鬼達の金棒 6   @AB CDF GHI JKL MNO P




道中のカオルさんとアズサさんの態度に一抹の不安を感じたけど。 大丈夫だった、さすがは精鋭部隊。
そりゃもう、見事に演じきってた。 ・・・・・この場合は演じる、という表現でいいと思うんだけど。
実際に理解してくれてるかは別問題だから。 形の上だけでも相手にそう感じさせるのなら十分。
大名 雅様に謁見し、ご本人の顔を立てまくってた。 しかもしっかりと警告までして。 凄いよ。


墓荒らしは死者を冒涜するような行為、この国は死者を殊の外大切にすると聞き及んでおります。
ミイラ泥棒の捜索、及びミイラの奪還を、我が里に依頼された事、火影は大変感激しておりました。
なにしろ、我ら木の葉隠れの忍びも“死者への冒涜”というのが大嫌いでして。 見過ごせません。

この国の厳重な警備の中、ミイラを盗むのはどう考えても忍びの仕業。 もしそうならば。
ミイラは復活の儀式に使われているのかもしれないのです。 何をどう聞き及んだかは知りませんが。
忍びの忍術を持ってしてもそれだけは不可能なのです。 だからこそ研究をする里が後を絶ちません。

先ほども申しました通り、木の葉隠れの里は“死者への冒涜が大嫌い”です。 逆鱗だと言っていい。
そのミイラを盗んだ忍びの里を塵も残らぬよう潰してこいと、火影は我ら暗殺部隊を遣わしました。
同じ志しをお持ちの天津の国が大名、雅様におかれましては、さそや御立腹の事と存じますが。

ご安心下さい。 そういう思考の持ち主は、我が木の葉隠れの里が全力で潰すとお約束致します、必ず。


・・・・・ってな具合。 あんな事を先に言われたら、実は興味があるのだとは言い出せないだろう。

やっぱり暗部の部隊長は凄いな? いや、そんなの分かってたけど。 俺ヘンに感激しちゃったよ。
先生、頭ワシワシして! とか言って甘えてくるウチの二人もそうだ。 つい忘れがちだけど。
三代目がご自分の手足だと言ってるのが分かるな。 俺、皆と知り合えて幸せだよ、ほんと。

時に朱鷺さん。 いや、シャレじゃないですよ? さっきのあれ、最高でした。 駄目押しな感じで。
まあ、ウチの里の面々の反応もそれに合わせて、更に真実味を帯びたんですが。 火影に代わりお礼を。
主に嘘をつき、沈黙を守るという辛い事をさせてしまって申し訳ありません、ありがとうございます。


「いえ、そんな辛いなどと・・・・・。 むしろ雅家のお力になれて嬉しく思います。」
「・・・・・道を誤らせない事は、この大名家に仕えるあなた方一族の使命だ。」
「はい、そう思っております。 それに。 火影様はその気になれば私の記憶を奪えたはずです。」
「・・・・・・・まいったね。 アンタを信用した親父様の気持ちが分かったよ、その通りだ。」

ええ、実際そうなんですよ? もしも。 もっと露骨に穢土転生の術に興味を示したとしたら。
記憶を奪うなどという生易しい事はしなかったかも、です。 その場で殺したかもしれませんね。
更に三代目はあなただけでなく、術に関心があるこの国の大名 雅様をも、暗殺したかもしれません。
・・・・・・それこそ。 さっき朱鷺さんが、ご自分で言って下さったじゃないですか。 くすくす!

そうなんだ。 これはあり得ないけどそういう事も考えられなくもない、と言ってみただけ。
でも、さっき俺達の謁見の場に同席した朱鷺さんは、そういう意味で駄目押しの協力をしてくれた。
ブルブル震えてみせ、雅様に“どうしたのだ?”と言わしめた。 そう聞かれた朱鷺さんの言葉は・・・・


『申し訳ありません殿。 あの時の火影様の鋭い眼光を思い出しまして・・・・・・・・・。』


そんな事をあの謁見の最中に言ったら? 朱鷺さんに依頼人として木の葉に行かせたのは雅様だ。
“死者を甦らせる忍術は果たして存在するのか”と、朱鷺さんに情報収集がてら質問させたのも。
死者の冒涜は木の葉の忍びの逆鱗だ、と言う話をしている中だ。 火影の怒りを思い出した事になる。




『ああ、依頼人にいらぬ殺気を向けてしまったと、珍しく三代目がしょげていましたね。』
『・・・・・墓守だからな。 そういう忍術に興味があったとしても・・・・ 不思議じゃない。』
『アハハハ、親父様が珍しい。 あんたの素朴な疑問だったんだろうけど、すまなかったね?』
『ウチの里の影は、そういう質問も大嫌いだからネ。 ま、オレ達里の忍びも全員だけど。』

『い・・・・ いえ、その・・・・・。 すぐに忍びの仕業であると教えていただいたので・・・・』
『ええ。 墓荒らしはそういう輩の仕業ですよ。 三代目はすぐに気付かれたんです。』
『こ、こちらこそ・・・・・ 興味本位とはいえあんな質問を・・・・・』
『大丈夫ですよ。 三代目が向けた怒りの矛先は、ミイラを盗み死者を冒涜した隠れ里です。』
『・・・・・・・・・・・・・。』




雅様は内心ヒヤリとしただろうな。 まさか自分が質問させたとは言えない。 興味がある事すら。
本当に最高のタイミングで震えてくれました。 更に雅様にも貸しを作れた事になるんですよ?
・・・・? それは気付かなかった?? くす! 雅様にとって自分の名を出さなかった事が借りです。
もし“殿に聞いて来いと言われましたが”などと付け足しでもしたら、面目丸潰れでしたから。


「皆さまにそう言って頂けると・・・・ 自分の決断に自信がもてます。」
「こんな良い家臣が仕えていて。 雅家はよかったネ?」
「皆さまこそ。 火の国が大陸一の忍びの里だという事を、象徴しておられますよ。」
「・・・・・そ、そうかな? イルカ先生、そう??」
「くすくす! ええ、当たり前じゃないですか。」

「はい。 ご自分の懐刀ともいえる忍びを行かせるとおっしゃっていました。」
「・・・・・親父様が?」
「「・・・・三代目が??」」
「・・・・・・・ふっ。」
「・・・・朱鷺さん、この四人は火影様の手足とも呼ばれてるんですよ? ふふふ!」

ああ・・・・・ なんか俺、感無量だ。 だってそうだろ? 一年と少し前はこうじゃなかった。
自分達は暗殺部隊、殺しが己の性。 全ては木の葉の為、無駄口を叩く弱者は引っ込んでいろ。
何事もそつなくこなす自分達が基準、部下は出来の良い駒、正規の忍びの事を“おもちゃ”と呼ぶ。
そんな・・・・・ この四人はそんな忍び達だったんだ。 それが・・・・・。 あ、やば、涙出てきた。


「「「「イ、イルカ先生?!」」」」
「すみません、なんか・・・・ ははは! ・・・朱鷺さんが思っていた通りの方でよかったです。」
「そんな! 泣くほど感銘してもらえるなど、恐れ多いです・・・・ ははは・・・」
「「「「・・・・・・・・・。」」」」

あー 危なかった、上手く誤魔化せたよ。 もちろん朱鷺さんがこういう方で安心したのは事実だし?
涙の意味は違うけど、嘘は言ってない。 あの感情を忘れた子供達が・・・・ と思ったら、つい。
そこの二人、ペッタリくっつくのが大好きなひっつき虫なんですと言っても、朱鷺さんは信じないだろうな。