈夫です。 ・・・・出しておいた宿題、覚えていますか?」
「・・・うん。 【いろはにほへと】を10回ずつ、真っ直ぐ書くこと。」
「・・・・・・・・・・そうです。 ちゃんとやっておかないと、サギリは怒りますよ?」
そこの方、俺は約束を守って、ひとりでやって来ました。 ・・・・菊千代様を無事に解放して下さい。
さあ殿の元へ。 菊千代様、早く、もっと早くお城まで走るのです! 絶対に振り返ってはいけません!!