鬼達の金棒 15   @AB CDE FGH IJK LMO P




イルカ先生がおれ達の事を、自分の事の様に誇らしげに語るのは・・・・ それも三代目の見解なのか?
先生がおれ達を褒める度に、三代目もそう思っているという気がしてくる。 不思議なもんだ。
あれだな、三代目が“あ奴ならワシと同じ見解に至るぞ?”などと言ったからだな。 ・・・・ふっ。

火影の名代なのは、何もおれ達ばかりじゃないという事だ。 ・・・・イルカ先生もそうだろう。
そして。 木の葉の里の忍び皆が、他国に出向いたらそうであるように振る舞え、という事だ。
ウチの里を直接知らない者も、木の葉の忍びはこうなのだと、誰かから伝え聞くようにしろ。
一歩里の外に出たら、誰もが火の国と木の葉の名を背負って行動しろ。 そういう事になるな。


・・・・・・ふっ。 これも全部が今更な事だ。 三代目はもとより正規の忍びは皆、そう思っていた。
おれ達だけが気付いていなかったのか。 三代目は・・・・ そんなおれ達に気付いた、だから先生を。
家庭教師と称して、正規の忍びの代表ともいえる考え方を学ばせようとしたのかもしれないな。

イルカ先生の性格なら、おれ達を前にしても萎縮したりせず、ごく自然に教師として振る舞う・・・・
子供達に質問される事も答える事もアカデミーでは日常、先生は子供の扱いに慣れているからな。
これも想定済みだったんだろう。 一番最初に三代目が言った言葉の本当の意味が、やっと分かった。




“お主達には子供らしい事を何一つさせてやれんかったからの”・・・・懺悔ともとれるあの言葉。
おれ達はこう思った。 三代目が謝る意味が分からない、戦後おれ達の世代は皆そうだったと。
本当に皆そうだっただろうか。 本当なら自然と身につくはずだった事がついていなかったのに。


強制的に子供姿に変化させたのは、子供になら誰にでも与えられる権利を与えたかったからだ。
“解らない事は聞けば教えてもらえる権利”だ。 ある程度大きくなるとそれは通用しない。
解らなかったら自分で調べろ、そうでないと自分の本当に力にならない、と言われるだろうからな。

まあ、聞ける相手は両親や兄姉ではないが。 子供なら肉親の他に初めて身近に接するのは教師。
おれ達は忍び、聞けるはずの肉親はその時既に亡く、忍者学校の教師をつけてくれたんだろう。
子供の頃に与えられる当たり前のその権利を、今になって与えられた。 その時間を飛ばしたからと。

おれ達はもう大人になってて“自分で調べなさい”と言われるだろうはずが、そうじゃない。
イルカ先生には大人の姿でも子供の姿でも、好きな時にいつでも質問をしていいという事だ。
大人になったら失うその権利を、おれ達は今も与えられている。 ある意味、得した様な気になるが。


だがイルカ先生は結構シビアだ。 食い物の例え話は別として、子供だましの嘘で誤魔化さない。
大人になってから与えられた権利を使うと、本当に子供なら理解できないだろう事を教えられる。
幼い子供に“里や国を背負え、火影の名代として行動しろ”などという事は、到底理解不能だからな。

ん? ・・・・・・ちょっと待て。 カカシやテンゾウは四六時中その権利を行使していて・・・・・
さっきはあんなガキみたいな真似を・・・・・。 行使し過ぎると子供返りのリスクを伴うのか、危険だ。
子供返りしたアイツらと、イルカ先生の話をこうやって頭で整理しないと理解できないおれ達。
誰が一番マシか謎だが。 ・・・・・全員を足して四で割れば。 丁度いいのかもしれんな。




花巻の里の忍び達は自里に戻り、長に木の葉との密約を報告をした後、薬湯の里を叩くそうだ。
この国の伝統を汚したも同然、しかもなんの効果もない薬を秘薬と称し売っていた、当然だろう。
とてもじゃないが、天津の国の近くに置いておけない。 雑草は伸びる前に刈りとるのが基本だ。

花巻の里との交渉は、これ以上ないほど上手くいった。 後はこの長の首を使って念押しをする。
なんの念を押しておくかというと、死者を甦らせる事が出来るのかという事への興味を削ぐ事だ。
これまで十分すぎるほど“木の葉の逆鱗である”と伝えはしたが、駄目押ししておいても良いだろう。


ミイラの実際の用途は秘薬として売られていた訳だが、木の葉は“復活の儀式”だと思い憤慨した。
・・・・・という事にしてあるからな。 用途がどうであれ、死者への冒涜は許さないという態度で。

死者を冒涜した者の末路だ、今回はそういう観点から、木の葉としては長の首を狩るだけに留めた。
もし怪しい研究等に使われていたら、最速里ごと殲滅してきた。 違ったからこれで済んだのだ、と。
そういう姿勢を貫き通す事で、もしも興味を持とうものなら木の葉を敵に回すぞ、と念を押す訳だ。



「まさかミイラが粉にされて売られていたなんて、思いませんでしたヨ。」
「・・・・・・死者への冒涜は同じ事、例え儀式や術の研究に使われていなくてもな。」
「まあ、そういう不快な思いを火影にさせた、という事の責任はとって頂きましたが。」
「だから里を潰すのは止めたのさ。 不快な思いの責任は里長一人が負えばいい。 ・・・・だろ?」

「おお、これが・・・・・ 諸悪の根源、薬湯の里の長 オガミの首・・・・・ か。」
「しかし薬湯の里をそのままとはいきません。 ですからここは雅様と花巻の里とで・・・・・・・」




何が木の葉の忍びを怒らせる原因であったのか、大名 雅様を通して国の要人らに広く伝わるだろう。
そしてそれは、同じ価値観を持つこの国の民の為に木の葉は協力を惜しまない、という意味でもある。
とてもノリの良い正義の使者の雅様は、きっと国のそこかしこで言いふらしてくれるだろうな。

国主は、国賊とも呼べる忍びの里を討った事で、一も二もなく花巻の里を国の隠れ里にするだろう。
雅様は、ずっと花巻の里を支援していた事で“先見の明がある”と、国内の要人から一目置かれる。
今はヒーロー気取りの雅様も、いつか名実ともに素晴らしい大名になるかも・・・・ しれないな?




穢土転生の術は外道の術だ。 誰かを犠牲にして甦る・・・・ これは歴代火影が一番嫌うだろう事だ。
今ならはっきりと分かる。 二代目火影が成功させた術をなぜ失敗だと公表し、禁術にしたのか。
誰かを犠牲にするぐらいなら己が犠牲になる道を選ぶ、そういう影達が治めてきた忍びの里だからだ。

入れモノを変えるだけで永遠に生きる事が可能。 まさに不老不死を謀らずとも実現してしまった。
望むモノとは違う形で完成した忍術。 誰もが夢見る不老不死、骨肉の争奪戦に発展するのは必須。
出来る事なら忍術では不可能なのだ、と思わせておきたいはずだ。 そんな発想すら起こらぬように。


・・・・・・三代目が。 なぜおれ達四人を今回の任務に就けたのか。 火の意志を継げ、という事だ。
おれ達人間は皆いずれは死ぬ。 だが木の葉隠れの里に根付き、受け継がれて行くモノは死なない。
二代目が禁術としたモノは、やはり禁術として沈黙を守り次代に伝えて行かなくてはならないモノだ。

三代目もそう思ったから、その思想にとりつかれる様な人間を二度と作りたくなかったんだろう。
実際に。 三代目の弟子である木の葉の三忍が一人、大蛇丸は。 その思想にとりつかれてしまった。
歴代の火影の意志を裏切り、里の家族を捨てたんだ。 ヤツにはもう帰る場所も待つ人間もいない。

“木の葉の忍びは葉っぱ、忘れないで、里が大樹なんです”いつかイルカ先生が言った言葉だ。

大樹と呼ばれるほど成長した木は、根を地中深く張り巡らせ、ちょっとやそっとじゃ倒れない。
木の葉隠れの里が大樹なのは。 成長するまでに張り巡らせた根が力強くたくさん伸びているからだ。
葉っぱは、その根が吸い上げた栄養分で育つ。 いつか葉は枯れ落ちるが、また大樹の養分となる。

大樹を支える力強い根、火の意志を。 おれ達が伝えていく番なんだな。 だから上忍師になれ・・・・ と。