鬼に魅入られた男 11
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なあ。 部隊長達が面とって表に出ても大丈夫なのか? かなり劇的に変貌を遂げてはいるけど。
基本的に修羅の人達だし・・・・ おれらもそうだけど、あそこまで徹底的に武器になりきれない。
一応表に出てる時は、皆気をつけるようにしてる。 血だらけで里をうろつかない、とかな。
でも部隊長達はそうじゃない。 他人なんて関係ないって感じで、血まみれで堂々と里内をウロウロ。
任務中、ムダ話でもしようものなら、“随分余裕だなお前、油断してると死ぬぞ”と言われた。
暗部以外の任務に首を突っ込んだら、“オモチャに構ってる暇は無いはずだが?”と言われた。
つい愚痴をこぼしてしまった日には、“嫌なら辞めろ、代わりはいくらでもいる”と言われた。
暗部のモットーは迅速かつ確実に。 火影直轄の暗殺部隊だという事を忘れるな、武器になれと。
武器になれないヤツは木の葉に必要ない。 どんなに斬っても錆びない武器、それが忍びだ、とも。
部隊長達にとって、自分達の命令を忠実に聞き、寡黙に任務を遂行する者だけが“部下”だった。
その部隊長達が。 正規の忍びも里に住む者も皆、おれらの事も・・・・ “家族”だと言ったんだ。
人間味に欠けるけどでも、今の暗部の体制を築いて来たのは、忍びとして最高の武器の部隊長達。
そんな彼らに、おれらただの隊員が何か言える訳ないじゃないか。 こうやて生き残って来た者は特に。
部隊長達の行動を先読みして動かなきゃ、って思ってた。 任務外の会話もしないのが当たり前なんだと。
恐ろしく強くて統率力がある部隊長達に、近寄り難くて一歩引いていたのはおれらの方かもしれない。
「黄色いニコチャンシールつけてたよな・・・・。」
「ご飯もお煎餅も食べちゃ駄目、って言ってたっけ。」
「イルカ先生って・・・・・ アカデミーの先生かしら?」
「なあ。 ・・・・・・・オレ達、なんでコロッケ??」
暗部内では好き勝手な想像が横行する。 部隊長には止められたけど、評価されるなと言われただけ。
おれらはもう頷き人形は卒業すると決めた、同じく家族だと思って接すると。 なら百聞は一見にしかずだ。
だって気になるじゃないか。 あそこまで部隊長達を変えた人物が、どんな人なのか。 そうだろう?
イルカ先生偵察に行く人この指とーまれ、ってやったら、待機中のほとんどの隊員が突進して来た。
あぶねーな、おれの指折る気かっ! 得物が握れなくなったらどうすんだよ! 気持ちは分かるけどな。
大勢でアカデミーに押しかけても、正規の忍びの迷惑になる。 各部隊、代表を一名選出してくれ。
あ、おれは言いだしっぺだから、戌班の代表として是が非でも行く。 残り三枠だぞ、いいな?
「・・・・ところで。 皆さんそんな所にぶら下がって何やってらっしゃるんですか?」
「「え、と・・・ こ、こちらにイルカ先生という先生が・・・・。」」
「あ、俺です。 俺に用だったんですか。 取り合えず入って下さい、目立ちますから。」
私は猿部隊代表。 アミダで決めて四人でアカデミーにやって来た。 気配は完璧に消していたはず。
なのに私達に気付いて、話しかけて来た人が。 それがなんと、お目当ての“イルカ先生”だった。
中に招いてもらったが、たかがアカデミー教師に気配を悟られるなんて無様だ。 なので聞いてみた。
「子供たちが騒いでましたからね。 何事かと。」
「気配完璧に消してたのに・・・・。 子供は勘が鋭いのかな・・・・。」
「くすくす、コウモリみたいに逆さに木の枝にぶら下がっていたら、目立ちますよ。」
「コウモリ・・・・ 暗部の隊員に・・・・ コウモリ・・・・・。」
「大丈夫です、ちゃんと忍びがぶら下がっていると認識していましたよ、あははは!」
だってこの格好でイルカ先生に会ったら、すぐに暗部の隊員だと思ってもらえると思ったから・・・。
部隊長達を差し置いて素顔で話したのがバレたら、なんとなくマズイ事になりそうな気がするし。
校舎の窓に吸着したら目立つかなと、一応気を使って、少し離れたあの樹にぶら下がる事にした。
教員室の様子を窓から覗ける位置は、あそこがベストポジションだったんだもん。 なのに。
「・・・・・それでも普通、相手が暗部だったら見て見ぬ振り、じゃない?」
「あははは! そこは子供ですから。 視線や発言に、配慮なんてありません。」
「そ、そんなに子供たちが樹の下に集まっていたんだ・・・・。」
「当たらないと思いますが、もう少しでクナイ投げの的にされるトコロでしたよ? くす!」
なんて命知らずな・・・じゃない、ワンパクな小僧たちですね。 ・・・え? 先生方が、たまに??
自主練習で残っている子の為に、先生方が時々身代わりの術で的になってあげてる? 今も的に??
ではあの樹は、たまにクナイ投げの的が出没する樹、だったんですね? 注目の樹ですか、なるほど。
気配を消してる暗部に、俺達が気付ける訳ないじゃないですか、とニヤリと笑い、続けて言った。
「ここが敵地だったら、蜘蛛の巣に引っ掛かりましたね? 偵察地の情報は事前に確認、ですよ?」
「「「「・・・・・・・・・・・まいりました。」」」」
「あはははは! でも、生徒を殺させる訳にはいきませんから。 クスクス。」
「「「「・・・・・・・ナイス判断です、イルカ先生。」」」」
イルカ先生の言う通りだ。 もし私達にクナイを投げたら、それこそ反射的に殺してしまったかも。
それに指摘された様に、もし敵地だったら。 相手が子供でなく、敵忍なら私達の方が死んでた。
敵が必ず見回る場所に陣を敷くだなんて、命を捨てるようなモノだ。 ぐうの音も出ない。
「イルカ先生、部隊長達の事・・・・ よろしくお願いします。」
「はい、もちろんです。 皆さんの自慢の部隊長ですもんね?」
「・・・・おれ達は部隊長がいたから、生き残ってこれたんだ。」
「部隊長達は確かに凄い方々です、でも生きる努力をしたのは他でもない、皆さんですよ?」
「「「「・・・・・・。」」」」
私達、してやられましたよ。 たった半年で、部隊長達があんなに変わった理由も分かりました。
部隊長、イルカ先生という人は、こんなにカラカラと明るく笑うくせに、忍びの目をして話します。
それに殺されてたかもしれません、私達。 どうぞ? と出された緑茶を、つい飲んじゃったんです。
ドキリとしました。 毒は入れてませんよと、お盆を持ってニヤリと笑うイルカ先生の言葉に。
「このお茶・・・・ 美味しいね・・・・・。」
「それはどうも。 この前、茶摘みの手伝いに行った下忍のお土産です。」
「下忍の? なんでアカデミーに??」
「俺、受付にも座ってるんですよ。 だから卒業生がたまに差し入れしてくれます。」
「「「「へーーーーー。 (受付にも?)」」」」
部隊長達の家庭教師 イルカ先生は、任務受付所にも座っているらしい。 なら次の偵察地は受付ね。
今度は事前に情報を集めるわ。 受付所にあまり人がいない時間と、先生が座ってる時間も。
で、何時なら邪魔にならない? 置物かなにかに変化するから、見学に行ってもいい? と事前調査。
血だらけじゃないなら暗部服でいいじゃないですか、仲間なんだし、とイルカ先生はクスクス笑った。
丁度これから任務受付所にシフトチェンジです、一緒に行きますか? とありがたい申し出も。
暗部に入ってから任務受付所には行ってなかった、懐かしいな。 私達は一も二もなく頷いた。