鬼に魅入られた男 8
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アカデミーの屋上で子供になって過ごした。 イルカ先生の言動は三代目の見解、一般常識なのか。
イルカ先生は面白い人物だった。 なんというか謎だ。 甘い事を平然と言うだけかと思えば違う。
モノは考えよう、そう思えば方向性を見失わないでしょう? と言った彼は、忍びの目をしていた。
調理された物を口に入れた、顔や手に触られた、会話が続いた、笑った、熟睡した、どれも驚愕だ。
面がなくても、よほど近しい者でない限り、子供に変化しているおれ達に気付く部下はいなかった。
逆に部下の事は気配で分かるから、ああ、表にいる時はこんな感じで生活しているのか、と知る。
おれ達四人に限っては、面をとって任務に就く事は無いから、忍服で表をうろつく事も無い。
三代目が言った様に、確かに一般常識というモノに縁がない様に思う。 今まで必要なかったからだ。
どういう意味だ? と部下に聞いても“いえ、なんでもありません”そう言われて終わり。
迅速かつ正確に、が暗部内でのモットー。 おれ達の部下は余計な事をしないし言わない。
かと言って、分からない事を他の部隊長に聞いても、おれ達は基本的に同じ考え方だから無駄だ。
そうなると、恥ずかしい話だが、おれ達に一般常識を教えてくれる家庭教師は、必要不可欠だ。
中忍 海野イルカは、おれ達を前にしても何も変わらず“先生”という立場を決して崩さない。
呼び名もすんなり“イルカ先生”で定着した。 階級は下だが不思議と違和感はない、これも謎だ。
おれ達は、いや、少なくともおれは。 おれの命の終わりまで暗殺部隊に身を置くつもりでいた。
部下以外の人間、特にオモチャと任務外で接触するなんて。 まさか表に出るなんて考えてなかった。
上忍師か。 弟子を持つ事は、部下を持つ事とどう違う? そうだ、イルカ先生に聞いてみるか。
先生はこんな事でも、真剣に考えて答えを教えてくれるだろう。 三代目が推薦する人物だからな。
そうですね、コロッケに例えてみましょう。 部下コロッケは盛付けされ、ソースをかけるだけです。
でも弟子コロッケは、自分でジャガイモをむくトコロから始めなければなりません。 分かります?
だから皆さんは、良いジャガイモを選び調理する。 素材を生かした味付けをし盛付けます。
ちなみにそのジャガイモは、俺達アカデミー教員が、水をやり肥料をまき、育てたジャガイモです。
「やっぱり先生は面白いね! あははは!」
「弟子、コロッケですか? ・・・・・ぶっ!!」
「フフフ、でも違いがヨク分かったヨー。」
「そうだな。 部下コロッケか・・・・ ふっ。」
確かに納得だ。 ちなみにその例えでいくと、おれ達は何にあたるんだ? と先生に聞いてみた。
するとイルカ先生は、またもやニヤリと笑い、名匠の手掛けたお皿です、と言った。 なるほどな。
イルカ先生に聞けば、大抵の事はスッキリと解決する。 アカデミー教師の例え話は侮れないな。
おれは木の葉育ちではないから、アカデミーに通った事はない。 教師とはこういうものなのか。
おれが木の葉に連れてこられたのは、氷河一族のたった独りの生き残りだからじゃない。 偶然だ。
故四代目火影の妻、クシナさんの故郷 渦潮隠れの里の様に、当時、滅ぼされた国や里はたくさんある。
おれの生まれた所も、もう地図にない氷の国。 第三次忍界大戦で消滅した里。 一族も皆殺された。
どの里にも存在しない力は、脅威だ。 どこかの国の主力になるぐらいなら、と言う事だろうな。
氷の国は周りから総攻撃を喰らった。 元々孤立気味だった北の果ての土地。 同盟国は出遅れた。
国主の血筋の者は根こそぎ狩られ、さらされたらしい。 同盟諸国は遅すぎたと、遠征を断念した。
だが火の国の木の葉隠れは、消滅した国の平定に動いてくれた。 亡き国主との盟約を果たす為に。
まだ幼児だったおれに、術をかけ氷に閉じ込めたのが・・・・ あれが両親だったのかもしれないな。
氷で出来たリアルな子供の彫刻は、池の中の小島に置き去りにされた。 その氷の彫刻がおれだ。
開いたままの己が目で、一族が滅ぼされる様を見ていた。 声も出せず何も出来ず、ただ見ていた。
迎撃隊を率いていた三代目の契約獣 猿魔が思い出に、と彫刻を里に持ち帰って来たんだそうだ。
三代目は、彫刻を見てすぐそれが人間だと気付き、術を解いてくれた。 おれは再び命を吹き込まれた。
だからここが第二の故郷だと、おれは思っている。 その里の父が、表に回れというならそうする。
イルカ先生の言動が、三代目の見解、一般常識だというなら、それを極力理解しようと思う。
おれは木の葉の里の為に、ただそれだけの為に行動するだけだ。 が、イルカ先生は少し違うと言った。
「里は家だと言いましたよね? 住む人がいない家は、どんなに立派でもやがて朽ち果てます。
暗部も正規の忍びも里の民も皆、家に住む人です。 人がたくさん住んでいれば、家は安泰です。
家を大きく立派にする事だけしか考えない住人は・・・・ 中身のないサンドウィッチですよ!
だから里の為にじゃなく、里の家族の為に、オレ達は行動するんです。 具を充実させましょう。」
その方が美味しいじゃないですか、だと? それが三代目の見解なのか。 里より、里に住む家族。
ん? そう意識すれば、もっと広い意味で火の国全体が家に、火の国の民が家族と思えるんです、か。
ふっ。 ・・・・・面白いな。 なら任務中、干渉してはいけないはずの正規の忍びに接触するのか?
殺られそうになってたり、死んでたりしたら、勝手に干渉しても? この里の家族とやらを守る為に。
「はい、皆さんなら余裕で干渉できます! ただ相手の立場もあるので、時と場合で違ってきますが。」
ん? なにやら複雑な回答になりそうだな。 そんなにいくつものパターンがあるのか?
任務干渉するだけなのに。 まあ、イルカ先生の話は分かりやすいし、頑張って覚えるとするか。
それから様々なバリエーションで、先生は話してくれた。 そういう時はこう、それならこう、と。
なるほど・・・・・ そうか、ただ過保護に家族を守ってやるだけでも駄目なのか。 確かに複雑だな・・・・・。