鬼に魅入られた男 4   @AB DEF GHI JKL MNO P




ハ―ァ、最悪。 またあの憂鬱な日々を数日間過ごすのね、任務後なら心構えが出来てるのに。
私達クノイチは、自分の子宮を綺麗にする為、任務から帰ってきたら即効性排卵促進剤を飲む。
ちゃんと準備してから飲む。 こんな風に、強制されるモノじゃないでしょう? 暗部 四天王め!


そうこれは、ここ数か月ですっかり定着してしまった、災いの種。 あの鬼達の仕業だ。
あの人達が如何に凄い人達か、里の誰もが知っている。 そして一般向きでない事も同じく。
どんな経緯があったかは私達職員には知らされていないけど、自分達の家庭教師だと主張してる。
誰がって、さっきシールを取りに来て受付に戻ったアカデミーの大先輩こと、海野イルカ先生を。

鬼達曰く、イルカ先生が結婚したら、自分達に教えてくれる人がいなくなる。 ・・・・だそうよ?
凄い理論でしょう? たったそれだけの為に、女は排卵、男は下痢。 どうなのよこの不条理さ!
女は孕むけど、男に出したからって孕まないでしょうがっ! でも鬼達にはそんな事お構いなしなの。


なんだかんだこじつけてるけど。 ようは他の大人が先生に褒められたり慰められたりが嫌なだけ。
お母さんの再婚を認めない子供の嫌がらせ、みたいな感じ。 恐ろしく巧妙で徹底してるけどね。
そっちが注意して、避けようと思えば避けられるでしょ? ・・・って言うことなのよ、ムカつく!

私達、里の忍びは暗部を誇りに思ってる。 完全に感情を殺し、任務を遂行する理想の集団だから。
そして、その部隊を率いて四天王と呼ばれている部隊長達は、火影様や上層部も全信頼を寄せている。
凄い人達なの。 それはもう、身をもって知ってるわよ。 でもそれとこれとは全くの別次元の話!



いつ来たのか全然わかんない。 噂をすればなんとやらだ、ゴソゴソとイルカ先生の机を物色してる。
相変わらず死臭・血臭を纏わりつかせたまま、アカデミーに出没。 挨拶も何もあったもんじゃない。
これだから困る。 子供達はまだ未熟な忍びのタマゴ。 突然血だらけで現れたりって、どう思う?
だから表の忍びは四天王の事を“鬼”と呼ばせてもらっている。 内輪だけのアダ名ってこと。


「・・・・・・ない。 どこにあるんだ?」
「・・・・・・・・・。」

勝手に人の机は触らない方がよくないですか? 後でイルカ先生、困りますよ? ・・・・なんてね。
思ってても言えない。 でも進歩はしてるのよ? 血まみれで来なくなっただけましだわ。
天は二物を与えず。 里の誉れ高き鬼達は、任務以外の事に対する配慮がなさ過ぎるのよ。

例えば忍術は、自分のチャクラを自然エネルギーと同調させるから、無意識だとタチが悪いの。
部隊長クラスが忍術を多用して帰還後にここへ来た日には、そこらの空気が同調しまくってもう大変。
戌部隊長の通った後は電気製品が駄目になったり、猫部隊長の場合は、季節外れの植物が芽を出す。
この主語なし男の猿部隊長の場合、アツアツのコーヒーが冷めたり。 少し意識してくれればいいのに。


何探してるんだろう・・・・・? 私もそうだけど、まだ残っている教員仲間は耳がダンボ、興味津々。
私達は知らず知らずゾロゾロと、鬼の元へ。 とういか、イルカ先生の机の周りに集まっていた。
授業は終わったけど、まだ自主練習で残ってる子もいる。 出来れば早々にお引き取り頂きたい。

「あの・・・・ 何を探してるんですか?」
「これを貼る台帳だ。 アカデミーにあると聞いた。」
「あ! それ、ニコチャン台帳です!!」
「・・・・そうか、それを四冊出せ。」

突然鬼が振り返って命令口調。 上から目線で、とてもじゃないけど人にお願いしている態度ではない。
相変わらず主語も何も無かったけど。 どうやら鬼の探し物は“ニコチャン台帳”だったらしい。
その、くれと言っている手は何? それが人にモノを頼む態度?! 言ってやりたいが、命は大事。

「ん? ・・・・暗部印の術玉か。 なんでこんなのが・・・・ まあいい、取っておいたぞ?」
「はあ、ありがとうございます・・・ あの、これどうぞ? ( 暗部印の術玉?! ) 」

これは私達教師が、年少クラスの子供に使っている評価表だ。 あのシールをこの台帳に集める。
【たいへんよくできました】 【よくできました】 【がんばりましょう】 【もっとかんばりましょう】
担任からもらう、この四種類のニコチャンシールを貼る。 シールのニコチャンの表情をみれば一目瞭然。
まさかとは思うけど、評価シールを集めて貼るの?! 暗部の四天王が? 通知表みたいなモノ??


私が差し出した四冊の台帳が忽然と消え、そこにはもう誰もいなかった。 目の前にいたのに・・・・。
さっきまで確かに、くちゃくちゃだったイルカ先生の机の上が、いつの間にか綺麗に整頓されてる。
誰か動き見えた? そう聞いてみたけど皆無。 ・・・・・ちゃんと元通りに戻していったのね?

アカデミーに来たのは久しぶり。 見る度に、少しずつ言葉数が増えているように思える。 今回も。
猿部隊長が消える前、小さい声だったけど“ありがとう”と、そう聞こえた。 ひょっとして・・・・
来た時も挨拶してたのかしら? 突然で、しかも小さすぎて聞こえなかっただけ・・・・ とか?

少し見ない内に凄い進歩よ! それに“災い”も。 てっきり鬼達の仕業だと思ってたけど違うみたいね。
災いの元は私の頭にくっついてた術玉。 鬼が知らなかった所をみると、四天王は関与してないらしい。
でも暗部用と言ってたから・・・・ さては、小鬼達ね?! そうか、わかった! 暗部隊員達よ!
イルカ先生を、いつまでも部隊長達の家庭教師にしておきたいから・・・・ そういう事なの?!


術玉は吹き矢の筒に入れて飛ばす。 玉は札と同じ効果があるけど、もの凄く小さいから扱いが特殊。
札の様に大きくないから敵にバレなくて便利だけど、チャクラコントロールがよくないと使えないの。
忍具使いを得意にしている忍びにしか扱えない武器。 あとは医療忍者とか・・・・ 暗部とか、ね?
あの進歩は隊員にとって、より重要な事なんだ。 そりゃそうか、いつも一緒にいるのは小鬼だもん。

・・・・・どっちの仕業にしても、イルカ先生が鬼軍団に魅入られているって事だけは確かね・・・・。