忍びの里 6
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「さらばだ。 木の葉の優しい忍び・・・」
「さようなら、上忍・・・」
そう言ってイルカは印を組み始めた。 子・戌・辰・・・? あの印は封音結界か・・・・
封音結界はその名の通り、結界の中の音を封印する。 ただし、外の音は中からも聞こえる。
いたずらをした子供をこれで包み、反省させている場面を、里のあちらこちらで見かける。
忍びの親や、アカデミー教師などが、一番使い慣れている結界だろう。
「亡き三代目の教えは“忍びである前に人であることを忘れてはならない”・・・実は・・・
もう一つあるんです。“木の葉の里と里の民が受けた屈辱は決して許すな”・・・なんです。」
封音結界は、優しく上忍を包み込んだままだ。 中で何か言っている様だが聞こえない。
「取引そのものが偽物とは、雲隠れはどれだけ木の葉を侮辱すれば気が済むのでしょう?
かつて雲隠れが、木の葉の日向家に何をしたか・・・ 上忍のあなたなら、ご存知ですよね?
日向の首という、木の葉の血の犠牲の上に、両国の不可侵協定が成立したはずですよ?
里が受けた屈辱を、俺たち木の葉の忍びは、ただの一度も忘れません。
確かに木の葉は、下忍が生きていたとしたら、どんな事をしてでも取り戻したでしょう。
でもそれは、人質交換じゃない、力ずくです。・・・でも、それももう必要なくなりましたが。
・・・俺は里内で、任務受付所の受付係と、アカデミーの教師をしてましてね、
今回、あなた方が利用しようとした下忍の遺体は、二人とも俺の元教え子たちです。
それに、俺は里外任務では潜入部隊に所属しています。 ・・・・下忍の頃からずっと。
上忍・・・・・? 敵に優しい忍びなんて、木の葉にいる訳ないじゃないですか。」
木の葉の忍びは仲間を絶対見捨てない。 それは本当だ、初代火影 柱間様からの教えだ。
仲間意識が強く、忍びの楽園のような隠れ里・・・ その理想を具現化していると思われている。
だからといって、他里にまでそうかというと、それは大きな間違いだ。
《木の葉の忍びは情にもろく、甘ちゃんばかりだ、あいつらは本当の忍びじゃない。》
そうやって木の葉を侮ってくれるから、実動部隊のこちらとしては戦いやすい。
とくに敵地の懐に潜入する潜入部隊は、侮られるよう、日々の工作に抜かりがない。
封音結界を張ってあるので、何をわめいているのか聞けないのが残念だ。
あの中じゃ、自傷は出来ない。 もともと木の葉の子供用だから、そう作られている。 自害は無理だ。
あいつの死体は解体され、隅々まで検分されるだろう。 見せしめに使われるかもしれない。
その前に拷問部の奴らの、本格的な制裁が待っているが。 横を見ると、イビキが舌舐めずりしている。
もちろん、最終的な処分は上層部が決めるだろう。 奴らと入れ替えに、イルカが出て来た。
上忍なら、敵に捕縛される前に、自害するべきだ。 おれ達は皆そうする。
木の葉なら生きて帰えれるとでも、思っていたのだろうか? そんなことあるはずがないのに。
里の忍びがこうやって影で里を守っていることは、木の葉の住民さえ、知らないだろう。
忍びは陰に生きるもの。 古今東西、太古の昔からそう決まっている。 木の葉の擬態はそれほど素晴らしい。
その地盤を築きあげたのは今は亡き木の葉の父、三代目火影そのひとに他ならない。
「お疲れ様です、イルカさん。」
「お見事。」
「はは、政木さんに褒めて頂くなんて照れちゃいます。」
イルカは他の潜入部隊の奴とは少し違う。本当に仲間思いで情が厚いし、涙もろい。 仲間限定だが。
そのせいで里の民はもちろん、新人や、潜入部隊のやつらと組んだ事がない奴は、
本当にその見た目のままだと思っている者もいる。 いや、そこまで思わせる、こいつが凄いんだが。
そんな奴らは、このイルカを見たら衝撃を受け現実を知るだろう。 イルカもやはり、木の葉の忍びだと。
「ただーいま。 雲の部隊、さくっと偵察してきた。もちろん痕跡は残してないヨ?」
「お疲れです先輩。 今さっき、口を割りました。 残念ですが、やっぱり空取引でした。」
「そっか・・・ じゃあ、遺体だけでも回収してやろう。 下忍だけど、あいつらは木の葉の忍びだもん。」
「あの子たちも帰りたいと思っているはずです・・・・ カカシさん、ありがとうございます。」
今から暗部が奇襲をかけ、下忍の遺体を取り戻すだろう。 雲の部隊は足跡を残さず全滅させる気だ。
イルカに教えられたその下忍たちは、里を心から愛していたはず。 幸せな夢を見たまま死んだ。
だが、先生の忍びの顔を知ったとしても、その子らなら里の真実として、しっかり受け止めただろう。
何を知ったところで、おれの気持ちは全然変わらない。 おれは本気でイルカに惚れてる。