鬼に魅入られた男 12
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気配を消せばこっそり覗けるな、と思っていたのに。 見事にアカデミーのガキんちょにみつかった。
よし、そろそろ騒いでいる子供達の的になってやるか、と窓を開けたらオレ達がぶら下がっていたらしい。
オレ達の気配に気付いて、ではなかったにしろ、見つかってしまったならジタバタしても仕方がない。
他の教員も何人か残っていたけど、イルカ先生とは態度が違う。 いや、この人が違うんだ。
正規の忍びもそうだけど、暗部が里内のどこにいても、話しかけたりしない。 そう、見て見ぬふり。
暗部の任務は極秘扱い、任務中の一環だと思われているのかもしれないが、誰も話しかけてはこない。
だからこの場合も、他の教員達の態度が普通で、イルカ先生の態度が変なんだと思う。 あと子供らもな!
部隊長達で慣れているのか、イルカ先生はごく普通にオレ達に話しかける。 でもちょっと意地悪だ。
応接室に通されて、毒なしのお茶をご馳走になりながら、アカデミーに来た目的を話した。
オレ達は部隊長の劇的変化の理由を知りたくて、家庭教師だというイルカ先生を訪ねてきました。
オレ達もそんなに人付き合いが上手ではないので、ぜひ表の雰囲気を勉強させてもらいたい、と。
で、これからイルカ先生が受付に座ると言うので、オレ達も喜んで同行させてもらう事にしたんだ。
イルカ先生はああ言ったけど、やっぱりオレ達が任務受付所に顔を出すのはマズイと思う。
だから他の忍びに気を遣わせない為に、変化をするから内緒にしてて欲しい、と先生に頼んだ。
酉部隊だからオレは鳥に変化すると言ったら、他の三人も、じゃぁ鳥関係に変化するか、で即決。
おお! 珍しい、全員が鳥か! オレは飛べるけど、お前ら平気? まあ、なんでもいいけど。
持ち運びに丁度いいダンボール箱があったから、中に入ってイルカ先生に運んでもらう事にしたんだ。
思った通り、ヨタヨタとダンボールに入るヤツら。 オレは優雅に羽ばたいて入った、飛べるからな。
「・・・ぶっ!! あははは!! ご、ごめんなさい、可愛いっ! なんだそれ、可愛いすぎです!!」
イルカ先生にバカウケされた。 まあ、暗部の隊員がこのちんまい鳥達だなんて、誰も思うまい、だ。
ちょっと、おい、猫班のペンギン、お前邪魔。 もうちょっとつめろ。 お前一人でデカイんだよ。
戌班のキュウイと猿班のヒヨコはプラマイゼロだ。 オレはカナリヤだから、程よくちっこいだろ?
ダンボールの大きさを考えろよな。 飛べないクセに鳥に変化するから、そういう事になるんだよ。
「・・・・・このまま持って帰りたいですよ、可愛いなぁ。 くすくすくす・・・・。」
まあ、先生が気に入ってくれたからいいか。 オレ達は箱の中、イルカ先生に抱えられて受付に行った。
わ、可愛い、でも何でこの組み合わせなんです? 仲良いなぁ、ちょと触ってみても? とか。
途中何度も、正規の忍びに呼び止められ、話しかけられる先生。 何気にイルカ先生は人気者だった。
ワシの可愛い孫 木の葉丸にやる土産じゃ! 可愛くとも触るでないぞ? 三代目火影 猿飛ヒルゼン
これでよし、っと。 そう言ってイルカ先生は、おれらの入っているダンボール箱の下に貼り紙をした。
おれらは三代目からの預かりモノという事で、先生が座っている斜め後ろの棚の最上段に置かれている。
そこからなら受付を見渡せますよ、と先生が言った通り、受付忍の対応も他の忍びの反応もよく見えた。
先生の貼り紙も功を奏している様だ、誰もおれらが暗部だとは思わない。 まあ、完璧な変化だし!
なんて書いたのか少しだけ気になったけど、他の受付忍も正規の忍び達も、凄く好意的な視線を飛ばす。
皆が皆、おれらを見ては、フフフ、と微笑むのだ。 愛情を一身に浴びてる感じがして妙に照れくさい。
おれらは火影室で勅命を受け、任務報告する。 だからめんどくさい書類もほとんど書かなくていい。
闇に葬る事柄が多い為、記録に残してはおけないモノの時は口頭報告のみだ。 ほんのたまに書くな。
そう言えば三代目も、そう言う時には色々話しかけてくれたっけ・・・・ まあ、ごくわずか、だけど。
内容は覚えてないけど、何でかホッコリした。 任務受付所も、そういうホッコリ感が漂っている。
「お帰りなさい、お疲れ様でした。 ・・・・お前ら、はりきりすぎて迷惑かけたんじゃないか?」
「クスクス! 今回は頑張ったんですよ、この子達。 合同任務でもちゃんと協力できたの。 ねー?」
「そうですか! お前ら、凄いじゃないか! オレがオレがと主張の激しかったヤツらがねぇ・・・・。」
「「「ひど〜い、イルカ先生! アカデミー生扱いはやめてよ!」」」
応接室で先生が言った、元教え子達の様だ。 上忍師はクノイチ。 なんか、あそこだけ雰囲気が違う。
クノイチとイルカ先生と三人の下忍。 ・・・・まるで親子のような雰囲気だ、ほのぼのとしてる。
一対一じゃないからだな。 アカデミーの先生が受付に座ると、こういう事になるのか、そうか。
おれらは、ハタと悲しい想像をしてしまった。 先生が部隊長達の家庭教師じゃなくなるかも、と。
イルカ先生は恋人いるのかな。 元教え子のスリーマンセルでこの雰囲気なら、結婚したらどうなる?
なんか、めちゃめちゃ子煩悩な父親になりそうだ。 デレデレの親バカ。 家庭中心の愛妻家教師に。
そうなったら家庭教師は辞退するかもしれない、今だって三足の草鞋、いくらなんでも四足は無理だ。
「今回は単独です、くれぐれもお気をつけて。」
「・・・・・・任務報告も海野中忍だといいな、そうすれば安心するだろ?」
「はは、そんなに顔に出てますか、受付忍失格だな俺。 信じてますから。 いってらっしゃい。」
「ああ、任せとけ。 いってくる。」
これは単独任務の上忍と受付忍の会話・・・・・・ じゃなーーーーーいっ!! イルカ先生っ!!
他の受付忍も“行ってらっしゃい”で送り出してるのに、何で先生だけお母さんバージョン?!
あの上忍もまんざらでもなさそうに“任せとけ”とか言っちゃって! なに? あんたら夫婦?!
・・・・どうします部隊長。 イルカ先生は、確かに部隊長達の家族愛を目覚めさせた人物です。
でもそれは、部隊長達だけじゃないみたいですよ? イルカ先生は、妙に母性に溢れています。
イルカ先生がもし結婚したら、確実に家庭教師は辞退の方向ですよ、愛妻家でお母さんですもん!
駄目だろう、それ。 せっかくイイ感じに変わりつつある部隊長達が、ショックで元に戻るかも、だ。
「なあ、お前ら、オレに考えがある。」
「あら奇遇ね、私もいい考えがあるの。」
「多分、同じだと思うぞ?」
「結婚阻止、だろ? 違うか?」
さすが部隊長の指先のみで動いて来た仲間同士。 当然そこが、おれらにとって重要課題だろう。
もっと、よりもっと人間らしく・・・・ いや、部隊長達はめちゃくちゃ立派な人間なんだけど。
前の部隊長達は完璧な武器、もちろん尊敬してる。 でもおれらの本音は、今の部隊長達の方が好きだ。
よし、明日から策を練るぞ! おれら皆が力を合わせれば、出来ない事はない! ・・・・と思う。
「なあ、海野中忍が持って来た箱の鳥セット、誰の変化だろう?」
「“結婚阻止”とか言ってたぞ? ペンギンのくせに。」
「自己中発言だよな、まさか・・・・ 暗部とかか?」
「暗部か・・・ あり得るな。 何かの罰則なのかもよ?」