鬼に魅入られた男 2   @BC DEF GHI JKL MNO P




見習いから、正式にアカデミー教員になって半年。 忍者学校の先生というプレッシャーは大きい。
チャクラ質があるからといって、過度の期待を寄せている保護者達。 それはまあ、ましな方だわ。
一番困るのは、里で名のある一族の子の親。 才能が伸びないのは教える側の問題だ、と臭わせる。
入学したからといって、全員が下忍になれるとは限らないのに。 生徒の落第は教師の責任だそうよ?

ハッキリ言って、そういう人間関係がわずらわしくて、見習い中に考え直す忍びも多くいるのよね。
教員もアカデミーの授業がない日は、現場に出るの。 すると戦忍や保護者に、色眼鏡で見られたり。
落第した子の親と、一緒の任務に就いた時などは、特に。 一教師に一体何を求めているのだろう。


“少しぐらい大目に見てやってくれ子供なんだから” “今度の試験課題はもう決まったのか?”
危険だから先生は後方へ、とワザと貸しを作って猫なで声を出された日には、ブン殴りたくなる。
“いいな、先生は。 医療忍者扱いで保護かよ” “盾が一杯いて助かるな、アカデミーの先生?”
そういうやり取りが、他のメンバーにいらない誤解を招き、仲間から敬遠されてしまったりする。

里の為に次代を担う子を育てたい、そう掲げた揺るぎない自分の目標さえ、見失いそうになるのよ。
でもね皆が皆、そんな保護者や色眼鏡で見る同胞ばかりではない、と分かっているから悔しいの。
立派な、それこそさすが名門、と頭が下がる一族もいる。 先生も大変だな、と苦笑いする仲間も。

こんな色んな忍びがいる里を束ねている火影様はもっと大変だ。 里を纏めるって、どれだけ凄いの?
忍者学校の教員でさえ、こんなに頭を抱えているというのに。 里の火影 猿飛ヒルゼンはタフガイね。
忍者アカデミー制は、二代目が考案して今の形にしたのが三代目。 まさに全ての忍びの父だと思う。
・・・・・あ、イルカ先生だ。 忘れ物かしら? さっき受付に向かったはずなんだけど・・・・??


任務受付所の受付にも座っている中忍、イルカ先生は教員三年目。 もうすでにベテランの風格がある。
何でかっていうと、クラスの生徒たちがハンパじゃない。 私なら速攻、逃げ出したくなるメンバー。
名門の一族のお子様がズラリと名を連ね、更に、もう三回も落第している、あの渦巻ナルトもいる。
授業中はイルカ先生の怒鳴り声が聞こえたり、生徒達の脱走劇があったり。 でも楽しそうな笑い声も。

「えっと・・・・ あ、あった、あった! 一応持っておかないとな。 ・・・・これでよしっと!」
「クスクス! 評価シールを取りに?? あ、わかった! 下忍になった元教え子に貼るんですね?」
「まあ、そんなとこ。 ・・・・・・なあ、取り合えず堂々と踏ん反りかえってろ。 俺達は教師だ。」
「・・・・イルカ先生って、ホントに・・・・・ いえ。 なんでもありません。 うふふふ。」

忘れない。 私がまだ見習いの時、馬鹿な親がこれ見よがしに庇ってくれて、息子をよろしく、と。
勝手に恩を押しつけて、子供に対するエコ贔屓を要求。 私がアカデミーの教員見習いだというだけで。
その話をしたら、普段優しい先生がもの凄く怒った。 贔屓をする事は、その子を死なせる事だ、と。
そう、学校は学校でも、私達は忍者学校の教員。 甘い顔をして見逃せば、いずれその子の死に繋がる。


「なんだよ。 言いかけて途中で止めるなよ、気になるじゃないか。」
「・・・・・・・ねぇ、イルカ先生。 先生なら同じ隊の仲間に嫌み言われた時、どうしてます?」
「あぁ、盾がどうのとかいうアレな? いつでも交代します、子供達をお願いしますね? ってな。」
「アハハ! それイイ、頂きっ! そうですよ、やれるもんならやってみろ、ですよ! クスクス!」

ズバリ聞きたい事が聞けて安心する。 先日私と同期の忍びが、戦忍に戻ると言って学校を去った。
その理由が、人間関係が煩わしいから。 任務の事だけを考えて、直接里に貢献したい、そう言って。
イルカ先生に感化されて、今ではすっかり融通が聞かない先生で通っている私も、さすがにヘコんだ。
やっぱりイルカ先生は、堂々として一本筋が通ってる。 正論だから反論出来ない、しかも優しいし。

「お前は、アイツとは違うだろ? 逃げなかったし、これからだってそうだ。 よしよし!」
「・・・・ふふふ。 ありがとうございます・・・・ って、や、やめて下さいよ、もう!」
「はは、ごめん、ごめん、つい・・・・ 頑張ってる奴を見るとな、ワシワシしたくなるんだ、俺。」
「子供と一緒にしないで下さい! もう、イルカ先生ったら・・・・・ っ?!」

しまったっ!! 先生に・・・・ イルカ先生にワシワシされちゃった! ここでは厳禁なのに!
イルカ先生は誰かれ構わず、頭をワシワシする。 がんばってるな、よしよし、そう言って。 忘れてた!!
頼りたい気持ちは分かるが、必要以上にスキンシップをしてはいけないんだそうだ。 災いが起きるから。
見習いから昇格した時、諸先輩方からそう注意された。 イルカ先生は鬼に魅入られているから、と。

『アカデミーでの厳禁事項を教えておこう、イルカ先生にワシワシされてはいけない。 忘れるな?』



私のバカッ!! すっかり失念していた。 どうもありがとうございました、受付いってらっしゃい・・・・
イルカ先生を何気なく見送る私のお腹に知った感覚が。 この前終わったはずの月のモノがまたもや?!
うぅ、最悪・・・・ 終わったばっかりなのに・・・・ 予備のタンポン、確かまだあったわよね?