声にならない依頼 1   ABC DEF GHI JKL MNO PQ




アカデミーの授業がない日は受付。 もうずいぶん前から、俺の日常になった。 これには感謝してる。
任務を手渡す時は、生きて帰って欲しいという希望。 報告書を受け取る時は、帰って来てくれた嬉しさ。
里でそれが一番最初に感じれる場所だから、俺は教員だけど受付の仕事が大好きだ。 きっと三代目も。
あと、様々な内容の依頼があって、ウソを見抜く観察眼を鍛えるにのも役立つ。 まだまだ甘いけどね。


「イルカ、明日あたり、カカシとテンゾウが帰ってくるぞ?」
「そ、そうですか・・・・ じ、じゃあ、兵糧丸作ってもらわなきゃ・・・・。」
「ほほほほ。 若いモンはいいのう。 今を、しっかり生きるのじゃぞ?」

三代目と一緒に並んで座る事が多いから、火影直属部隊の帰還情報もくれたりする。 これも受付の特権。
流されるままに婚約してしまったが、今ではこれも何かの縁だと思ってる。 相手は暗部の部隊長達だ。
いくら婚約して生活を共にしてるとはいえ、暗殺戦術特殊部隊の任務内容に触れる訳にはいかない。
だから、こうやって三代目が教えてくれると有難い。 前もって準備出来るから。 何の、なんて聞くなよ?

「暗部って・・・・ その・・・ みんなああなんでしょうか?」
「うむ、他の忍びより負担が大きいからの。 反動も大きいのじゃ、仕方なかろうて。」
「はははは、やっぱりか・・・・ 俺もっと体力つけなきゃ・・・・。」
「ほほほほ。 癖者ふたりを相手なら、切実な悩みじゃのぉ。」

癖者っていうか・・・・ 超でっかい子供コンビだと思うんだけど・・・・。 あんなに凄い人達なのに。
ホントあり得ないというか、なんというか。 やたら偉そうに絡んでくる人達だなぁ、とは思ってた。
その、ね、すっごい素直に喜んじゃうから・・・・ ヤラれたというか、実際ヤラれたんだけど。
俺が何を言っても、妙に嬉しそうだし、ヘンな心配ばかりするし。 俺、子供に弱いんだ、大好きだしな!


「お主ら里の忍びの幸せが、ワシの幸せ。 結婚式は挙げんのか?」
「え? した方がいいんですかね、その・・・・ 暗部だし・・・・」
「引退まで待つのか? 暗部じゃ。 先の事は他のどの忍びよりわからん。 後悔せぬか?」
「・・・・ですよね。 はい、話してみます。 三代目、式に立ち合って頂けますか?」
「もちろん。 一番幸せな時の思い出として、お主たちの中に残るのは火影の特権じゃからの?」

「うう・・・・・ じっちゃん!!」
「これこれイルカ。 泣くのは早いぞ?」
「それとコレとは別ですからね? 火影室の書類整理は手伝いませんよ?」
「・・・・・ち。 成長しおってからに・・・・ つまらん。」

俺が一度、見るに見かねて手伝ったら、そっちも俺の日常にされてしまいそうな勢いだった。 まったく。
空いた時間は里を出る忍び達の為に、任務地の地図制作に使いたいんだ、そっちは自分でやって下さい。
俺が出来る精一杯の仕事をしたい。 退路は必ずある、生きる事を諦めずに里に戻って来て欲しいから。



ん? 小さな気配・・・・ 一般人の様だ。 受付所の扉の前で止まった・・・・ 任務依頼??
任務の受け渡しと依頼は9時から20時までなんだ。 だから受付所の扉を開くのは、その時間のみ。
その他の時間は裏口から出入りする。 任務報告は24時間体制で、こうやって誰かがいて受け付けるけど。
今は8時前、勝手はできない。 チラリと火影様を見る。 俺が扉の向こうに行くぶんにはいいですよね?


「小さな依頼人さん、ようこそ木の葉の里へ。 ふふ、エライね、誰かのお使いかな?」
「にんじゃさん、コレでねぇちゃんをとりかえしてください。 アトはおおきくなったらでいい?」
「・・・・・んーと・・・・ ちょっと待っててくれる?」
「はいっ!」

うわ・・・・ 駄目だ・・・・ 俺こういうのに弱いんだよ、ほんと・・・・。 裏口から出て表に回ると。
3、4歳ぐらいの男の子が扉の前に、膝を抱えて座っていた。 声をかけてみたら、里への任務依頼。
小さな手に握りしめられていたのは、子供銀行のカラフルな小判。 これは・・・・ 悪戯なんかじゃない。

「三代目っ!!! 出世払いですが、いいですよね?!」
「皆までいうな。 聞こえておったわ。」
「俺が保証人になります。 手付金のカンパぐらい・・・・」
「・・・・お主には立派な金ズルがおるじゃろ? ふたりも。 おねだりしてみろ、喜ぶぞ?」

「じゃあ・・・・・。 じっちゃんっ!! 書類整理は任せて!」
「ほほほほ、棚からぼた餅じゃ。 イルカ、あの子を火影室へ連れて行け。 依頼書を作成してこい。」
「はいっ!」

もう、書類整理でも何でもやってやる! だってあの子の目が・・・・ “お願い助けて”と言ってる。
親かそれとも知り合いか、一度は里に任務依頼をしようとしたんだろう、でも何かしらの理由で諦めた。
周りの大人が諦めた事をあの子は実行したんだ。 一生懸命大人のマネして任務依頼の為に里へ来た。
自分の思いつく大金を持って来て、足りなかったら大人になって払う、なんて。 他にどうしろってんだ!