鬼達の金棒 14
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ボク達が雅家に戻った時、襖の向こうでイルカ先生がボク達の事をさも自慢げに語っていた。
・・・・なんか。 今ここで出て行ったら・・・・・ 出来過ぎの様な気がしないでもないですが。
あんまりタイミングいいと、裏があるとか思われないかな・・・・ いや、先生を信じよう。
きっとこれでもか、ってぐらい上手く話を纏めてくれてるはずだ。 だって忍者学校の先生だしね。
ボク達に一般常識を教えてくれてた家庭教師の本職は、忍びで忍者アカデミーの教師だもん。
しかも任務受付所にも入ってる。 人と会話するのが上手だし、表情も豊かだし、説得力もあるし!
ボク達でさえ懐いた忍び、初対面の他里の忍びと対談しても、良い第一印象を与えてるに違いない。
やっぱりね、力に訴える事も時には必要だけど、避けられるものなら避けた方がいいんだよね。
今だけの事じゃなくて、行く行くは里の家族の未来に繋がる行動になるんだから。 うん。
力で制しがちな忍び社会の中で、相手の考え方を尊重して話すから、好かれるんだね先生は。
・・・・実際、アカデミーの生徒とかもイルカ先生に懐いてるし・・・・ 特にナルトは懐き過ぎっ!!
まあ、ナルトも後一年したら卒業。 もうちょっとだけ貸し出してあげるよ、卒業試験までだけね!
いや、でもナルトは・・・・ 今迄三回卒業試験に落っこちてるらしい・・・・ 一年で済むかな・・・・
・・・・・・?? なに悩んでるんだ?? あ、すみません、つい。 ナルトの事を思い出して! へへ!
さてと。 中に入りますか! イルカ先生が自慢げに褒めちぎっているから、少々照れくさいけど!
お初にお目にかかります、我ら木の葉の暗部、戌・猫・猿・酉の部隊長四人、どうぞお見知りおきを。
イルカ先生がそうとう上手く話を纏めてくれた様だ。 ボク達が対談中の部屋に入ると歓喜が起きる。
花巻の里の忍びの視線は、好意的なモノだった。 “さすがは木の葉の忍び”という尊敬の視線。
ではボク達もそれに見合った成果を報告しますかね。 だってボク達は・・・・ 火影の名代なんだから。
まずは。 ミイラが何の目的の為に盗まれたか、の説明と、墓荒らしの責任を取らせた長の首を。
誰も里長の不在に気付かないのは、里長 オガミの姿を移したボクの木遁人形が、代行をしているから。
長の人形が中から手引きするので、いつでも好きな時に薬湯の里を攻め滅ぼせますよ、と伝えた。
「国に尽くした要人を粉末にして売る・・・・・ 正気の沙汰とは思えん。」
「ただ希少価値があるというだけで、万病に効く秘薬だと思い込ませていたんだよ。」
「スミマセン、無傷だったのはこの雅家の要人だったミイラのみの、一体だけでシタ。」
「なので。 我ら木の葉が請け負った任務依頼は、これにて完了と致します。」
「「おぉ・・・・・・ さすがは木の葉隠れだ・・・・」」
「「実に・・・・ なんと素早い対応であろうか・・・・」」
「時に。 俺が言った事は大げさでも何でもない事がおわかりになりましたでしょうか?」
・・・・・・うわぁ。 イルカ先生のあの顔。 仕事をして来たボク達より自慢げな、あのどや顔。
ほんとイルカ先生は表情が豊かで感情を気に乗せ過ぎるから困る。 一身に信頼を浴びる心地よさが。
先生はそこに居るだけで感じさせるんだ“これがウチの里の誉です 素晴らしいでしょう?”って。
ずっと前に、自分や他人に無関心なのが一番問題だと言ったイルカ先生。 そうだよね、その通り。
自分が良かれと思っているだけでは駄目だ、どうして良いのかを行動で示さなければ相手に伝わらない。
今もそうだ、言葉よりもイルカ先生の態度や花巻の里の忍びの視線が。 それを雄弁に物語っている。
里の忍びだからそうするんじゃない。 さすがは木の葉、と相手に思ってもらいたいから行動するんだ。
火影の名代としての自覚。 里を、里の家族を背負ってるという責任感、火の国を守るという立場。
どれも今更の事ばかり。 昔ボク達に、サンドウィッチを例に上げてイルカ先生は説明してくれた。
相手を見ればよかったんだ。 ボク達のとった行動が与えた印象は、相手の態度で分かるんだね。
食べてみて美味しいくないけど無理に美味しいフリしてたり、不味そうな顔してたりする態度で。
今回ボク達のとった行動はどれも違う。 ちゃんと美味しい中身の入ったサンドイウィッチになってた。
一番危惧している事。 それは国の専属になった花巻の里の忍びが、報復措置をとるかもしれない事。
正義の味方に豹変した雅様をはじめ、この国では死者のミイラを伝統だからといいつつ大切にしている。
だからあの里はこの国の民にとって害、潰すのは当然だ。 けど秘薬を買った人間にも恨みが向く。
希少価値のある珍しいモノだから効くに違いないと、眉唾モノの噂を信じて行動した無知な人々。
それらを探し出して全員を狩るのか? 気持ちは分からないでもないが、全くの無駄な殺戮だ。
でもそれはもう、ボク達木の葉が関与すべき事じゃない。 この国とこの国の隠れ里が下す決断。
そう思っていたらイルカ先生がすかさず言った。 う〜ん、さすがというか・・・・ うん、先生だ。
「医者から見放された難病を患う人は・・・・ 藁をもすがる思いで秘薬を求めたのでしょうね。」
「「「・・・・・・・・・・・。」」」
「家族は全財産を売リ払ってでも、苦しむ家族の為に金銭を工面したでしょう・・・・・・。」
「「「・・・・・・・・。」」」
「憎むべきはそういう弱い人達をクイモノにしていた・・・・ あの里の忍び達・・・・・。」
「本来ならここにおります四部隊長が、すぐにでも殲滅させたかったはずです。 それを思うと・・・・」
「・・・・イエ。 ソレは、真にこの国を思う忍びの里の役目だと分かってましたヨ。」
「あなた方、花巻の里の忍びなら。 警備の報告件数も対応も、ずば抜けていましたから。」
「アンタ達の様な忍びがいる里なら、里長も素晴らしいんじゃないか、って思ったんだよ。」
「・・・・・・・ふっ。 ウチの火影なら。 ・・・・・そうすると思うからな。」
「「そうですね、グッとこらえて長の首を狩るだけに留めて下さった・・・・・」」
「「 ・・・・・・・・・。 ( これが国の隠れ里としての対応なのだな・・・・ ) 」」
「「必ず。 忍びの威信にかけて潰しましょう。 弱者をクイモノにする忍びの里を。」」
もうすでに。 天津の国に花巻の里あり、と木の葉は思っています。 後はお任せいたしますね。
イルカ先生は、そう笑顔で密約対談を締め括った。 ・・・・・ボク達の反応も計算に入れてたんだ。
ああ言えば、必ず今のボク達なら・・・ 火影の名代として自覚したボク達なら、こう反応すると。
あれで物珍しい秘薬を手に入れてた無知な人が、一番の被害者だと思わせる事に成功してる。
よもや、そういう死を待つだけの弱者まで探して狩る様な事な真似はしないですよね? って事。
実際にそういう弱者もいるだろうが、ごく少数だろうね。 でもそんな事は関係ないんだ。
そう思わせれば、諸悪の根源はあの忍びの里であって買った人達に罪はない、って感じるからね。
そうやって小さな争いの種をそのままにしておかない事で、何も知らない民が命拾いする・・・・
それに巻き込まれるだろう、全くの無関係のたくさんの命を、事前に助ける事ができるんだ。
よその国の知らない民の心配なんて、前はこんな風に思わなかった。 他国の話、他人事だから。
でも今は違う。 大陸にある国や里が起こす行動は、火の国や木の葉の里と繋がるのを知ってる。
そしてボク達 木の葉の忍びの行動が、他里や他国の手本となる事も。 同じ忍びの者として。
そうでしょうイルカ先生。 そういう事だよね、サンドウィッチの中身、具を充実させるっていう事は。