声にならない依頼 10
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大名の名は肇〈はじめ〉ユウダイ。 先の忍界大戦時、木の葉隠れの為に物資を援助し続けた人物。
国主 時宗様の信頼は厚く、その城下は火の国の生産業の、実に半分を担っている。 彼に息子は3人。
ナギサさんを望んだのは次男のユウジロウ。 確かに、あの施設関係者が諦めたくなるような権力者だ。
一般人はどうも誤解してる節があるが、俺達忍びの里は、国主にぜひにと乞われ、その国を守ってるんだ。
各大名達が勝手をしない様に木の葉の里があり、俺達忍びは、いわば火の国の軍事機関だと言える。
だから里に対して権限を持つのは国主だけ。 そして木の葉隠れの里の忍びに対しては、火影だけ。
国主が一番信頼しているのは、どの大名とも決して私利私欲で結び付かない木の葉隠れの里の影なんだ。
「どんな大名であろうと、その息子であろうと。 里に圧力をかける、なんて出来ない。」
木の葉の里が独立してて、忍びが火の国を自由に闊歩できるのも、直接国の警護を任されているから。
女性を不当に召し上げてたとしたら、俺はありのままを報告。 それは三代目から国主へと知らされる。
国主からの信頼厚い肇家は、逆に二男を諌める事になる。 だからナギサさんは自由に選んでいい。
皆のいる施設に戻るか、一度決めたからと城に残るか。 こればっかりは本人のプライドの問題だから。
「ははは。 世話焼き、なんてよく言われるけど。 よけいなお世話だよな、ホント。」
これから城へ入る。 ナギサさんの行き別れの死期が近い兄、妹の幸せを願い会いに来た、そう言って。
ずっと妹を探していて、やっと見つけたら城に召し上げられたと聞いた、せめて一目だけでも、てか?
ベタな話だけど、相手は孤児院育ちで、その孤児院で他の子供達の世話をしていた。 無理のない設定だ。
「恐れ入ります、こちらは肇家の次男、ユウジロウ様のお城で間違いないでしょうか、わたしは・・・・」
普通に中に通された・・・・。 門前払いなら、ナギサさんを不当に拘束している疑いが濃厚なのに。
ナギサさんはユウジロウの側室、しかも一番寵愛を受けていると言う。 普通の女性なら玉の輿だと喜ぶ。
まあ、国主もそうだけど。 正室というのは、お家関係が勝手に執り決めた、人質交換のようなものだ。
側室達は城主本人が望む者。 子は多いに越した事はない、全員が無事に成人出来る可能性は低いから。
「もうナギサは私の側室。 いくら兄上でも、これ以上近づける訳にはいかない。」
「ああ、ナギサ・・・・ なんて綺麗になって・・・・ ううっ・・・・。」
「ナギサは私が一番気に入っている側室だ。 本来なら誰にも会わせたくはなかったが。」
「ユウジロウ様、ありがとうございました。 ぐす・・・ これでもう思い残す事はありません。」
「ユウジロウ様、わたしはもうすぐ寿命が尽きます。 ナギサを悲しませたくない、どうか知らせずに・・・」
「心得た。 ナギサの今後は私が保証しょう。 兄上は残された生を、ご自分の為に全うされよ。」
「なんて・・・・ なんて素晴らしい方に望まれて・・・・ ナギサ、どうか幸せに。」
直接会って話はさせない、私は嫉妬深いのだ、とユウジロウは前置きした。 ナギサさんの居る部屋。
部屋の障子をユウジロウが開け、俺は少し離れた中庭からその姿を確認した。 美しく着飾った側室達。
五人いる真ん中が、ナギサさんだと教えてくれた。 きらびやかな側室達は、投扇をして遊んでいた。
涙ながらに丁重に挨拶をする。 ユウジロウの事も、父君の事も褒めちぎっておいた。 偵察は終了。
「まいったな・・・・・。 三代目に報告しよう。 こんな事になってるなんて。」
一般人なら納得できたかもしれないが、俺は忍び。 この目も耳も、あの位の距離なんてないのと同じだ。
遠目には、投扇をして遊んでるように見えるだろう。 美しい側室達の、華やかな午後の時間のように。
まるで強い暗示にでもかかってるような、そんな動作。 その目は投扇はおろか、何も見てはいなかった。
彼女達の会話すら拾えない。 遊んでいるなら、笑い声や技を判定する声などが聞こえて当然なのに。
「話から想像したナギサさんは、とても芯の強い立派な娘。 明らかに同意でないのは確かだ。」
ねえ、つばさ君。 君が嫌いだと言った男は、どうやら最低な部類に入る奴らしいよ?
今はまだ何も出来ないけど、この事は三代目に報告して、かならず真相を明らかにするから。
ナギサさんと、なんとかして接触を図りたい。 ・・・・・面が割れてるしな、俺の潜入はもう無理だ。
国主の許可を取り、肇家に堂々と里の忍びとして介入するしかない。 火影様の判断に委ねよう。
「父君も、ご存知なのだろうか。 もしそうなら、これは時宗様をも失望させかねない事態だ。」
火の国の大名 肇ユウダイの次男。 ユウジロウ単独の行動だとしても、ユウダイ様は責任を問われる。
どちらにしても、国主 時宗様を失望させる事になるのは、避けられそうもない。 もちろん火影様も。
考えたくないけど、もしかしたら。 あの五人以外にも城に召し上げられた女性がいるかもしれない・・・