鬼に魅入られた男 9
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ボク達は四人そろったら子供に変化し、先生の家を訪ねては、今まで聞けなかった謎な事を質問する。
それでたくさんの事が分かった。 ボク達 暗部の感覚と、正規の忍びの感覚の違いもそのひとつ。
突然訪ねても、イルカ先生はいつも喜んで出迎えてくれる。 お菓子やお煎餅を出してくれたり。
なのに今回、ボク達は先生に怒られた。 変化を解きなさい、傷を負っていますね?! って。
別に大した怪我じゃない、ちょっとかすっただけなのに。 カカシ先輩とボクは同じ任務に就いてた。
小国同士の争いに終止符を打つ為、火の国が介入。 喧嘩両成敗を大義名分に、双方の大将を狩った。
暗部がそれぞれ二部隊に別れ、双方についてる忍びを殲滅。 先輩もボクもチョットだけ怪我した。
「イルカ先生、なんでそんなに怒るんだい?」
「ほっとけば治るぐらいの怪我だぞ?」
「だから! 怪我を知ってて、ほおっておくのも同罪です!」
「こんなの怪我の内に入らないヨ?」
「もっと急所に近かったら心配ですが。」
「そう言う事を言っているのではありませんっっ!!」
仕方ないから変化を解いた。 カカシ先輩もボクも、暗部のベスト姿に戻る。 面も着けて。
さすがはアカデミーの先生だ、手馴れている。 パパッと消毒してくれた。 凄いなー、先生。
で、子供に変化し直したら、ホッペタにシールが貼られた。 元に戻ったら面の上に貼ってあるね、これ。
血の臭いを気にしないところも駄目です、確かに俺達忍びは気にする必要はありませんが、そう言って。
「・・・・・“もっとがんばりましょう” ?? これナニ??」
「それは評価シールです。 それを見て、今日の事を思い出して下さい。」
「今日の事?? 先生が怒った事??」
「それもありますが、自分や家族に無関心なところを思い出して欲しいんです。」
「自分・・・・ 怪我した事かい?」
「そうです。 自分でそれを意識しないと駄目です。」
「家族・・・・ だが忍びだぞ、怪我ぐらい・・・・」
「駄目です! ・・・・・どんな怪我でも、なにが起こるかわかりません。」
俺達は耐性をつけているから多少の毒は平気です。 でももし、それが空気感染するモノであれば?
考えても見て下さい、どこの里でも強い忍びは、里に帰還する事が前提です。 敵の目的がそれなら?
その忍びを殺す事でなく、手傷を負わせるだけ。 それを媒体として里に何かを持ちこませる事かも。
間接的に毒やウイルスのばら撒きに、協力する事になるんですよ? 自分では気付かない内に。
・・・・・・・驚いた。 そうか、ボク達はこんなのなんともないけど、里に住む民はそうじゃない。
これまでいろいろな任務干渉の方法を教わったけど、対忍び用。 里には忍びでない民も住んでいる。
イルカ先生は、人が住まない家は価値がないと言った。 民がいなくなったら、里は朽ち果てるとも。
「・・・・・そっか。 怪我は消毒してから帰還するんだネ?」
「ぜひそうして下さい。 免疫のない家族もたくさんいるんです。」
「・・・・・ボク達が怪我するだけで、皆を危険にさらす?」
「はい。 それに・・・・ 三代目や皆さんの部下も心配します、俺も。」
「・・・・部下が・・・・アタシ達を心配をするのかい??」
「おれ達は直属部隊だぞ? 三代目には信用されている。」
「だからこそです。 皆さんの代わりはいません。」
イルカ先生は言った。 例えば正規の上忍は、死んだ家族の額当てを持って帰ってきてくれます、と。
忍びは死んだら髪の毛一本残すモノじゃない。 情報が詰まっているからだ。 なのに額当て?
額当ては頭に巻くから額当て。 髪の毛がついている可能性は大、当然、粉砕してくるべき物だ。
「三代目は額当てが戻ってきたら、必ず遺族に届けて頭を下げます。」
「・・・・親父様が? おかしいじゃないか!」
「なんでヨ、そいつの死は仕方なかったんでショ?」
「この里に住む、忍びの父だからです。 子の為に親は責任を果たします。」
「中には三代目に怒りや悲しみをぶつける遺族もいます。 それでも。」
「わざわざ、怒りを受けに行くんですか?!」
「・・・・なんて無意味なことを。」
「肉親は、唯一救命できる血を持っている者。 アスマさんと三代目の話を覚えてますか?」
その額当ての持ち主に血縁者がいた時、返してあげられるんですよ形見として。 三代目の役目です。
本当なら、助命出来るはずの血を持っている者に、一番無力感に嘆いている家族の元に、火の意志を。
ボク達を見てそう言ったイルカ先生の目から、ポロリと涙が落ちた。 何で先生が泣くんですか?
先生はボク達の手をとり更に続ける。 皆さんは血縁者がいません、何かあっても助命は出来ない。
三代目の元に額当てすら帰ってこない。 そんなのは絶対駄目ですからね? 死んでは駄目ですよ?
子は親より先に逝ってはいけないんです。 三代目は誰よりたくさんの子を、忍びを失くしてる。
俺も皆さんも、三代目の子です、血は繋がってないけど意志で繋がった家族です、分かりますか? と。
そうか。 ボクもそうだけど、ボク達はもう、誰も血縁者がいない。 けどその死を悲しむ者がいる。
怪我をしただけでも心配する。 三代目とボク達の部下、今泣いてるイルカ先生は少なくともそうなんだ。
先生に初めて怒られた。 今までどんな事をしても、どんな事を言っても怒らなかったのに。
子供に変化していたボク達四人の小さな手は全部、大人のイルカ先生に握りしめられている。
チャクラを込めてないのに、イルカ先生に握られた手が温かい。 怒られたのに嬉しいなんてヘン。
先生を泣かせたボク達は、バツが悪くてごめんなさいと謝った。 途端に頭をワシワシされる。
そうです、皆に心配かけちゃ駄目です、傷はすぐに手当して下さい、いいですね? そう言いながら。
皆さんが今まで里を守って来てくれた、その為に切り捨てて来た感情を、俺は全部拾い集めます。
皆さんが正規の忍びに誤解されたままなのが、何より悔しいんです、こんなに可愛いのに。 だって!
こうやってワシワシされるのも、凄く嬉しい。 へへ、ボクも真似して部下にやってみようかな。