鬼に魅入られた男 16   @AB CDE FGH IJK LMN P




ボク達のPRは、というか、アズサさんのPRは失敗だった。 受付にイルカ先生本人が座ってたんだ。
で、即座に“がんばりましょう”を貼られたらしい。 あ、あと“よくできました”も、だ。
作戦は練り直しだ。 こうなったら正規の忍びに協力してもらうしかない。 少々、強引だけど。
直接PRが駄目だったなら、遠回しにPRだ。 干渉された本人の口から、漏らしてもらおう。


今現在、ボク達の中で三種類のニコチャンシールを持っていて、待機所で遊んでいるアズサさん。
みんな違う顔なんだ、可愛いだろう? そう言いながら、爪にシールを貼ってピコピコ動かしてた。
卒業したら全種類そろうだろうアズサさんが、ちょっとだけ羨ましい。 ・・・・・・ちぇ!

「これに貼れ。 イルカ先生にくれと言ったら、貰えた。 お前らの分もある。」
「へー! このシール専用の台帳なのかい? こんなのどうしたんだい?」
「アリガト。 ってか、カオル、意味分かんない。 ナニがどうなの?」
「えっと、二枚のシールは嬉しいんですが、これ、どうしたんですか?」

カオルさんの話はこうだ。 アズサさんが貰った二枚のシールを自分も欲しくて、先生を訪ねた。
イルカ先生は、分かりました、皆お揃いが良いんですね? と言って、快くシールをくれたそうだ。
目標は“たいへんよくできました”だから、他の二人にもあげて下さい、とニコニコしながら。
“それの台帳がアカデミーにあるんです、よかったら持って行って下さい”で、取って来たらしい。

「カオル、そのままでアカデミーに行って来たの?」
「これぐらいの血臭なら、敏感なヤツじゃないと感じない。」
「そうですね、アカデミー生は気付きませんよ。」
「あはは! 並べてみた! 可愛いよ、見てごらん?」

アズサさんが早速、台帳にシールを並べて貼った。 照れてる顔・焦ってる顔・拗ねてる顔の三種類。
イルカ先生が言った、ニッコリ笑ってる“たいへんよくできました”を、この一番前に貼るんだ。
一杯マスがある。 本当ならアカデミー生が、これにたくさんのシールを集めて貼るんだろうな。
アカデミー生と一緒にして欲しくないのに、こんなのさえ嬉しい。 先生とボク達の思い出だから。

「ところで、こんなのを見つけたんだが。」
「・・・・・術玉?? 暗部印ですね・・・・・。」
「なんだい? 術玉じゃないか。 どこにあったのさ?」
「里内で術玉なんて・・・・ ナニに使うの?」

ボク達もアズサさんと同じく、新しく貰った二枚のシールと最初のをペタペタ貼ってニマニマ眺めてた。
するとカオルさんが暗部印の術玉を取り出した。 アカデミーの女教師の頭についていたんだって。
暗部印は暗部の忍具。 ボク達の誰も知らないということは・・・・・ まさか誰かの部下が・・・??
ここに何人かいるから、問いただしてみよう。 表の忍びに、何か変な事してるんじゃないだろうね?





・・・・・部下を責める事はボク達には出来なかった。 だって・・・・・ イルカ先生が結婚なんて。
そんな事、考えた事もなかった。 イルカ先生はボク達より遥かに人付き合いが上手い。 そうか。
そんなにイルカ先生の周りには、ハゲ鷹のようなヤツらが集まっていたんだ。 さすがボク達の部下だ。

先生に心配してもらって恋人気どりだった上忍。 教え子を連れて来て気を引こうとしたクノイチ。
相談をして慰めてもらおうとした同僚。 同情を煽ってワシワシしてもらった女教師。 ハゲ鷹どもめ!
イルカ先生は優しいから親身になってくれる。 そこにつけ込んで、結婚しようと目論んでいたのか!
お前らは、そんなヤツらからイルカ先生を守ってたんだね? しかもボク達の為に。 でかした!

今まで、なんでこんなにイルカ先生の事が特別なのか分からなかった。 ボク・・・・先生が好きなんだ。
ははは、そうか。 家族は家族でも、イルカ先生は一生側にいてほしい、特別な家族だったんだ。
部下達のおかげで気付かされた。 ボクの一番欲しい者。 イルカ先生だ、イルカ先生が欲しい!

「「卒業したら イルカ先生を恋人にするっ!!」」
「・・・・・・え。 カカシ先輩も?」
「・・・・・・ゲ。 テンゾウも??」


生徒と先生じゃなくなって、人と人との付き合いが出来る、しかもそれが恋人なら最高だと気付いた。
・・・・でも、まさかカカシ先輩も同じ事考えていたなんて。 どうなの、これ。 先生泣いちゃう。
ボク達が喧嘩したら、間違いなく先生は泣く。 下手したらアズサさんやカオルさんを恋人にするかも。
せ、先輩。 タッグを組みましょう。 イルカ先生が下手な行動に出ない様に、外堀を埋めましょう。

アズサさんもカオルさんも。 どこの馬の骨とも分からないような輩と先生が結婚なんて嫌でしょう?
でも先生がボク達の所にお嫁に来たら、俺流和風ジューシーから揚げが、いつでも食べ放題ですよ?
子供に変化して、好きなだけワシワシされてもいいんです、ボク達は仲の良い家族じゃないですか!

「アンタ達の所だといつでも会いに行けるね。 まあ、いいんじゃないかい?」
「・・・・・好きな時にあの和風から揚げが食える。 いいな、それ。」
「アタシにとって先生は先生だよ、安心しな。」
「おれもだ。 恋人なんぞいらん。 ・・・・ふっ!」

「「よし! 卒業に向けて前進あるのみ!! イルカ先生を恋人にするぞーーーーーっっ!!」」

今まで陰で先生をハゲ鷹どもから守って来た部下達にも宣言する。 これからはボク達が守るから!
お前らも卒業に協力してね? 目指すは“たいへんよくできました”だと、各部隊に伝令を走らせた。