鬼に魅入られた男 13
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「完璧ね。 これなら既成事実をつくって・・・・ とか絶対できないし!」
「非番の奴らの持ち回りでいいだろう。 術玉飛ばし係は。」
「イルカ先生に変な噂立たないか? 謎の菌の保菌者だ、とか。」
「そうだな。 おれ達の仕業だと、忠告しておいたほうがいいよな。」
「じゃ、教員には私が言ってくるわ!」
「よし、くれぐれもワシワシされるな、って言っとけ。」
「おれは受付忍に言ってくるよ。」
「おう、頼む。 必要以上に近寄んな、って言っとけ。」
「「「「イルカ先生の結婚は阻止っ!! このまま家庭教師体制を維持しよう! おーーーーーっ!」」」」
俺が暗部四天王の教育係に抜擢されてそろそろ一年。 以前とは別人の様じゃ、と三代目に言われた。
でもそれは違う、部隊長達は本来の姿に戻っただけ。 今まで脇目も振らず、里の為に働いて来たから。
置いてこなければならないモノが多すぎたんだ。 やっと自分自身や、回りの事に関心を持ち始めた。
笑ったり怒ったり、謝ったり。 無表情だと言われていたけど、そんな事は全然なかった。
しかももの凄く学習能力が高い。 まあ元々、俺が足元にも及ばないほどの、凄い忍び達だしな。
色々な例え方をしたけど、分かってもらえたと思う。 自分達の存在の大きさや、家族の大切さを。
半年ぐらい前か、暗部の隊員がアカデミーに俺を訪ねて来てくれた。 家族と呼んでもらった、と。
今の部隊長の方が断然いいと言って。 さらに自分達も、表の忍びとの接し方を勉強する、とまで。
部隊長達の子供変化もそうだし、箱詰めの鳥軍団も可愛かった。 天は二物も三物も与え過ぎだよ。
「くすくす。 暗部の人達って皆、あんなに強くて可愛いなんて、ほんとずるいよなー。」
あれからたまにだけど、アカデミーの窓や、受付の扉からチラチラと、部隊長たちが覗いていたりする。
“先生、聞きたい事があるの”“今出ていっても平気?”って感じで、暗部の面が訴えてくるんだ。
あの可愛さは反則だよな。 つい、相手が自分より強くて階級が上、って事を忘れて構ってしまう。
「あれが本当なら凄い事なんだけどな・・・・。 俺には暗部の任務内容は話せないだろうし。」
最近、質問の内容がもの凄く具体的になった。 前は、過去にやちゃったんだろうな、みたいなヤツ。
今は、ひょっとして、それ実行して来ました? って、聞きたいけど聞けないようなヤツが多い。
どれも完璧な任務干渉やフォロー。 正規の忍びには使命感と誇りがある、それを保たせるやり方で。
里の忍びはそうやって認めてもらえば、もの凄く嬉しいモノなんです、とレクチャーした方法だ。
「そう言えば、最近子供で来てくれないんだよな、部隊長達。 ちょっと淋しい・・・・ なんてな!」
まあ、俺が新しく担任を受け持ったからなんだろうけど。 超問題児だらけのシゴキがいがあるクラス。
・・・・でも、そこがまたいいんだよな。 こいつらどんな風に化けるんだろうって、楽しみが倍増。
そう俺が言ったからか、自分達は問題児じゃない、超優等生、絶対一緒にしないで! って非難ごうごう。
あれから部隊長達も、普段の姿で俺に接するようになった。 そろそろ家庭教師からは卒業なのかな。
「仕方ないか。 生徒はやがて巣立って行く。 俺は教師だ、よく知ってる事じゃないか。」
淋しいけれど、一番嬉しい事でもある。 俺は名のある忍びじゃない、数々の功績を立てた訳でもない。
でもたくさんの教え子が、俺の事を忘れずに記憶に留めておいてくれる。 これって幸せな事だろう?
俺が死んだとしても、俺の教えを覚えていてくれる忍びがたくさんいるなんて、めちゃくちゃ嬉しい。
しかも今回の生徒は、木の葉の里の中枢を担っている忍び達だ。 これを喜ばずして何を喜べと?
「・・・・・でも部隊長達に・・・・・ 卒業証書なんて・・・・ いるのか??」
最近ではほとんど血だらけでウロウロしなくなった。 部下とのコミュニケーションも増えたそうだ。
正規の忍びとも、上手くやれているらしい。 これは三代目と上層部が称賛しているから確実だ。
どうすれば卒業・・・・の様な形が出来るだろう。 証書? 何て書く?? 一般常識を会得??
そんなばかな。 ・・・・・まてよ? 評価シールは? 何気に気に入って大事にしてくれてる。
「そうだ、評価シールだよ! あれは元々、年少クラスの通知表だし。 丁度いいじゃないか!」
うん、評価シールの“たいへんよくできました”を全員が手に入れれば卒業、ってどうだ?
暗部の部隊長に卒業もクソもないんだけど、一つの区切りとして、だ。 俺を忘れないで欲しいから。
本来なら口もきけないような人達。 なんだかんだ言ってるけど、俺自身が区切りをつけたいだけなんだ。
今度、何か相談されたらその話をしてみようかな。 卒業に向けて頑張りましょう、って。
最近の、やたら内容が詳細な質問。 きっと暗部が、正規の忍びの任務に干渉しているんだと思う。
もしそうだったら、“たいへんよくできました” ですよ、と言ってみよう。 卒業ですよ、と。
皆さんは、どこから見ても超一流の忍びです、誰もが目指す生きた里の英雄です、そう伝える。
あんな人達が上忍師になったら、その弟子達はどんな英雄になるんだろう。 想像するだけで楽しい。