鬼に魅入られた男 5   @AB CEF GHI JKL MNO P




今回の交戦は長引きそうなので、三代目が補給部隊を編制した。 遅れての補給部隊だから伝令に走る。
俺の役目は、交戦部隊に補給部隊との合流位置を知らせること。 長引く戦いでの補給源は命綱だ。
だから補給部隊の移動ルートは極秘扱い。 物資の補給は当然の事、医療忍や慰安娼婦なども含まれる。
一般人や戦忍じゃない忍びが多くいる補給部隊は、敵から標的にされやすい。 叩けば命綱を絶てるから。


護送の任を受けた忍びもいるけれども、守れる数に限りがある。 だから安全な場所を確保したら報告。
交戦部隊に位置を知らせて、交戦部隊が数小隊ずつ入れ替わりで補給を受けにくる。 俺は伝令に走った。
でもその途中、敵に見つかって薬を打たれた。 もう少しで交戦部隊のところまでたどり着けたのに。

ははは。 まさかね。 伝令で命を落とす事になろうとは。 ここは覚悟を決めなきゃ・・・ な。
手足の先が痺れて来た。 頭を覗かれる前に自害しなきゃ。 補給部隊の位置をばらす訳にはいかない。
俺が発った後に交戦部隊が補給を受けに来なければ、このルートは危険とみなされて場所が変わる。
補給部隊はもっと安全なルートを確保して、また新たな伝令を走らせる。 後の事は任せ・・・・ え?!


「弱いモノ虐めは良くないですよ? 戦忍ならボク達の首が欲しいと思いませんか?」
「・・・・!!!!! 木の葉の・・・・暗部?! まずいっ! ひけっ!!!」
「遅いっ!!」 「逃がすかっ!!」

覚悟を決めた時、俺の前に暗部のスリーマンセルが突然姿を現す。 8人いた敵と交戦、辺りは血の海だ。
この仮面は・・・・ 猫。 部隊長を含めた部隊なのか、凄い・・・・ こんなに、レベルが違う。
隊員の一人が土遁で敵忍の死体を埋めてた。 もう一人が俺の口に噛み切った親指を当てる。
自分はこの痺れ薬の耐性をつけているから、血を舐めろ楽になる、そう言って。 この間わずか2分。


「もう動けそうだね? 帰還するついでに長引いてる現場を覗いて行くか、って部隊長が。」
「あ、ありがとうございました。 これで任務を遂行できます。 補給も遅れずに・・・・」
「あっちは補給部隊が合流すれば、あっという間に元気になるよ。 早く知らせてあげて?」
「・・・・・・はい!! 必ず!!」

今の俺の感動がわかるか? こんな名もない、たかが伝令の忍びの為に、暗部が介入してくれた。
誰の任務の邪魔もせず、それぞれの役割をきっちり残しておいてくれる。 ウチの暗部は大陸一だっ!!
そう感動に打ち震えていたら猫の面をつけた暗部が・・・・ 猫部隊の部隊長が俺に言った。

「今日のこの出来事を、受付内、もしくはアカデミー内で、誰かに言いまくって下さいね?」
「・・・・・・は?」
「イルカ先生の耳に入るように、尾びれ背びれつけて良いから。 じゃ、よろしく!」
「・・・・・・・イルカ先生って・・・・・ 誰??」

部隊長やりましたね、“大変よくできました”これなら間違いなく貰えますよ、そんな声を残して、
俺の命の恩人・・・ いや、交戦部隊と補給部隊の命の恩人達は消えてしまった・・・・・。 ???
ま、まあいい。 俺は生きてて、交戦部隊も持ちこたえられる。 余計な事は考えないでおくのが吉だ。





「猫部隊長っ! 聞きましたよ? 素晴らしいですっっ!! さすがですっっ!!!」
「帰還のついでに、ちょっと遠回りしてみただけです。」
「今回は当然 これですっ!! 俺、今、むちゃくちゃ感動してますよっ!!」
「 “たいへんよくできました” ・・・・・だ、やった!」

この人は中忍、海野イルカ 23歳 独身 ボクと同い年。 でもボク達暗部の部隊長の家庭教師だ。
イルカ先生は任務干渉の仕方で、正規の忍びの態度が変わる、と言った。 ホントにその通り。

ボク達は自慢じゃないけど優等生。 先生にレクチャーしてもらった事は応用して実行してきた。
任務干渉は完璧だけど。 暗部の任務干渉は機密事項として、当事者の心の中にしまわれてしまう。
先生に色んな任務干渉を教わった。 でもボク達のした事だと知られずに終わるんだ。 完璧ゆえにね。
だから正規の忍びのイルカ先生の耳には入らない。 アズサさんは大胆にPR作戦に出て失敗だったし。
ああやって受付で派手にやってくれたから、遠回しプチPR作戦に切り替えてみた。 もう大成功だ。

これでやっと念願の、ボク達の卒業の証でもある“イルカ先生からの評価シール”を貰う事が出来たよ。




三代目が火影室にボク達四人を集めて、今後、本格的に弟子を持って育てて欲しい、って言った。
えーーーー?! 毎回、毎回、ロクな卒業生いないじゃないですか。 オモチャのネジにもならない!
そう反論したら、上忍師になる前に、表に出す訓練をしておくべきじゃったか、と返って来た。
ボク達へ強制的に変化の術をかけ待機させて、しばらくして三代目が連れて来たのがイルカ先生。

『一般常識教育係に任命された、海野イルカです。 部隊長だからと言って遠慮はしません。』

三代目にボク達の変化だと聞かされてきたらしい。 でもイルカ先生は全然、少しも驚かなかった。
知っていたならもっとこう・・・ カクカクしてもいいのに。 なんでか他の忍びはカクカクする。
手足がそろって出たり、ギギッっと顔を向けたり。 油の切れたブリキの玩具の人形みたいに。
だからボク達暗部は、表にいる正規の忍びの事を“オモチャ”と呼んでいた。 すぐ壊れるしね?


『ここにおるイルカはアカデミーの教師でな。 受付にも座らせておる。 表情豊かな忍びじゃて。』
『俺は皆さんより遥かに弱い忍びですが、皆さんが殺したはずの感情をたくさん持ち合わせています。』

『ナニ、ソレ。 上忍師とどう関係あんの?』
『一般常識教育係・・・・ 家庭教師って事かい?』
『ただのオモチャじゃ、なさそうだな。』
『ちっちゃいけど、ボク達大人ですよ?』

『ほんと、ちっちゃい! これが暗部の部隊長だなんて信じられませんよ。 はは、可愛いなぁ!』
『お主達には、子供らしい事は何一つさせてやれんかったからな。 ワシのせめてもの償いじゃ。』

『『『『・・・・・・・・・・。』』』』

あれがイルカ先生との最初の出会いだった。 もうそろそろ一年になるんだよね、早いなぁ。