鬼達の金棒 4
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三代目の書いてくれたイルカ先生用の任務依頼書には、依頼人の事、任務依頼の経緯とその目的が。
依頼人の個人的情報なんて知る必要がないから、そんなとこまでは読んでなかったよ、そう言えば。
本来は、死者を甦らせる忍術が存在するのか、もしあるなら甦った死者の捜索を、という依頼。
依頼人は天津の国の大名 雅家に代々仕える墓守の朱鷺さんという人。 それだけの記述。
「経緯がこう記されていて、実際の任務内容はミイラ泥棒の捜索とそのミイラの奪還です。」
「ウン、死者が甦るワケないヨ。 ま・・・・ 禁術の穢土転生を使えばあり得るケド。」
「ええ、でもあれはウチの里の禁術ですから。 情報分析部で厳重に保管されてます。」
「だから依頼内容が変わってるんですよ。 甦った死者の捜索ではなく、ミイラの奪還に。」
「任務内容の変更がそんなに重要な事かい? そんなの現場ではゴロゴロしてるよ?」
「依頼人の素性も。 要注意と書いてなければ、特に警戒する人物ではないのでは?」
確かにそうだ。 怪しい人物や癖のある人物なら、前もって三代目はボク達に伝えるはずだし。
イルカ先生用の任務依頼書にも、先生に警戒を促す為に、ちゃんと要注意人物と書くだろう。
任務内容の変更も、依頼人の個人情報も。 そのどちらも、実際に行う任務には影響がない。
「皆さんに説明をする時、三代目はこう言ってなかったですか? 禁術の話はするな、と。」
「ア、ウン。 でもそんなのは当たり前だからしないヨ?」
「・・・・では当たり前なのに、どうしてわざわざ口止めしたと思いますか?」
「・・・・・・・どうしてって・・・・ 木の葉は禁術を使う気はない・・・から?」
「はい、ブブー!! そう言ってしまうからです。」
「ん? ・・・・禁術は禁止されてるから禁術だろ? 当たり前じゃないか。」
「ですから。 術そのモノの存在を喋るな、ですね。 多分。」
「意図的に・・・・ すっとぼけろ、って事ですか?」
イルカ先生は、そういう術の存在の有無を聞いて来た依頼人が、大名家の墓守だという事に注目した。
そして普通なら利用している忍びの里に頼めばいい事で、わざわざ木の葉を訪ねる事ではない、と。
うん、確かにそう思う。 無くなったミイラか甦った死者か分からないけど、木の葉に捜索は頼まない。
木の葉は大陸一の忍びの里、ましてや三代目は、プロフェッサーと呼ばれるほど忍術に精通している。
その三代目の噂を知らない大陸の大名はいない。 捜索云々というよりはむしろ、術への関心が強い?
という事は・・・・ 無くなったミイラよりも忍術の可能性を確認したかった・・・ とか?
「だから思ったんですよ、こりゃ三代目は口止めしただろうな、って。」
「でもどうしてですか? それこそ、そんな術の存在を知らない上中忍で組めば・・・・・」
「そこで皆さん全員一緒の任務に繋がるんですよ。 可能性も全て否定する為に。」
「? 口止めする必要もないし、正規の忍びに行かせれば問題はないじゃないか。」
そうだよ、わざわざ知ってるボク達に頼まなくても、禁術の情報を持ってない上中忍を就かせれば。
口止めする必要もない、聞かれても知らないんだから話し様がない。 ・・・・・・・・??
でも知らないからこそ、無責任に話すかも知れない? 営業精神で取り組んでみましょう、とか?
・・・・・・・んー 確かにそういう事も考えられなくもないですが・・・・・。 う〜ん。
「その大名 雅様という方は、ご自分じゃなく墓守を木の葉に寄越した。 問題はここです。」
「別に・・・・・ ただの第一発見者だから、だろう?」
「それはそうですが、それだけじゃありません。 情報収集ですよ、完全に。 感想を聞く為です。」
「あはは! 親父様が他国の者にそんな情報を与える訳ないだろ?」
「いえ、口止めしてまで皆さんに任務を頼む理由は、一つです。 話したんですよ、三代目は。」
「「「「?!」」」」
「だから沈黙を守る変わりに誠心誠意を見せる、もしくは術の詮索はするな、という脅しです。」
「「「「・・・・・・・・・・。」」」」
一国の大名が聞いても、何も教えてはもらえない事は分かっている。 だから墓守を寄越した。
真相を聞けなくても、その墓守から見た木の葉、三代目の対応いかんで、状況が少なからず読める。
依頼人の素朴な疑問に、忍術で可能な事だという返事を期待したのかもしれない、と先生は言った。
もし三代目が頑なに否定すれば、依頼人は“あるけど教えたくない感じだった”と大名に報告するかも。
更に“木の葉の里に忍術研究を依頼してみてはどうでしょう”と提案なんぞをしてしまうかもしれない。
だからその依頼人にはボク達と同じく、意図的に術の存在を否定してもらう必要があるのか・・・。
なら、失敗と公表されている穢土転生の術の悲劇を語った可能性が濃厚。 いや、そうなんだろう。
「墓守人なんですよ、この方。 誰よりも死者と時間を共にしてるんです。」
「・・・・・・・・そうか。 なら、穢土転生がなぜ禁術か、理解してくれただろう。」
「ウン。 生者を犠牲にしなければならない術、そんなのは存在しちゃいけないヨ。」
「その大名にも、妙な期待を抱かせる訳にはいかないだろうね、重臣なら。」
「ええ、一歩間違えば・・・・・ 大名家の破滅に繋がりかねませんから。 おそらく。」
そうか。 忍術は限りなく不可能に近い事も可能にする。 術に長けた三代目が一番知っている事だ。
そうしてそれがどう悪用されるのかも。 歴代の影が禁術として封印した術はたくさんある。
残念ながら忍術には不可能な事もあるのだ、というのを大陸一の木の葉が認めれば、それは・・・・・
何よりの証になる。 この場合は偽りの証だけど。 雅様の淡い期待は粉々に崩れ去るだろうね。
意図的にその墓守に否定させたかったんだ。 そして嘘を主に報告させる為にボク達四人を就けた。
先生の言った通り、誠心誠意をみせる為なんだね。 けど、決して脅しではないだろうと思う。
イルカ先生は脅しも兼ねているのかも、と言ったけど。 今回のこの任務に関して脅しは無し。
始末してこい、口を封じて来い、とは言われなかった。 この任務は三代目の誠意そのものと考えていいんだ。