鬼に魅入られた男 10
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「・・・・・・すみません、部隊長。 聞いていいですか?」
「ナニ?」
「・・・・・あ、いえ、そのぉ・・・・・。」
「な、なんでもありません! すみませんでしたっっ!」
さっきからモノ言いたげな視線を感じてた。 早く言えヨ、と思っていたら、部下はいなくなった。
コイツらはオレとの付き合いは長いから、オレがここで任務以外の話はしない、と熟知してる。
ン? ・・・チョット待って? でもこの前先生に怒られた時、家族に無関心はよくないと言ってたっけ。
知っててそれをほおっておくのも同罪です、とかって。 ならこれはよくないコトなのかもしれないネ。
「待ちなヨ。 オレに聞きたいコトがあるんでショ?」
「えっと・・・・ 任務に関係ない、全く個人的な質問なんですが・・・・・」
「んー? ナニ? 言ってみて?」
「・・・・・あの・・・・ それ、なんですか??」
オレが呼び止めてそう言うと、お前らヒマなの? ってぐらいワラワラ部下が寄って来た。
オレんトコの部下だけじゃない、この待機所にいる隊員全員が、オレに注目したのが分かった。
あ、ウチの部隊長もつけてた、そう言って寄ってきたのは猫班の隊員。 テンゾウの部下だ。
どうやらあの時、イルカ先生に貼られた面のシールがナニか気になるらしい。 黄色い評価シール。
「先生からの評価シールだーヨ。」
「部隊長の評価・・・・ もっとがんばりましょう、なんですか?」
「んー オレの評価と言うよりは、オレがとった行動に対しての評価だネ。」
「ち、ちなみにどんな行動でそれを?? こ、これも聞いていいですか?」
なんだろ? ゾロゾロと整列し出した。 これからどんなキツイ戦場に向かうのコレ、ってな隊列。
スゴイ複雑な作戦を指示する時のように、緊張した空気。 ・・・・・お前ら、ここ待機所でショ?
まぁいいケド。 オレ達は、イルカ先生という家庭教師に一般常識を習ってる最中だ、と言った。
で、このシールを先生に貼られたいきさつを話す。 自分だけの問題じゃない、と怒られたと。
おおーーーー とどよめきが起こる。 ・・・・・・うるさいヨ、お前ら。 コレは一体どういうコト??
いつも気配を押さえて物音一つ立てない、伝令の足音がそれぞれの部隊行動の合図だったでショ?
ま、オレ達がいないときはわかんないケド。 ひよっとして、このガヤガヤした雰囲気がいつもなの?
「先生に貼ってもらったから、なんとなく剥がし難くてネ。 つけたまんま。」
「じゃぁ、ウチの部隊長のもそうなんですね?!」
「ウチの部隊長も そのシール、プロテクターにつけてましたよ?」
「あ、ウチの部隊長も。 確か。 得物の鞘につけてました。」
「ああ、アズサとカオルは任務干渉のレクチャーで。 先生、厳しいのヨ。」
「「え?! そうだったんですか?! で、もっとがんばりましょうシール・・・・・ ??」」
それも教えてやった。 あの後、カオルとアズサが質問をしたんだけど、それについての答えで。
干渉の仕方にも色々あると先生が言ったから、シミュレーションしてみよう、というコトになった。
先生が出した任務シミュレーションは、正規の忍びの援護任務での予定変更の場合どうするか、だ。
あ、そうだ、お前らもどうするか考えてみる? オレ達四人はサ、同じ回答をしたんだケド。
【現場の上忍と協力して戦闘を終結させる予定でした。 でも暗部には次の任務の指示が来ました。】
ふふ、皆シミュレーションしてるネ。 ハイ、と勢いよく手があがった。 お、オレの部隊だ。
まあ、オレ達と似たり寄ったりだと思うケド、お前ならどうする? 参考までに聞かせてみて?
敵の部隊を全滅させてから次へ向かいます! 正規の忍びには後始末をお願いします! ・・・・か。
イルカ先生がその答えは“がんばりましょう”だと言った。 オレ達より上だーネ・・・・ ふ〜ん?
「あ、あの! ち、ちなみに部隊長達は、なんて答えたんですか?」
「・・・・・正規部隊は即、里に帰す。 暗部が敵を全滅させて次の任務に行く。」
「え?! 援護任務ですよね? さ、先に帰しちゃうんですか??」
「・・・・・だって家族を守るなら、その方が速いし確実だし・・・・。」
「そ、その、部隊長。 “よくできました”はどんな回答なんですか?」
「・・・・正規部隊を敵の退路に配置、暗部が正面から突っ込んで挟み打ちで終結、で、次に。」
「へーーーー。 あ、じゃぁ、“たいへんよくできました”は??」
「敵の隊の頭を暗部が狩る。 後は全部、正規の忍びに任せて、暗部は次の任務に行く。」
おおーーーーー と、またもどよめきが起きる。 なんなのお前達、なんでそんなに興奮してるの?
なら正規部隊のメンツも潰れないな、援護任務としては最良の選択だな、とそこかしこで声が上がる。
部隊長と会話が成立したぞ、任務外の話が出来たぞ、意見を聞かれた、家族だと言った、などなど。
今度自分たちもイルカ先生に行動を評価してもらっていいですかね・・・・・だって。 それはダメ。
「イルカ先生はオレ達の専属の家庭教師なの。 お前らはダメ。」
「「「「・・・・・・・・・え゛っ!」」」」
「ご飯だって一緒に食べちゃダメ、あ、お煎餅も。 お前らは部下コロッケだし。」
「「「「そ、そうですか。 残念だなぁ・・・・ はははは・・・・ (意味分からん!)」」」」
半年ぐらい前だけど、三代目がオレ達の為に一般常識教育係として、先生を連れて来たんだヨ。
だから先生はオレ達の専属家庭教師。 イルカ先生に頭をワシワシしてもらうのもオレ達だけ。
このシールも、オレ達のワシワシされた記念なんだから。 さっきのに答えたからって、あげないよ?
部隊長ってこんなに一杯喋れたんですね、ってなにヨ。 お前らも家族でショ、ほっとけないじゃない。
そう言ったら、本日三回目の“おおーーーー”の、どよめきが起こった。 スゴイ感動してるヤツも。
ハハ、お前ら実は、幼馴染のガイみたいに暑苦しいノリだったのネ? でも・・・・ 嫌いじゃないヨ。
部下達がこういうノリだったら、“オレ達を心配する”と言ったイルカ先生の言葉の意味が解る。
ほっとかないでよかったヨ、イルカ先生。 行動を理解してても、考えを理解していた訳じゃなかった。
コイツらはオレ達に気を使って、オレ達の邪魔にならない様に行動していたダケ・・・ だったんだーネ。