鬼に魅入られた男 7   @AB CDE GHI JKL MNO P




邪魔な面をとり子供に変化して甘えて来い、イルカの言動をワシの見解、一般常識として取り入れよ。
そう親父様に言われて、アタシ達は海野イルカに一日つき合う事にした。 任務だと思えばいいか。
テクテクと前を歩く中忍 海野イルカ。 どこに連れて行かれるのかと思いきや、アカデミーの屋上。
ビニールシートを広げて、もって来た包みを開け始めた。 ・・・・・弁当? それを食べろと??



「他人が作ったモンなんか食べないよ?」
「他人じゃありませんよ? 木の葉の里の忍びは皆、家族です。」
「おれの一族は皆死んだ。 もう肉親はいない。」
「だったら尚更そう思って下さい。 この里が家です。」

「・・・・ソレ三代目の受け売りでショ?」
「家族なら・・・・ なんで抜けるんですか?」
「抜けるんじゃありません。 あれは家出です。 反抗期です。 成長過程です。」
「「「「・・・・・・・。」」」」

何言ってんだい、この平和ボケ中忍。 仲間を殺して抜けた奴が、家出もクソもないじゃないか。
この前、門番の中忍をふたり殺して里を抜けた奴がいた。 当然今後、アタシ達の狩りの対象だ。
しかも反抗期だって?! 成長過程?? どんだけ遅い反抗期なんだい、それ。 そんな奴は・・・・
抜け忍は・・・・ グレたクソガキだとでも言うのかい? 親父様とアンタは、そう思ってるんだね?

「その、アンタの言う家族を殺した奴でも、まだ家族なのかい?」
「はい。 それに家族を手にかける者の苦しみは、よくご存じのはずです。」
「・・・・・・そいつを発見したとして、だ。 その行いを許してやれと?」
「いえ。 それは駄目です。 家族ですから。 責任を持って罰しなければ。」

「・・・・ソレはサ、三代目の見解?」
「はい。 ところで俺は“アンタ”じゃありません。 先生です、皆さんの。」
「・・・・オモチャなのに先生? ヘンなの。」
「ヘンでもなんでも、俺は皆さんの家族で、先生ですから。」


部下とは違う。 ただのオモチャでもない。 アタシ達の家族で、先生なのか。 この目は本気だね?
次にアンタと呼んだら、ゲンコツが飛びます、俺のは痛いですよ? この中忍は本気でそう言ってる。
アタシ達に中忍の体術が利く訳ないじゃないか。 面白い、言ってやるよ。 アンタは・・・・・ っ!
これは・・・・ から揚げ?! まさか食べ物が口に詰め込まれるなんて、思ってもみなかった!!

「モグモグモグ・・・・・ ゴックン。 な、何すんだいっ! 食っちまったじゃないかっ!!」
「アンタと言った罰。 俺流、鶏の和風ジューシーから揚げです、自信作ですよ?」
「「「・・・・・・。」」」

あ、あ、あ、アタシを殺す気かい?! いや、死んでないけどさ。 何気に美味しかったけど。
俺のゲンコツなんか、部隊長に入る訳ないじゃありませんか、真に受けないで下さい・・・・って。
してやったり、って顔でニヤリとした中忍は、またもや思わぬ行動に出る。 三人にも突っ込んだ。
何をって、醤油味が香ばしい鶏のから揚げを。 唖然とした他の三人の口の中へ、あっという間に。

「「「モグモグモグ・・・・・ ゴックン。」」」
「それに毒入ってたら、皆で心中ですね! あはははは、油断大敵ですよ、皆さん!」
「くすっ!  心中って・・・・ アン、じゃなかった、先生も一緒に死ぬのかい? あははは!」

「おい、無理心中だぞ?」 「ねぇ、家族殺しだヨ?」 「慰霊碑に刻まれませんよ?」
「四天王がから揚げ食って無理心中。 ぷっ! 酉部隊長 共食いですよ、しかも! あはは!」
「くす! ちょいと! アタシは鳥に変化するけど鶏じゃないよっ! やめとくれっ!」
「「「死因が共食い?! ぶーーーっっ!! あはははは!!!」」」



アタシがこれぐらいの年の頃、こんなに笑った事はなかったね。 早く強くなりたい、その一心で。
任務でイライラした時、上忍の父の怒りのはけ口として、物心ついた時から殴られて育ったんだ。
そんなアタシが初めて人を殺したのは7歳の時。 初めての殺しは家族殺し。 そう、その父親だ。

ぶちのめされて鼻と歯が折れた。 どこが目か口か分からないほど顔が腫れあがったあの時。
肩と股関節は脱臼していたけど、アタシは隙をひたすら窺ってた。 猛毒を塗った爪で引っ掻く隙を。
もっと早くに気付けなかったワシを許してくれ、忍びの父失格じゃ、すまんかったのアズサや、
お主は自分の身を守っただけ、忍びなら当然なのじゃ、と。 親父様はアタシを抱きしめて泣いた。


「そうだったね。 親父様はそういう人だったね。 ・・・・先生、他のもつまんでいいかい?」
「?? どうぞ? 皆さんの為に作ってきたんですから。 くすくす!」
「・・・・先生は、親父様の・・・・ いや、三代目の考えを誰より知っているのかい?」
「まさか。 ただ、俺達への愛情は本物だと思います。」

「・・・・・そうだな。 それは感じる。」
「ま、当然でショ。 火影なんだし。」
「ボク達はその直属部隊ですから。」
「はい。 だから一番近い存在なんですよ、三代目にしてみれば。 我が子も同然です。」



「んじゃ、血の繋がったアスマの立場は?!」
「何かあった時に輸血できる人、です。」
「アスマさん、血液ストックなんですか?!」
「凄いですよね、あれだけの体だから、ちょっとやそっと抜いても平気ですよ、きっと!」

「ぶっ!! あははは!!! なにそれっ!!」
「先生、何気に酷い事言ってる!!」
「ほんとにアカデミー教師なのかい?! あはは!」
「結構毒舌だな・・・ ふっ!」

「何かあった時に本当の意味で救命できるのは、アスマさんだけ。 悔しいけど、これは事実です。」
「「「「・・・・・・・・・・うん。」」」」



アカデミーの屋上。 ビニールの敷物を広げてお弁当を食べた。 イルカ先生の手作りのお弁当。
アタシ達は子供になってたから、口の周りや手にいろいろつけて、先生におしぼりで拭いてもらった。
つまんない事でも、どんな事でも、イルカ先生は答えてくれた。 ・・・・信じられるかい?
その後、寝転がって空を見ながら、お昼寝したんだ。 アタシ達が。 お腹や喉を無防備にさらして。

木の葉の忍びは葉っぱ、忘れないで、里が大樹なんです、そんなイルカ先生の声を子守唄に聞きながら。