忍びの里 11   @AB CDE FGH IKL MNO P




イルカは木の葉の忍びとして、暗部部隊長の命を、何よりも優先するだろう。
不可抗力でカカシやヤマトを取りこんだとしても、その時点で自害したはずだ・・・・。
幻術なら、かけた術者を倒せば解けるが、『毒』はそうではない、それの意味する所は。
自分が死ぬと頭の中にいる二人も道連れにしてしまうから、自害は絶対に出来ないんだ。
なんてことだ、死にたくても死ねない。 イルカ、だから・・・ そんなに辛そうなんだな?



「さっきも言ったけど、選ぶのはお前だよ?」
「政木上忍、毒を・・・味わってみますか?」
「駄目だ!! あなたは木の葉の狂刀とも言われている上忍、政木 リュウガなんですよ?!」
「・・・・・・。」

どんな事を知っても、イルカが欲しかったのに。 おれは迷っている。
もし力ずくでモノにしたら、もっとイルカを苦しめることになるだろう。
ココまで迷う事が、今まであっただろうか? おれが何かに迷いを持つなんて・・・
本当に・・・イルカを知れば知るほど、人間らしさが戻って来る。

「・・・イルカ、おれはお前が欲しい・・・ だから・・・ 絶対にお前を抱かない。」
「まさ、き、さん・・・ ありがとう・・・ございます・・・」
「・・・・・まいったね、イルカ先生もって行かれちゃった。」
「ボクらより冷静沈着ですね・・・さすがは、木の葉の狂刀。」

そう、おれの出した結論は、イルカの心をもらう事だ。 誰よりも気高い木の葉の気質。
イルカの傍にいて、もっと人間らしさを取り戻したい。
おれはイルカの頬に手をやる。 イルカはその手に自分の手を重ねた。
額もつき出してみる。 イルカは額を突き合わせた。 こいつの班の、誓いの儀というヤツだ。
俺の手にイルカの涙が、ツルツルと落ちて来る。 おれが見た中で、おそらく一番綺麗な涙だ。



「・・・ボク達がおいて逝くことはあっても、おいて逝かれる心配はないんですよ?」
「お前もおれ達と同じだと思ってたのに・・・ 後から出てきたくせに、ズルイヨ。」
「なんとでも言え。」
「ボク達だって考えなかった訳じゃない。 でも・・・今さら遅いんです・・・」
「ココまでイルカ先生の気持ちを尊重した奴は、政木が初めてだーよ・・・」

「だが、おれは・・・お前達二人が羨ましいのも、やっぱり事実だ。」
「ボクらは早くに出会いすぎました・・・」
「そうだね。もし今だったら・・・ 政木と同じ決断が出来たかもしれない。」
「ヤマトさん・・・ カカシさん・・・」

こいつらはこいつらなりに苦しんでいる。 イルカの体は好きに出来ても、その心はない。
イルカから『暗部部隊長の命』としていつも大切にされてはいるが、それだけだ。
ふいに疑問が湧いた。三代目も承知だったのだろうか? カカシ達のような忍びは、木の葉にとって至宝だ。
奴らがいくら強くても、みすみす『毒』を抱かせ、危険にさらすハズはないと思うのだが・・・



「政木、お前の決断は・・・・ いつも正しいヨ、オレの方こそ羨ましい。」
「あなたは暗部の面が邪魔だと言って、入隊を断った。 暗部内では、英断で有名な話です。」
「??」
「・・・・・。」

暗部に推薦された時、あんな面付けて動けるかと言って、推薦を蹴った。
おれは名誉にも名声にも、あまり興味がなかったし、ほんとうに邪魔だと思っただけだ。
そんなこともあったな、もう随分前のことだ。 いかし、それが英断とはどういう事だ?
暗部の連中は皆、里の誉だ。 蹴る馬鹿がいるとは思わないだろう。 愚断なら分かるが・・・

「暗部の“さんない事項”を教えてやる。 “自由、引退、抜ける”ダヨ。」
「先輩やボクが、面を外して表にでますから、さぞ自由な部隊だと思うでしょう。」
「・・・暗部の機密事項を俺にしゃべっていいのか?」
「イルカさんの本心を感じ取ったあなただからこそ、ボク達の話も聞いて頂きたいのです。」
「お前はオレ達と同じだけど、間違った決断を全て退けている・・・・」

「暗殺戦術特殊部隊・・・ 木の葉の精鋭集団。 本当にそう思っているのか?」
「三代目火影、この擬態型の里を作り上げた、最高の指導者。・・・先見の目を持った方でした。」
「・・・・・。」



どうやら、まだ俺の知らない里の顔があるらしい。 イルカもどうやら知っているようだ。
ヤマト、カカシがそれぞれ重い口を開く。 こいつらが語る話は、里の深層だ。

イルカの心を攫ったのが、よっぽど悔しいのか・・・・・・ それとも。
自分達の間違いをおれに懺悔したいのか。 ・・・・おそらくは、そのどちらも、だ。
自分達が本当に手に入れたかった未来を、類似しているおれに投影したいのだろう。