命の代償 10   @AB CDE FGH JKL MNO P




親父様が個人的に入れさせたというイルカ刺繍は、普通の忍びや一般人には見えやしない。
アタシらだから見えたんだ、違うかい? ただの贔屓じゃなくてちゃんと意味があったとしたら?
イルカ柄そのものが封印術式なんだよ。 本人曰く、命に関わる様な呪印じゃないにしても、だ。

試しに帯を手放して海野中忍の目を覗き込んでみろ・・・ だって? 馬鹿も休み休みお言いっ!
それと分かっていて危ない橋を渡るなんて真似、アタシとカオルがする訳ないだろ?!
悪いが二の舞いはごめんだね。 呪印の影響を受けたのがアンタ達だけなのが不幸中の幸いさ。
どうやらそっちの呪印じゃなくて・・・・ もっとヤバい方、贈命呪印の術者のお出ましだよ。

「大丈夫、自然エネルギーの木遁結界はボク達の姿を隠してくれるんだ。」
「加えておれ達自身が気配を絶つ。 ほぼ完全に気配を消せるだろう。」
「アンタも奴を引き付けておいておくれよ? それでアタシらの気配は完璧に消えるはずさ。」
「安心していいヨ。 姿はみえないケド、ちゃんと側にいるからネ?」

「はい、了解しました!」

 
「恐れ入ります、私は城の専属医、空獏と申す。 入ってよろしいか?」
「お医者様・・・・ ですか? あ、どうぞ、中へ。」
「弥平より聞いてまいりました。 城の子供らにスタンプをつけられ、お困りだと。」
「あはは! そうなんですよ。 すっかり油断しててね、やられちゃいました。」

お家馬鹿の弥平小太郎にそうと聞かされ、早速確かめにきやがった。 こいつか、術者は。
なるほど。 戦闘向きではなさそうだけど確かに忍びだ。 医療忍者だろうね、この薄いチャクラは。
みたところ三代目よりも少しばかり爺じゃないか。 そんな年になってまで力を誇示したいものかい?

まあ、分からないでもないか。 忍びは死ぬまで忍びって言うからね、骨の髄まで忍びなんだろう。
忍界大戦を終結させたのは火の国と木の葉隠れだ。 ・・・・最後っ屁を浴びせたいのかもね。
その年になってみなけりゃわからないけどさ、死ぬ前に一花咲かせたい、そんなところかねえ。

・・・・にしても。 なかなかどうして、海野中忍はうまい具合に話を合わせているよ。
気配を殺したアタシらが部屋に潜んでいるのを微塵も感じさせない。 さすがはウチの中忍だ。
これなら生け捕りも楽勝さ。 どこの里の奴か吐かせてから、あの世に送ってやろうじゃないか。

目の前に敵がいて殺るか殺られるか、ってなアタシら戦忍とはさ、基本的に現場が違うからね。
医療忍者は印を結ぶのに時間がかかるんだ、充分な時間や空間があるから長い印も結べるんだよ。
医療忍術だけじゃなく呪印や封印術も集中して印を結ぶ。 その時が狙い目、隙が出来まくりってね。



「虎丸様の遊び相手は皆、ワンパクでしてな。 どうぞ無礼をお許し下さい。」
「とんでもない、城の中で気を抜いてた俺も悪いんですから。 ・・・・これなんですが・・・。」
「・・・・・なるほど。 実はそれは特殊なインクでして。 この薬品でないと落とせません。」
「やっぱり! でもよかった! 子供に隙をつかれたなんて忍びとして・・・・ っぅ!!」

よし、印を組み始めた、出るよ・・・・・ っ! カカシ、テンゾウッ! 相手が違うだろ!
海野中忍を取り押さえてどうすんだいっ! ・・・ってさ、怒鳴りたいのはやまやまだけど。
これ以上空気を動かしたら奴に気づかれてしまうからね、【術の発動を阻止】指で合図を送る。
けどカカシとテンゾウは合図をスルー、海野中忍に張りついたまんまだ。 何やってんだか・・・。

「・・・・・・・・・?? 海野さん? どうされました??」
「い・・・・・ いえ、なんでも・・・・ な・・・ っっ!!」
「苦しそうですが・・・・ もしかして持病などを患っておいででは?」
「や、あの・・・・・ 至って健康で・・・・ ふ! はぁうぅ!!」

忍びの贄は貴重だが若様に病気をうつす事には慎重の様だね、印を組む指の動きが止まったよ。
自称 城医 空獏とやらの目には、海野中忍が一人でクネってる様にしか映ってないからね・・・
病気をもっていると疑っても不思議じゃないが、どっちかって言うと“身悶えてる”が正解だ。

結果的に贈命呪印は発動せず。 これに関しては当初の予定通りだけど、捕縛作戦はぶち壊しだ。
こんな状況なのに気配を漏らさない、そのチャクラコントロールは称賛に値するとは思うがね。
結界術で一緒に隠れてるアタシらにはバッチリと見えてる。 頬を舐めてるだけじゃないんだよ。

匂いを嗅いだり首の後ろを噛んだり腰を動かしたりさ、これじゃまるで発情期の動物・・・・ げ!
生け捕らなきゃ拷問も出来ないし頭も覗けないのに、カオルが気配を抑えるのを止めちまった。
なんだいっ! なに好き勝手に動いてんのさ! チームワークもクソもないじゃないかっ!



「っ!!! お主、どこから・・・・・」
「どんな話術で錦麹家を丸め込んだのか知らんが。 ここまでだ。」
「?! まさか護衛がいるとは・・・・ ならばこれは罠か。」
「解っ!! ・・・・・ふう、もう隠れてても仕方がないね。」

「なっ! ま、待て! ワシを殺せば錦麹の跡取りが死ぬぞっ?!」
「よく聞くお決まりのセリフだねえ。 でもアタシらには関係ないよ。」
「・・・・百人の子が死ぬ前に一人の子が死ぬ。 それだけだ。」
「・・・・くっ!」

「印を完成させればそいつは・・・・ がはっ!! 」
「バカだね、地雷を踏みやがって。 ・・・・・はあ。」
「ボヤくな。 印を組み始めてたんだ、仕方なかろう。」
「・・・・腕を斬りおとして氷漬けにしときゃいいだろ?」
「・・・・・ふっ。 そういう手もあったな。」

氷漬けなんて氷遁使いにしか出来ない芸当じゃないか。 何が“そういう手もあったな”だ。
よく言うよ、白々しい。 生け捕って裏にいる奴を突き止めたかったのにさ、面倒なだけだろ?
今となっちゃ、そんなカオルのモノグサなんて可愛いもんに思えてきたよ、この二人に比べたら。
ちょいとっ! 術者を始末したんだから錦麹一家を狩りに行くよ! 聞いてんのかい?!


「ぁ・・・・ん・・・ ちょっ・・・ ふっ!」
「んー ちゅ、ぺろ・・・・ ボク達は無理です、求愛行為で忙しいですから。」
「そういうコト! 城主の首はカオル、お願い。 筋書きはアズサに、得意でショ?」
「は・・・ ふ・・・ 求愛って・・・・ んっ!」

「「・・・・・・・・・・・・・・。」」

なるほど。 突っ込むのは女体だと豪語してる二人がさ、野郎相手に盛ってるのはそういう訳かい。
どうやら海野中忍の元々の呪印とやらは、動物の繁殖行動を増加させるフェロモン関係の様だね。
目を合わせたらいつのまにか・・・ とか。 もしかしてさ、瞳術の一種なんじゃないかい?

あん? 冷静に分析してないで二人を引きはがして下さい、だって? 悪いね、忘れてたよ。
・・・・・とはいうものの。 どうしたもんかねえ? このままじゃ野郎の3Pが始まっちまう。

「・・・・帯だ。 巻くだけでも効果があるかもしれないぞ? 三代目の封印術式だからな。」
「そうだね、術者は殺ったんだから忍服でいる必要はない、また着物姿に戻してやれば。」

親父様自慢は置いといて。 カオルにしてはいい思いつきじゃないか。 よし、それでいくよ。
あと、海野中忍の腕から贄の印がちゃんと消えたかも確認しとかなくちゃね、念の為だ。
カオルはカカシとテンゾウを引っぺがしておくれ、アタシは帯を・・・・ とっ!! 待ちなってっ!

「うわわわっ!! て・・・天井?! ひぃ〜〜〜〜〜っ!」
「あのネ。 さっきは意表をつかれたから易々とはがされちゃったケド!」
「今度はそうはいきませんよ? ボク達の求愛行動の邪魔はさせません!」

「おれ達も二人だがあいつらも二人、ほぼ互角だ。 これは少々手こずるかもしれんぞ。」
「ちっ! 戌猫が相手とはね。 手加減してたんじゃ永遠に追いかけっこだよ。」

・・・・というか、カカシ、テンゾウ!! 何どっぷり術にハマってんだい、情けないっ!!
アタシらは暗部を親父様から任されてる長なんだよ?! そりゃ、呪印もちだが海野中忍はいい奴さ。
煉獄に片足突っ込んでる暗部や、道を外れた要人の心配までしてくれた優しい男だよ? でも・・・
・・・・・?? だからか? 呪印の効力プラス、他人を心に入れちまった、っていうのかい?!


カカシ、テンゾウ、アンタ達・・・・・ 惚れちまったのかい。 はあ、難儀だねえ、まったくっ!