鬼達の金棒 1   ABC DEF GHI JKL MNO P




我が国では要人が死ぬとミイラにして埋葬する。 魂が戻ってくる事を想定して残しておくのだ。
肉体は滅びても魂は永遠、魂が戻って来た時に入れモノである肉体がなかったら甦れないから。
死者に魂の戻る場所を用意しておく、というのが太古の昔よりこの地方に浸透している考え方だ。

国の為に功績を残した要人が死ぬと、再びの活躍を期待して、人の形の棺に入れ建物に埋葬する。
火葬、土葬、水葬、埋葬の仕方は多種多彩あれど、それが我が国での要人の埋葬方法なのだ。
さすがに今は、魂が戻るなどとは誰も思ってはいないが、伝統行事として引き継がれている。

だが私は不可解なモノを目にしている。 まさか本当に死者の魂が・・・・・? そんな馬鹿な。
死者が甦るなど・・・・・ もしかして、忍びの忍術とやらでは可能な事なのかもしれない・・・・・。


そう私が主に知らせたら、火の国の忍びの隠れ里に行き、術の有無を確かめて来いと言われたのだ。
なんでも、プロフェッサーと呼ばれる程、あらゆる忍術に精通している忍びが木の葉にいるという。
一度は引退した木の葉の影、今また再任している任期の長い影、三代目火影 猿飛ヒルゼンを訪ねよと。




私は天津〈あまつ〉の国、大名 雅〈みやび〉家の墓守をしております、朱鷺〈とき〉と申します。
雅家ゆかりの棺を納めた霊棟を管理をしております。 いつもの様に建物の清掃をしている時でした。
棺を磨くのも私の日課の一つなのですが、棺が並んでいる位置の若干のズレを感じたのです。

毎日ほこりを取り除き、磨いております。 等間隔に並べられた棺のわずかな違いに気付きました。
誰かが動かしたのだろうと。 そのままにしておいても良かったのですが、やはりというか・・・・
毎日見ているモノが少しでも違うと気になってしまって・・・・ 棺の位置を直そうとしたんです。
その時に棺の蓋も若干ずれているのが分かって・・・・ 思いきって棺の蓋を開けてみると・・・・


「・・・・・・なるほどのぉ、空だったと。 それで、死者が甦ったと思われたんですな?」
「はい。 今も伝統行事として要人のミイラ葬は我が国に残っておりますが、まさか・・・・」
「ふむ。 我が里の禁術として、そういう術は確かに存在しておりますがの。」
「ではやはり! ああ、あの棺に入っておられたのは、知将で名を馳せたお方、これは朗報で・・・・」

「朱鷺さん、喜ぶのは早いですじゃ。 穢土転生は未完成の禁術、忍びにも仁義があるのでの。」
「・・・・・?? すみません、そう言われても何が何だか・・・・」
「ほほほ! これはすまんかった。 分かり易くいうとのぉ、穢土転生は・・・・・・」

穢土転生と呼ばれる術は、死者の魂を別の肉体へと降臨させる術で、生者の贄を必要とするのだとか。
元々、二代目火影が開発した術で、死んだ肉体を回復させ、そこへ同じ魂を戻す予定だったらしい。
ところが一度肉体を離れた魂は、傷を完治させた己の体には戻らず、その場にいた生者に降臨した。

確かに死者は甦ったが、依り代にされた元々の生者は死んだ。 もちろん本人の意思ではない。
甦った死者は同胞を殺めた事を嘆き失意のまま己の命を断つ。 一度に忍び二人を亡くしたそうだ。
忍びをもう一度復活させるはずが、その忍びだけでなく里の同胞も死に、術の研究は中止された。

正確に言うと、未完成ではなく完成している。 ただ、必ず生者の肉体が必要だということだ。
致命傷である傷を負っても、時間をかければ肉体は元に戻せる。 そこに魂を戻し復活させようとした。
忍びの医療忍術とその術さえあれば、何度死のうが立ち上がれると、期待された術だったそうだ。

仲間を犠牲にするのであれば、そんな術は必要ないとばかりに、術の研究は打ち切られたらしい。
未完成と公表しなければ必ず他里が狙う。 ゆえに門外不出の禁術とし、里内で管理されているとか。

「いいのですか? そんな大切なお話・・・・ 私にお聞かせ下さって・・・・・」
「ふむ。 朱鷺さんは“忍術なら可能かもしれない”と思われたのじゃろう?」
「ええ、もし死者が甦る事があれば、それは何かの忍術かも、と。」

「そしてそう進言したら、確認して来いと雅様に言われた。 言いかえればそれは・・・・・」
「?! まさか!! 国中の要人を・・・・ 甦らせたい・・・・ から・・・ だとでも?」
「木の葉にそういう術があるのなら、誰を犠牲にしてもいいと、依頼するやもしれん。」
「・・・・・・・・・・。」

そうか。 火影様は私の口から“そんな術はありませんでした”と雅様に報告させるおつもりなのだ。
私が忍びの忍術なら可能かも・・・・ と言ってしまったばかりに、術の存在をチラつかせてしまった。
確かにそうだ、私が国に戻ってそういう術がありましたと言えば雅様は。 いや、国の要人らは・・・・・

ここで、そんな術は存在しないと火影様が即座に私に言ったとしたら、私の報告はこうだったはずだ。
“そんな術はないそうですが、木の葉隠れの里なら不可能を可能にするかもしれませんね”と。
それでは雅様に期待を持たせたままだ。 投資すれば木の葉は研究してくれるというようなもの。
術の開発経緯を全て知った私の意思で“忍術にも不可能がある”と、雅様に思わせてほしいと・・・・。

? ・・・・・墓守をしている私なら、死者の安らぎを毎日見ている私なら、分かってくれる・・・・?
・・・・・。 そうだ。 私は毎日、国の為に尽力した要人らの棺の管理をしてきたじゃないか。
その立派な人達が・・・・ 果たして自国の民を犠牲にして甦りたい、などと思うだろうか?

「不老不死は人の見果てぬ夢のまま。 生を全うした者の魂は安らかであるべきじゃよ。」
「・・・・・・はい。 そうです。 私も・・・・ そう思います。」
「穢土転生は門外不出。 よって死者が甦ったとは・・・・ 考えられん。」
「・・・・・・。 では・・・・ 墓荒らし・・・・ という事でしょうか?」


棺には様々な豪華な装飾がなされ、中には死者の生前お気に入りだった高価な物が入っている。
それにも目もくれず・・・・・ 遺体だけを・・・・ ミイラだけを盗んだとおっしゃるのですか?
忍びの里を抱えてないとはいえ警備は厳重、我が国は各里に持ち回りで警護の要請をしてるからです。

「それほどの警備の目を掻い潜るのは、やはりどこかの忍びじゃろうな。」
「・・・・・・。 では改めて依頼を。 雅家に仕えた誇り高き知将のミイラを取り戻して下さい。」
「ふむ、心得た。 ・・・・・朱鷺さん、くれぐれもお願いしますじゃ、穢土転生の術は・・・・」
「・・・・・・・・何のお話でしょう。 そんな術、想像した事もありません。」

「ほほほほ。 ・・・・・ではこちらも誠意を尽くして、ワシ直属の忍び達を就けますじゃ。」
「?! なんとありがたい・・・・ 雅様もお喜びになられる事間違いなし、です。」


火影様はご自分の懐刀のような忍びを、わざわざ我が天津の国、雅家の為に動かして下さると言った。
木の葉隠れの威光は、大陸では知らぬ者はいない。 天津の国の雅は、火影と個人的に交友関係がある。
もしそう内外に知らしめる事ができれば、我が国での大名 雅様の存在は揺るぎないモノとなる。

見果てぬ夢を追わせて道を誤らせる事よりも、今を生きる民の為に現実で成功を手に入れてもらおう。
例え噂の上での事柄であっても、城主の知名度が上がれば、それだけでそこに住む民は潤うものだ。
国内外の要人が一目置く大名、そういう立場を実現出来るのなら、嘘の一つや二つ喜んでつこう。
・・・・・これは雅様個人ではなく、代々雅家に墓守として仕えている一族の、私の務めだと思う。