命の代償 5
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テンゾウが移動中に考えた案は使えると思うよ。 向こうさんは伝説の医療忍者に会いたいだろうしさ。
ちょいと待っとくれよ、すると何かい? アタシが綱手姫に扮するって事になるのかい?!
そりゃ、こん中で見目が女なのはアタシだけ。 でもさ、大事なことを忘れてないかい?
アタシらは忍者だ、男でも女でも好きなように変化すればいいだけじゃないか。 ・・・・・まあね。
何が起こるかわからないしチャクラを温存しておくのは基本中の基本、それを言われちゃ仕方がない。
「ひょっとしてアズサさん、面倒なだけ・・・・ とかいいます?」
「・・・・ふっ。 “こっそり”が苦手なのはお前もだな、アズサ。」
「おだまりっ! やりゃーいいんだろう?!」
「ハイ、決定ーっ! んじゃ、オレ達は綱手姫の医療チームってコトで!」
「・・・・・ふんっ! いいかい、覚えておいで? 城でこき使ってやる!」
「アハハ、似てる似てる! アズサ、ナンか本物の綱手姫みたいっ!」
「へー 綱手姫ってそういうキャラなんですか?? ボクは会った事がないんで・・・」
「おれも知らん。 カカシ達は本人を知ってるからな、そうなんだろう。」
アタシもうんと小さい頃に見かけただけさ。 周りに当たり散らして、ヒステリックな女だと思ってた。
今思えば、あれは自分にいら立ってたんだろうね、最高の医療忍術を保持していながら使えない自分にさ。
アタシら忍びは人と違う力がある。 だからこそ民や仲間を守れるんだ。 その力は確かにあるのに。
本来なら助けられる命を前にして何も出来ない無力な自分を認めるのは、一体どんな気持ちなんだろうね。
九尾襲来の時にさ、綱手姫がいてくれたらと思った事があったよ。 でももし本当にあの場にいたら?
初代火影の孫で伝説の三忍、その中傷は想像すら出来ない。 カカシの親父さんは非難され命を絶ったんだ。
同じ様に自分で命を絶っていたかもしれないよ? 役立たずの忍びなんて今後の木の葉に必要はない、と。
そう考えると不思議なもんだね。 里を出た事が、結果的に彼女の寿命を延ばした事にもなるんだから。
昔、親父様がポツリと言ったんだ。 のたれ死んでなきゃそれでいい、生きてればどうにでもなる、って。
本来の力を取り戻した綱手姫なら、きっと親父様の右腕となって働いてくれるだろうさ。 いつかね。
「それじゃひとつ、“大陸最高峰の医療忍者 いまだ健在”ってな噂を広めるとするか。」
「伝説の三忍の一人は血に触れると痙攣する。 そんなのを賞金稼ぎが知った日には・・・・」
「一石二鳥だーネ。 綱手姫も刺客に狙われずに済むし、錦麹の城にも表から堂々と入れるし!」
「・・・・・ふっ。 暗部のアズサを医療忍者などと呼ぶ日が来ようとは・・・・ な。」
「アタシの事は“綱手様”と呼びな。 いいね? アンタ達はアタシの弟子なんだからさ。」
「・・・・・おい、あんまり悪乗りはするな。 化けの皮がすぐに剥がれるぞ。」
「クスッ! 確かに。 でも医療忍術と一番縁遠い存在なのも本当だよネー。」
「あはは! そうそう、ボク達の役目は生かすよりも逝かせる事ですからね。」
いいんだよ、この際だから一時でも楽しむ事にする。 体の傷を癒せる医療忍者の存在は貴重なんだ。
アタシらは殺して回る事が専門、はっきり言って一緒に任務に就く可能性なんて、無いに等しいのさ。
特にアタシの持ち場ではね。 酉部隊は鳥に変化して空を飛ぶから、死体処理と残党狩りが中心なんだよ。
ふん! 最高の医療忍者になってやろうじゃないか。 千手綱手 木の葉に有り、ってね。 感謝しなよ綱手姫。
・・・・・・。 アタシらは万事完璧な作戦を立てて乗り込んで来たんだよ。 柄にもなく頑張って。
変化はチャクラを使うから、変装にしようという事になって、初代様のお孫さまらしく羽織まで買ってさ。
ある程度先に噂を広めておくか、と噂好きの多い繁華街へ立ち寄って賭場巡りなんぞをしてきた。
考えてもごらんよ、賭場でバカ勝ちした奴ほど気が大きくなり口が軽くなるもんだろ? だから負け続けた。
ハデに負けるほど印象に残る。 人間、他人の不幸ほど面白がるものはないし、話のタネにするもんだ。
・・・・? 里の経費を無駄使いしたのかって? あははは! そんな事する訳がないじゃないか。
アタシらは忍びだよ? 先に賭場の換金場からちょいと失敬して、その賭場の元々の金をバラ撒いたんだ。
どうせ賭場は儲けてんだ、たまにお客へ還元してもさ、バチは当たらないと思わないかい?
いや、そんな話は別にいいんだ、カオルが選んだセンスの欠片もない賭印の羽織の事もさ、どうでもいい。
とくかく! 普段小細工なんかしないアタシ達が、頑張って変装して準備万端整えて城へ出向いたんだ。
けどその前準備が全部無駄足になるなんて誰が思うんだい? やっぱり似合わない事はするもんじゃないよ。
城下に入ってすぐの門前、いかにも待ち合わせしています的な男が立ってた。 顔の真ん中に刀傷のある男が。
目を凝らしてみたら着物の帯の真ん中にうっすらと模様が浮かんできたのさ。 だからすぐに分かったよ。
どう接触しようか悩んでいた中忍だと。 暗部のモットー迅速かつ確実にを放棄して遠回りした、ってのにね。
「その模様、木の葉のロゴだね?」
「君が書簡を届けに行った海野中忍か。」
「あ! 見えました? はい、俺です! これのおかげで、市井では合言葉いらずなんです!」
「・・・・・ほう。 なるほどな。」
「便利っちゃ、便利な刺繍だーネ。」
悪いね綱手姫。 せっかく健在っぷりをアピールできるチャンスだったのにさ。 ・・・・・ところで。
木の葉マークは分かるけどさ、こりゃなんだい? イルカ? クジラ?? オルカ、それともジュゴンかねえ?
「親父様からの・・・ メッセージかい?」
「ナンにしても哺乳類・・・・ だよネ?」
「・・・誰かを殺さずに残せという事か?」
「海野中忍、この刺繍はどんな意味が・・・」
「すごいっ! イルカの刺繍まで見えちゃったんですか?! 実はこれ俺なんですよ、海野イルカ!」
「「「「・・・・・・・・・・・・。」」」」
なんでも、親父様が特別に作らせた帯らしい。 チャクラ入りの糸で隠し織りをした手の込んだモノだ。
ウチの忍びが判別しやすいチャクラ質を含んだ糸、木の葉マークだけがくっきり浮き出る仕様になっている。
イルカ刺繍のチャクラ質は極々微量、普通なら感知は出来ないね。 自慢じゃないがアタシらは目がいいのさ。
こんな恰好をしてるがアタシらは木の葉の暗部だ、話を聞こうじゃないか。 城で何が起こっているんだい?