命の代償 6
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火影の意を汲み、無償で書簡配達に立候補した中忍か。 ・・・・・ふっ、面白い奴だ。
木の葉の為の個人行動は嫌いじゃない。 城の者と共に狩っていたら、さぞ三代目が惜しんだはず。
そうならない様、似合わん小細工や変装までしたんだが。 別段、骨折り損でもなかった。
千手綱手が健在だと装えた事は大きい。 あの弱点を他里の忍びや賞金稼ぎが嗅ぎ付ける前にな。
彼女は三代目の愛弟子。 糞の様な見知らぬ輩に他国の地で狩られてみろ、輪をかけて三代目が嘆く。
指一本で刺客を葬れるから賭場遊びをしている、などと噂が広まるだけで、いい目くらましとなる。
だから骨は折ったが、損にはならん。 もろ手を挙げて一石二鳥とは言えないが、それに近いだろう。
・・・・待て中忍、策も立てずどこへ行く、そっちは城だろう。 滞在中の部屋へどうぞ、だと?
おれ達の到着を待ち城内へ招き入れろ、と。 そう返答の式が飛んできただけ・・・ ??
伝書鷹に書簡を届けさせただろう? 三代目はお前の報告書を読んでおれ達四人に招集をかけた。
錦麹の殿と奥方の幸せそうな様子と、元気一杯で城内を駆け回る若様の事を書いただけ、なのか?
・・・・・・・・・・・。 それはおかしい。 おれ達が聞いた錦麹 虎丸は死を待つだけの存在だ。
早老病という不治の病。 我が子の不幸を前にして幸せそうな城主、奥方というのは有り得ない。
「だから三代目は辛そうに・・・・・。 あちゃー 俺、全然見当違いしてたかも・・・・」
「その若様はさ、今現在ピンピンしてるのかい?」
「あ、はい。 錦麹様に面会する際も廊下を走ってて、家臣に怒られておいででした。」
・・・・何か異変を察知して潜っていた訳ではないのか。 “断定はできん”とはこういう事か。
だが。 三代目はあの報告書を読んで何かしらを感じ取ったんだ。 ・・・・確信に近い何かをな。
里の医療チームが向かっても手に負えなかった、そんな若様が健康体だというだけでも怪しい。
「他にはない? ナニか気づいたコト。 三代目は書簡をみて眉をしかめてたんだよネ。」
「ぁ。 いつもと違う事を・・・ あのですね・・・ 城にいる子らの中でスタンプが流行ってて。」
「・・・・・・・スタンプだと?」
「ええ、可愛いんですよ。 俺の腕にもペタリと。 で、ついでに三代目の報告書の隅っこにも。」
「「「「・・・・・・・・・・・・。」」」」
「くすっ! 報告書に・・・・ スタンプを?」
「三代目が暗い顔してたから報告書だけでも明るく、ってね! ワンポイントイラストです!」
「へー ちなみにどんな柄のスタンプなんだい?」
「ほら、これです。 特殊なインクなんでしょうね、まだ消えてませんよ?」
「「「「・・・・・・っっ!!!」」」」
得意げに海野中忍が着物の袖をまくって見せてくれた腕には、スタンプらしきモノが捺印されていた。
円の中に口の開いた二枚貝が描かれている。 知らなければただの印、それはスタンプなどではなく刻印だ。
“口の開いた二枚貝、合わさると幸せが一つになる、殿と奥方の仲の良さを表している”そう聞かされたのか。
それもまた全然違う意味だ。 ・・・・・中忍クラスなら知らなくて当然のモノだが、間に合ってよかった。
「ちょいとアンタ! その印をつけられた事、親父様に報告したのかい?!」
「え? 私事なんて報告しないですよ、可愛らしい柄だったからおしてもらっただけです。」
「ふう。 三代目に余計な心配かけるところでしたね、まだ間に合います。」
「ナルホド。 そのワンポイントイラストが眉間のシワの元だったのネ?」
「・・・え? え? すみません、話が見えないんですが・・・・・」
「ああ、そうだったな。 それは生贄の刻印だ。」
「へー ・・・・・・。 はぁ?! 生贄?!」
呪印といえば分かるだろう。 木の葉では禁術とされている。 確か第二次忍界大戦の頃だったと聞く。
贄の刻印を押された者の生気を取り込む事で己の寿命を延ばすそうだ。 不老不死を追求した術だろう。
だが贄の刻印を押された者が何らかの病を持っていれば、病んだ気もそのまま取り込む事になる。
そして取り込んだ病は蓄積されていく。 ワザと病んだ気の持ち主を贄として与え続ければ。
・・・・ふっ。 そうだ、そいつは必ずその病に侵される。 寿命が延びても一生涯闘病の日々だ。
延命はできるが病を発症し続ける、もろ刃の剣。 不老不死など有り得ない、やがて己で命を絶つ。
世の中にはいっそ殺してくれ、と思う様な苦痛を伴う病がある。 それらに耐え生き延びた者は皆無だ。
幸せを表している? 丸印の二枚貝がか? ・・・・ふっ。 幸・丸・貝を全部足せば“贄”という字。
刻印をつける事で契約は成立、つまり。 その絵柄は贄を表しているんだ、どんなに可愛かろうがな。
「 ・・・・・俺・・・・ 」
「まあ、そんなに落ち込む事はないさ。」
「さっきも言ったけど、ボク達が来たからね。」
「術者を殺せば呪印は消える。 ・・・でショ?」
「っ!! 遊び相手の子供たち! それじゃ、城の中にいる子供たちは全員・・・・ ?」
「おそらくな。 病知らずの健康体の魂を奪って生きているんだろう、錦麹 虎丸は。」
「・・・・・・・そんな事って・・・・」
「でもよく門前まで出て来れたね? 贄の印は近くにいれば感知できるのに。」
「そういえば・・・・ そうですね。 大人は論外、なんでしょうか??」
「そんなワケないでショ、忍びが贄なんだヨ? 喉から手が出るぐらい・・・・・ アレ??」
「・・・・・・・・・・おい。 なぜだ?」
「多分、三代目のおかげです。 俺、元々呪印もちなんですよ。 抑えてもらってるんです、効力を。」
「「「「・・・・・・・・・・なるほど。」」」」
本来なら健康体の、それも一般人より優れている忍びの命なら。 真っ先に奪いたいところだろう。
封印術の副産物か。 が、その効力も元々の呪印とやらに対してのもの、いつまでもったかわからん。
生贄にされそうだったとか、刻印をつけられたとか、くれぐれも三代目には余計な事を言うなよ?
イルカ柄の刺繍といい、個人的な書簡配達といい、お前は火影に目をかけてもらっているんだからな。