優しい獣達 6   @AB CDF GHI JKL MN




変化術紙で枯れ葉に擬態させた文を子供の頭につけたのか。 霧忍が動いてるってコトは水の国だ。
潜入部隊の中忍クラスなら、特別上忍以下は嗅ぎわけられるはず、それでも見破れない敵は上忍だ。
あの子が誘拐されそうになって式を飛ばしたんだろう。 無茶な中忍だ、後任の忍びを信頼しすぎだよ。
囮となって敵の正体を教えるつもりだったのか? 救援に来た忍びが自分を助けるとは限らないのに。

「陽公〈ようこう〉さま、敵の正体が判明しました。 霧隠れの上忍二名。 変化して城に潜伏しています。」
「霧か。 そう言えば先日、水の国の大名とオークションで競りあったの。 ・・・まさかそんな事で?」
「つまらない事に忍びを雇うのは、あなた方お偉いさまが一番ご存知のはずでは?」
「ははは、なかなか手厳しいの。 じゃが木の葉の暗部がふたりも居てくれたとは。 まったく心強い。」

何か勘違いしていませんか? ボク達が城の護衛に潜ってた訳じゃありません。 要請なんです。
ここに潜って、城を警護しつつ敵の目的を探っていたのは、料理人サギリです。 木の葉隠れの中忍の。
その競り合いで負けたっていうプライドの高い水の国の大名から、嫌がらせでも頼まれたんでしょう。
ご子息の誘拐を試みたのかもしれませんね。 今その子が無事なのは、サギリのおかげですよ。

「そうか、サギリが・・・・ 彼は菊千代がとても懐いていて・・・・ 忍びなのか、残念じゃ。」
「・・・・つまらない依頼で彼を再度指名、なんてしないで下さいね、潜入隊員は貴重ですから。」
「ははは、先手を打たれたな、仕方がない。 サギリは諦めるとしよう。」

ところで、昨夜から帰って来てないこの城の者を教えてくれませんか? 今から帰ってくるだろう者も。
きっとその内の二人が、霧隠れの忍びの変化した姿です。 ・・・・・昨夜から帰ってないのは五人か。
ではボク達は待つしかないんですね、何食わぬ顔して戻ってくるだろう霧忍を。 五人の内の二人を。
潜入員の彼は、生き抜く自信があるみたいだ、なにか策がある。 でなければこんな無茶はしないだろう。



「・・・ハァ。 お前ね・・・・・ もっと柔らかく言えないの?」
「?? 事実と、今後予想される事を言っただけですが。」
「“敵が多い”ね。 なるほど、わかったヨ。 お前、ちょっとは自分トコの部隊長見習ったら?」
「部隊長のことは尊敬しています。 もちろん。」
「あのホンワカした感じを、ちょっとでもパクレって言ってんの!」



「・・・・お話し中失礼します。 父上、その方達は木の葉の忍びですか?」
「おお菊千代、落ち着いたか。 そうじゃ、サギリを助けに来てくれた木の葉の者じゃ。」
「“本物は床の間の下”サギリが伝えて、って。 ・・・なんの事だかわかりますか?」
「「・・・・・・・・・・・。」」

「・・・・・陽公様、オークションで競り合って落札したモノ・・・・ とは何ですか?」
「これじゃ、後ろにあるこの茶碗が・・・・ なんと! コレは偽物!! ワシの目はごまかされんぞ!!」
「ご安心ください、サギリが読んでました。 床の間の下に、本物を隠してあります。」
「おお!! ・・・なんじゃ。 ビックリさせおって。 ・・・・・はて? コレは一体・・・・・」



なるほど。 おそらく子供の誘拐は陽動作戦だ。 城中が混乱してる隙に、この茶碗を偽物とすり替える。
霧隠れの目的は、偽物と本物をすり替える事だったのか。 その水の国の大名に頼まれたんだろう。
陽動作戦に使う子供なんて、さらったらすぐに殺すだろう。 サギリは、うみの中忍はそれを感じたんだ。
だからこんな無茶な真似を・・・・。 口先三寸でどこかに逃げ延びてくれてればいいけど・・・・。

「ははははは!! あ奴は偽物を偽物とすり替え、偽物を愛でるのかっ! コレは愉快!!」
「いい加減にしてくれませんかネ。 こっちは潜入員が行方知れずなんだヨ、最高に不愉快だ。」
「これはすまん! いや、サギリがそこまで手をまわしていてくれたとは。 感謝するぞ、木の葉よ。」
「もうボク達が、此処にいる意味はありません。 霧の上忍は目的の品を手に入れ、退却をしました。」

そう、本物を陽公様に手渡せば、このくだらない場所に、長々と留まる必要はないし、ボク達は待たない。
追跡のエキスパート部隊だからね。 うみの中忍はおそらく、暗部が救援に来るとは思ってなかったろう。
本来なら、偽物に気づいて戻ってきた上忍を迎え撃つのが普通。 でもこっちから追うよ? 必ずみつける。


ところで。 ウチの部隊長を見習え、と言ったくせにカカシ先輩は、威圧感たっぷりに大名を脅してたけど。

「・・・・・・先輩、柔らかく言えと、ボクに助言してくれましたよね、さっき。」
「言ったネ、確かに。 でも仲間の安否が絡む時は別。 木の葉隠れの逆鱗は、はっきりと示しておく。」
「了解です。 ・・・・・色々参考になります、ありがとうございます。」
「・・・・・三代目がオレ達を向かわせたのは、こういうのを危惧したからかもネ。」



ウチの部隊長も、戌部隊長のカカシ先輩も。 相手が誰であろうと言うべき時には言う、ちょっと感動。
ボクの様に、事実を淡々と言うだけじゃ駄目だ。 皆がその言葉に共感して、ついて来てくれるように。

里の仲間を信じて自ら囮になった潜入員。 彼には策なんてない、生き残る道は、ただ演技し続ける事。
カカシ先輩が言うように、きっと三代目はそんな彼の性格を良く知っていて、ボク達を向かわせたんだ。