鬼達の金棒 8   @AB CDE FHI JKL MNO P




昨日、大名の雅様に謁見したんだけど、なんとまあ、乗せられ易いと言うかなんと言うか・・・・。

そりゃ、アタシらも意図的に“死者への冒涜は木の葉の天敵だ”みたいな話をしたんだけどさ。
“大名である雅様が、国主よりも先に手を打たれた事は実に素晴らしい”とヨイショしたり。
“他の大名が見過ごしてもワタシだけは違う! 死者への冒涜は許せん!”とか言っちゃってまぁ。

すっかり死者を甦らせる事への興味は失せ、最速、墓を荒らした隠れ里のあぶり出しへと変わった。
親父様が共感したとか、木の葉は力の限り尽くしますとか言ったおかげで、一緒に戦う気満々。
冗談、にわか正義の味方みたいなヤツが、モグリだけど、他里の忍者と対峙できる訳ないじゃないか。
上手く乗せられてくれたのに邪魔だとは言えない。 そこの所は先生がすかさず話をつけてくれたんだ。

『国主がお持ちの隠れ里の情報が欲しいのですがお願いできますか? 雅様にしか出来ませんので。』

アタシらは内心、イルカ先生ナイス! って拍手喝采したね。 あんなのに出張られたら動けない。
もう一回しつこく言うと、クソの役にも立たないよ。 でもそのクソにもちゃんと役割があった。
イルカ先生という人は、本当に不思議な人だよ、先生になる為に産まれて来たんじゃないかい?

アタシに言わせりゃ、あの墓守の朱鷺さんの方が大物に思えるよ。 今回の事も発端は彼だ。
自分が気付いたみたいな事を言われてその気になってるけど、盗まれた事に実際に気付いたのは彼。
忍術かもしれないと疑問を持ったのも朱鷺さんだ。 ・・・・あれ? じゃあ朱鷺さんが大名なら・・・・

ああ、そうか。 乗せられ易い主と出来た従者。 逆だと大名家はいずれ傾いたかもしれないね。
だって考えてもみなよ。 従者だからああいう控えめな性格なんだ。 あれで身分があればまた違う。
程よく頭の回転の良い奴は、野心も持ち合わせている。 火の国でもそうだ、信用出来る大名は過小。
それでも木の葉が目を光らせてるから対処出来る。 忍びの里を抱えてないこの国では・・・・ ね?

そう考えると大名の雅様と墓守の朱鷺さんも、一緒に来た三色団子共みたいに割れ鍋に綴蓋だね。
アタシは身分がどうのとかは良く分からないけどさ。 世の中上手い事できてんだね、とは思うよ。
イルカ先生もアタシらみたいにもし強かったら、ああいう大らかな性格にはなってなかったかもね。





昨日アタシらにヨイショされ、役目を与えられたクソが役に立ってくれた。 ハエに昇格させよう。
一日で国主から雇った忍びの里の情報と、その間の任務状況の報告をしっかりかき集めてたんだ。
またもやイルカ先生に褒めちぎられて、大変ご満悦のハエでもさ。 やるときゃるもんだねぇ。


特定の隠れ里を抱えない天津の国は、忍びに対して無防備。 だから対忍び用に忍びを雇っている。
その中でも特に優秀な里を、いずれ専属として国内に迎えようという事になってるらしいよ。
お抱えの里オーディション、てな感じだろう。 雇われた忍び達は自里のPRも兼ねているんだ。
だからわざわざ問題を起こそうとはしないだろう。 でももし。 その立場を利用する里があれば?

ハエが頑張って一日でかき集めた情報から、イルカ先生は警備報告の件数に重きを置いた。
イルカ先生曰く、皆自里のPRをする訳だから、報告の少ない里を調べてみる・・・・・ らしいよ。

「怪しまれない様に行動するには、一番報告が多い里・・・・ じゃないのか?」
「ええ、でもほら。 雅家の霊棟だけでなく、国中の霊棟の報告もあります。」

「・・・・ほんとだ。 他の大名家の霊棟まで確認してたのか・・・・ やるねぇ、ハエも。」
「ハ、ハエ?! ・・・・アズサさん、まさか雅様の事ですか??」
「「「・・・・・・・・・・・・・。(なぜハエ??) 」」」

「クソの役にも立たないと思ってたら、クソの役には立った。 だからハエ。」
「「「上手いっっ!!」」」
「アハハ! そうだろ? さっきハエに昇格させ・・・・・ っ!!」
「「「?!?!?!」」」
「他国の大名には気を遣う事!! 昨日解説したばかりじゃないですかっ! もう!」


先生に報告書で頭を叩かれた。 先生、それ国主に返す報告書だろ? シワシワになってもいのかい?
そう言ったらまた叩かれた。 やっぱり三人とも。 なんだいなんだい、たかが内輪のアダ名だろ?!
・・・・・・・?? 昨日先生が言った事?? アタシらは三代目の名代でこの国に・・・・・ あ。
そうだよ、そうだった。 せっかく三代目ならこう言うだろうな、って思って謁見したのに。

「ごめん、イルカ先生。 謁見が終わって安心しちまったよ・・・・・」
「オレも・・・・・ イルカ先生とイチャイチャ出来て安心してた・・・・」
「ボクも同じです・・・・ 安心して・・・・ 後は里を潰すだけだ、って。」
「・・・・・・・まだ。 帰還するまでが三代目の名代なんだな。」
「そうです! 学習能力が高くて助かりますが、それを忘れない様に!」

ちょっぴりシワシワになった警備報告書の統計表を、器用にも火遁と水遁で元に戻したイルカ先生。
片手でホンワカ火遁を纏い、片手で霧状の水を吹き付けた。 即席アイロンだね、さすが先生!
こんなちゃちい忍術の使い方もあったんだねぇ、ほんと先生には驚かされるよ、まったく。

「・・・・へー イチャイチャ出来たのかい。」
「「うんvv 結界張ったvv」」
「・・・・そうか。 それでいい、迷惑だからな。」
「・・・・・・・・・・あの。 話を戻しますよ?」
「「「了解!」」」

厳重な警戒の中でミイラを人知れず盗む事が出来るのは、この国に雇われている忍びの仕業だ。
発覚しても疑われない為には評価の高い里、つまり、警備に関する報告書が多い里だと思うんだよ。
アタシもカオルと同じ意見さ。 怪しいのは・・・・?? 実力がある里なら危険は侵さない??
・・・・・ああ、そうだった。 いくつかの里が専属の立場を争っている・・・・ という状況下だったね。

「だからこれを見て下さい。 ・・・・ほら、雅家以外にもミイラ紛失が起きてるでしょう?」
「ンー ミイラを盗まれたのは雅家だけじゃない・・・・・ ってコト?」
「はい、他の大名家も同様です。 調べてくれたんですよ、各大名家付きの墓守が。」
「・・・・・なんだこれは。 国中でミイラが盗まれてたのか。」
「そうです。 朱鷺さんが果敢にも棺の蓋を開けなければ発覚しませんでした。」

「お抱え率の高い優秀な里は除外です。 報告書の少ない里が疑わしいんです。」
「いずれこの国の隠れ里になるなら、今盗む必要はないですもんね。」
「そうなんです。 だから単純に考えて“ほどほどに報告してる里”を偵察なんです。」

イルカ先生は付け足して言った。 その里の目的はミイラだけ、装飾品には目もくれてません。
この国に抱えられる事よりも、国内を自由に闊歩出来るというメリットだけが必要なんですよ。
あまりにも怠慢だと隠れ里候補から外されてしまうので、ほどほどに報告してるはずなんです、ってさ。


やっぱりイルカ先生も忍びなんだと改めて思うよ。 ・・・・忍術でアイロンしたりする男だけどさ?