命の代償 11   @AB CDE FGH IKL MNO P




こうなっては仕方がない。 アズサ、カカシとテンゾウはここへ残して、おれ達は仕上げに行くぞ。
呪印の効果で盛っているだけなら、止めておかないと後でネチネチと責められもするだろうが。
それだけではない様だからな、ほおっておいても問題は・・・・・ 邪魔が入る事、か。

ああ、廊下に居るな。 まったく化石級の生真面目な男だ、あの気配は弥平に間違いない。
火影の書簡を届けに来た忍びの腕から、ちゃんとスタンプが消えたかどうか心配なんだろう。

錦麹の城主が一の側近、弥平小太郎の話は火の国でも有名だ、お家の為なら己を顧みない忠臣だと。
が。 忠誠心が過ぎる家臣というのは、時として大局が見えない者にもなり得る、もろ刃の剣。
己が仕える城主が誰に仕えているのか、城下を守るのは誰の為なのか、それらを見誤ってしまう。
国には国主がいる、国を守る忍びの里がある、何より民の上にこそ国が成り立っている事をな。

国を守る忍びの里にも、そういう馬鹿が大勢いるんだ。 大名家の家臣にいても不思議じゃない。
この男はお家馬鹿と呼ばれるだけの、いち家臣であり続けてほしかったが。 ・・・・今更だな。
 
部屋の外にいる気配に声をかけると、くぐもった声が返ってきた。 平伏しているのだろう。
“大変申し訳なく。 此度の不手際、なにとぞ火影殿にはご内密に”が、奴の返答だった。
おれの声と中忍の声とを聴き分けられない様だ、おまけにこの血の臭いにも気づかないとは。
何かに気をとられていると目の前の事がおろそかになってしまう、そのいい事例だろう。

「おい、入って来い。」
「ちょ・・・ ちょいと! なんで入れるんだい!」

弥平を部屋に招き入れる事がそんなに駄目か? 気配を消してるんだ、あいつらの姿は見えない。
カカシもテンゾウも忍びとして一流だ。 興奮しすぎて気配を漏らすような事はないだろう。
中忍もな。 城の中で何度も顔を合わせている弥平の気配、感知できないなどという事はあるまい。

それに。 こいつの首を跳ねた以上、最近のお家事情を詳しく知る誰かに話を聞くのが一番だ。
・・・・・なに? “ちゃんと覚えてたのかい”だと? 当たり前だ、面倒でも仕事だからな。


「では失礼して・・・・ 海野中忍、腕のインクは・・・・・ っっ?!」
「ああ、やっと気づいたかい。 そう、コイツは・・・・」
「く・・・う・・・ ば、く殿・・・・? 空獏殿っっ!!
「この男は他里の忍びだ。 おれ達が狩った。」

「っ!! 海野中忍に何をしたっ!! ・・・まさか火影の書簡が・・・ 狙いなのか?」
「・・・・・・・なんだと?」
「残念だったな。 あの書簡は我が殿と奥方を見舞ってくれた火影殿の私的な書だ。」
「あのさ、アンタ・・・・」

「空獏殿まで巻き添えにするとは。 私の口を封じても必ず木の葉が報復する、そう思えっ!」
「「・・・・・・・・・・・・。」」

・・・・・しまった、おれ達とした事が。 カカシとテンゾウの姿はみえていない、当然だ。
が。 荒い息使いと困惑している表情の中忍は、もしかしなくても気配丸出しなのではないか?
だとしたら、弥平のこの反応も頷ける。 おれとアズサの後ろで寝っ転がっているのだから。

おれとアズサは火影の書簡を奪いに来た他里の忍び。 奴の目にはこう映っているとみていい。
木の葉の中忍に何らかの術をかけ部屋を物色、居合わせた城医も殺害、そんなところだろう。
とっさに気配を消せなくとも中忍を責められない。 力量を見誤ったおれ達にも非はある。



「海野中忍っ!! ・・・・ぐっ! くそっ! 放せっ!」
「待て。 お前に聞きたい事がある。 おれ達はこの忍びがどこの里の者か知りたいだけだ。」
「殺すなら一思いにさっさと殺せっ!」
「いいかい、よくお聞き? 他里の忍びはコイツ、アタシ達は木の葉の暗部だ。」

「・・・・木の葉? まさか。 私の知っている暗部は・・・・」
「あーっと・・・ この賭け印の羽織には色々と訳があってねえ。」
「・・・・今日は面をつけていない。 弥平、これをみろ、腕の刺青を。」
「それは・・・ 火の意志を表す炎の刺青。 では海野中忍が苦しそうなのは・・・?」

苦しそうというのは見当違いだ。 中途半端に気配を消した、もしくは消し損ねた悔しさの表れだ。
身をくねらせているのは、前戯の真っ只中であって、ヘンな術をかけられている訳ではない。
むしろ、中忍の呪印がカカシとテンゾウに影響を及ぼした。 どちらかといえば加害者は・・・・

「・・・・カカシ? ・・・・テン・・・ ゾ・・・ ???」
おだまりっ! そんな事を弥平に説明してどうすんだいっ!」
「ああ、そうだったな。 自己紹介がまだだった。 ・・・・・解っ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」


「ハァ、ハァ・・・ ネェ。 海野中忍・・・・ ハァ・・・ 男と・・・ 経験ある?」
「はぁ・・・ ボク達はね、女のアヌスなら・・・ はぁ、経験あるんだ、同じだよね?」
「し・・・ ん・・・・ 知りませんよっ! そんなのっ!! ぁっ、やめて・・・ んっ!」



がーーっ!! なんで結界術まで解いちまうのさっ!」
「・・・・・・・・・・・・。」

その方が早いからだ。 ほら、これでお前にも見えるだろう。 中忍に張りついてる二人の姿が。
中忍の片手を押えつつ右モモに急所をこすりつけている男がカカシ。 暗部 戌部隊の部隊長。
同じくもう片方の手を押えつつ左モモで腰を振ってる男がテンゾウ。 暗部 猫部隊の部隊長。
真ん中で身動ひとつきとれず、ひたすら唇を噛んでいる男が、お前もよく知っている海野中忍だ。

「おれは猿部隊 部隊長のカオル。 この羽織の女は酉部隊 部隊長のアズサだ。」
「よろしく、とでも言えってのかい? アンタね、もうちょっとマシな・・・・」
「・・・・・・・・・・。」

「四部隊長での任務なんだが。 見ての通り、二人は使い物にならん。 だから無視していい。」
「暗部四天王と言えばピンとくるかい? ・・・・まあこの方が早いっちゃ早いね、確かに。」
「・・・・ふっ。 ・・・・ところで弥平、単刀直入に聞く。 この忍びに何を吹き込まれた?」
「アンタがスタンプだと思っていたのは贄の刻印、禁術の契約の印さ。 魂を抜き取る為のね。」
「・・・・・っ!!!」



その驚き方。 やはりお前は、というか。 お前を含め城の者は皆、利用されていた様だな。
なぜ魂を抜く禁術が必要だったか、なぜ若君が回復したか。 ここまで言えば察しがつくだろう。
・・・・・ああ、そうだ。 贈命呪印は贄の印をつけられた者からその命を奪う禁術だ。

「贄となるのは・・・・ 私だけでは・・・・ なかったのか・・・・・?」
「・・・・なんだい。 贈命呪印の事は知っていたのかい。」
「己の命と引き換えになるぞ・・・ とでも言われたんだろう。」
「・・・・・・っ! 命の代償は・・・・ 命だと・・・・」

「・・・・図星の様だね、甘いよアンタ。 確かに命の代償は命、間違っちゃいない。」
「・・・・だが。 死の運命を変えるとなると話は違う。 代償とは言わない、犠牲だ。」
「読んで字の如くだろ? 命を奪った償いは命でしか償えない。 簡単な事さ。」
「死をくい止めるのなら生を与えるしかないが。 一度とは限らんだろう。」
「そんな・・・・・・ 城の・・・・ 小姓たちは・・・・・」

「「・・・・・・・・・・・・。」」




「ボクの触ってみてよ・・・ ほら凄い事になってるでしょう?」
「こすりっこして一回出そう? こっちの手はオレのを握って?」
「んっ! あ、やっ! うぅぅぅ・・・ っっ!」



・・・・・・・・おい、そこ。 うるさいぞ。 今、お家馬鹿の弥平 小太郎が真実を知ったばかりだ。
もう少し遠慮してやれ。 分かり易い様に結界を解いたが、お前たちならいつでも張り直せるだろう?
確かに存在を無視しろとは言ったが、それは弥平に対してだ。 忍びならもう少し頑張って耐え忍べ。