鬼に魅入られた男 3   @AC DEF GHI JKL MNO P




はぁ・・・・・ 一時はどうなる事かと思った。 そう、海野中忍は鬼に魅入られているんだ。
鬼といっても、どこかの国の話に登場するようなモノじゃない。 里内で鬼と言えばあの人達。
火影直属 暗殺戦術特殊部隊の、各部隊長達の事だ。 戌・猫・猿・酉の部隊のそれぞれのトップ。
暗部と言えば里のエリート集団。 でも、仮面で顔を隠さなくちゃならないほど、無表情な人達。

おれ達正規の忍びが、依頼人に顔を見せて任務を遂行するのは、忍びの印象を良くする為でもある。
腕は超一流なのに、暗部はそれが出来ないから、あんな邪魔な面を支給されているようなもの。
隊員達は心得ていて、部隊長の指の動きだけで、その指示通りに動けるらしい。 あうんの呼吸。
でもそれは、やっぱり一般向きではない。 おれ達が引くぐらいだから、一般人はドン引きだ。

まさか名指しで注意を促すわけにもいかず、四人ひっくるめて “鬼” と呼んでいるんだ。
ちなみに普通の隊員の事は、 “小鬼” と呼ばせてもらっている。 それで話は通じるから。
その鬼達が、なぜか海野中忍の事を “イルカ先生” と呼び、分からない事があると聞きに来る。
海野中忍本人はそれはもう、凄くいい人だ。 けど鬼達は自分達の家庭教師だと思っているらしい。

「やっと戻って来たな? 遅いから心配してたんだぞ? まあ、イルカから聞いてたけど!」
「んじゃ、オレ帰るわ。 交代。 お疲れ! 缶コーヒー一本貸しだかんな?」
「すみませんでした、了解です! 今朝からどうも腹の調子が・・・ はははは・・・・」
「気にするな、お互い様だろ? 俺も忘れモン取りに行ったし、特に問題もなかったし、な?」

いえ、大ありです、海野中忍に必要以上に接近したから、おれゲリピーになりました、なんて言えない。
腹の調子が・・・ と言えば、他のふたりはピンときたらしく苦笑い。 これもあうんの呼吸かな?
でもね、鬼達はそんなことお構いなしなんです。 少しぐらいは見逃してもらえるんですけどね。
日に何度もスキンシップをしてしまうと、災いを招くんです。 男は下痢に、女は生理に・・・・。

「忘れ物?? あれからですか??」
「うん、そう。 ・・・・これ!」
「・・・・・“評価シール”・・・ですか。 アカデミー生の??」
「まあ、似たようなモンだ。 ははは!」

おれがトイレに籠ってる間、海野中忍は忘れ物を取りにアカデミーに戻ったらしい。 これ??
ニコチャンマークが笑ってたり、拗ねてたり。 その下には平仮名で、コメントが入っている。
“もっとがんばりましょう”や“たいへんよくできました”とか書いてある黄色のシールだ。
・・・・・・わざわざアカデミーに取りに戻るほど・・・・ 重要アイテムなのか? コレが??





「・・・・・これでいいかい?」
「?! ・・・・・・酉部隊長っ!! ここは違いますっっ!!」
「家族の額当てがあればいい、って言ったじゃないか。」
「暗部は火影室で報告でしょう? ・・・・・・ 残念ながらこれですっ!!!」
「「・・・・・・・・。」」

一羽の鷲が生首を足で掴んで飛んで来た。 ボフンッとその変化が解ける。 酉班の部隊長だ。
ここは任務受付所。 一般人から依頼を受けたり、忍びに任務を手渡したり、報告を受けたりする所。
暗部は火影直属部隊だ。 受付に報告には来ない。 ましてや同胞の生首を机に転がしたりしない。
海野中忍はピクリとも動じず、冷静に間違いを指摘、さっきのシールを酉面にペタリと貼った。

「・・・・ “がんばりましょう” ・・・・か。」
「でもさすがです、ありがとうございました。 見つけてあげたんですね?」
「・・・・・・血の臭いがしたからね。 敵忍の死体は焼いて来た。」
「・・・・火影室に行って下さい、いいですね? ・・・だからこれは、オマケです。」

正規の忍びだから受付に報告かと思った、じゃぁ火影室に持って行く、と言った酉面にはシールが二枚。
海野中忍が後からつけた“よくできました”のニコチャンシールも貼ったまま、鬼は鷹に変化する。
三つの生首をガシリと足で掴み、バサバサと羽ばたいて飛んで行った。 ・・・・てか、海野中忍!
その評価シールって、鬼用なんですか?! いろいろツッコミたいけど、今は後始末が先だ。


海野中忍は机の血を拭きとっている。 おれは点々と床に落ちてる血をモップで綺麗にして行く。
もう一人は、ちょっとごめん、っと言って目頭を押さえていた。 あの隊に任務を手渡したんだろう。
海野中忍も、おれも。 その気持ちは痛いほど分かる。 おれだってさっき、額当て預かったし。

今は午後四時前。 混み合う前でよかった。 特に、依頼に来た一般人がいなくて本当によかった。
こんなところ目にしたら・・・・・ もうドン引きもイイとこだよ。 暗部はエリート集団、里の誉。
今だって、これはもの凄い事なんだ。 でもそれは一般人にしてみたら、恐怖以外のナニモノでもない。


スリーマンセル編制で任務に行ったとして、もし、その隊の隊長もやられてしまったら?
額当てを持って帰ってきてくれる、その上忍すら帰ってこれない事態に陥ったとしたら?
捕縛される前に自害せざるを得なかったり、救援を呼ぶ前に相討ちで共倒れという事も考えられる。

会話の内容から判断すると後者だ。 敵忍の死体が側にあり、ウチの忍びの遺体が残っていたから。
本来は捜索隊が編制される。 でもその前に発見された、まだこんなに血が残ってるほどの遺体。
まだ脳に血液が残っていたなら、情報部が情報を取り出せる。 何があったか、その死に際の記憶を。

最近では、血濡れのまま里内を闊歩しなくなったと思っていたのに。 いや、鬼は血まみれじゃないけど。
額当てつきの生首から、ポトポト血が落ちてただけなんだけど。 一応、気は遣ってくれてるんだよな。
正規の忍びの任務は、受付からスタートして、受付に戻ってくる、そこんとこを汲んでくれたらしいし。

おれ達忍びは、これがどんなに凄い事なのかすぐに分かる。 でも受付には、一般人も来るんですからね?