紅葉の痣 10
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カカシさんとテンゾウさんなら、ああ書けばきっと・・・・ あの子の気持ちを確かめてくれるはず。
依頼人はその方が娘にとっては幸せだと言ったけど。 絶対に本心じゃない。 だってそうだろ?
道端に落ちてた雑草を見ただけで、娘になにかあったのではないか、と心配するぐらいの親だ。
嫌な予感がするからと、何をどうしていいのかも分からずに、木の葉の里へ相談に来た父親。
薬代も払えない貧しい人の為、それならば野草から薬を自分で作ればいい、薬草学を学ぶのだ、と。
そんな娘さんだぞ? いきなり大名家に連れて行かれて、嬉しいなどと思うはずがないじゃないか。
死んだ母親の話もたくさん聞いただろう。 急に大名家の血筋の者だと言われて納得するか?
心の中にいる母親は大名家の姫なんかじゃなく、父が語った強く優しい母親、そうに違いない。
第一、ずっと昔に姫が家を出たというなら、もう水の国の大名 最上様とは何の関係もないだろ。
親に許可なく子を攫い、自分の孫娘もクソもないもんだ。 少しは父親の身になれ、ふざけんな。
知らないでいたらそのままだった。 でも木の葉に来てくれた、それに応えるのが里の忍びだろ?
民の全部を助けるのは無理でも、目の前の助けを求める小さな声は聞ける。 そうですよね、三代目。
たかが受付忍がでしゃばって、そう思われても結構。 依頼人には誠意をもって尽くしたい。
もし彼女の意思で城に残るというのなら。 それが本心ならば。 その時は仕方がない、そうだろ?
・・・・・・?? わ、可愛いっ! 紙のイルカだ・・・・ この式、俺宛て・・・・ あっ!!
そうか、カカシさんとテンゾウさんだ!! きっと鷹丸に頼んだ書簡と入れ違いになったんだな。
という事は・・・・ 水雲の里で全部を聞いたんだ・・・・・ あり得ない速さだよ、凄いな・・・・・。
・・・・・・へ?? また?? ・・・・・もう一匹?? いや、式に一匹も何もないんだけど。
ははは、可愛いから、つい。 さっきと同じく、紙のイルカが受付所の机から時間差で出て来た。
鷹丸に頼んだ書簡を読んで・・・・ その返事だ! 俺、二人を信じてる。 三代目の懐刀だもん。
・・・・・・・・・・・・・・。 これって・・・・・。 そうか、そういう事か。 ごめん、俺少し抜ける。
ちょっと調べたい事がある。 あと、依頼人の様子を見てくるよ、イルカが来たら置いといて?
?? 違うよ、俺じゃないよ、このイルカ型の式! 受付所の机から飛び出てくるんだ、可愛いよな。
あー 先に言っとくぞ、勝手に見るなよ? 木の葉の誇る黄金コンビからの式だから。 じゃぁ!
木の葉の仕入れた最新の水の国情報から、てっきりそうだと思ったけど。 全部が茶番だと伝える。
水雲の里への依頼は二つあった。 娘の拉致と、皮膚の移植。 依頼主は水の国の大名 最上様。
黄金コンビが知らせてくれた確実な情報で、からくりが読めた。 情報部で調べて裏付も取った。
実の父親に相談もなく娘を攫った訳がやっと判ったよ。 最上家の孫娘に仕立てられただけだ。
少しばかり名の通った大名なら、金で問題を解決しようとする。 最上様もてっきりそうだと。
数日の後、依頼人の家に大金が届き、“娘の事は忘れろ” ってな事になるものだとばかり・・・・
おかしいと思ったよ、ふざけるんじゃない、って。 違うからだ、最上の血筋とは無関係だから。
情報部に、在りし日の失踪した姫の写真を見せてもらった時、彼女にとてもよく似ていると思った。
姫の面影を知っている者なら確実に信じるし、俺もイノイチさんも、親の依頼人すらそう信じた。
依頼人は亡くした妻に思いを馳せ、“私の妻が大名家のご息女だったなんて” と、心底驚いてた。
「妻と出会ったのは、火の国の国境の山中でした。 川に水を汲みに来てたんですよ・・・・」
「奥様の・・・・ それ以前の話は聞かなかったのですね?」
「必要ありませんでした。 すぐそばの小屋で一人で暮らしている風でしたから。」
「人里離れた山中で、女性が一人暮らし、か。 ワケ有だ、と思いますもんね。」
「私は上流で足を滑らせて川に落ち、彼女に助けられました。 ・・・・命の恩人です。」
「ふふふ、とっても素敵な出会いだったのですね。」
「・・・・今でも妻の過去などどうでもいいと思っていますよ。」
「ええ、そうですよ、事情は人それぞれ。 一緒に生きた時間がかけがえのない宝物です。」
実は情報部に行って調べたのは、依頼人の死んじゃった奥さんの事。 彼女は人を殺してたんだ。
それは不幸な出来事で故意的ではない。 だから人目を避け、国境の山中にひっそりと暮らしてた。
でも依頼人と知り合って、子を身ごもり・・・・ 彼女にとっては亡くなる瞬間まで幸せだった。
“自分ではなく赤ちゃんを助けて”そう言ったのは紛れもない本心、己が奪った命への贖罪だ。
でもそんなことは、依頼人は知らなくていい過去。 素晴らしい娘を残してくれたのだから。
だから、依頼人の亡くなった奥さんが大名家の血筋の者だという事は、絶対にありえない。
もしかしたら、本物の姫が大陸のどこかにいるかもね。 でも子がいるかどうかは神のみぞ知る、だ。
海での水難事故だそうだ。 突然大きな波が押し寄せ、浜辺で寛いでいた人々を攫って行った。
その日、浜辺に遊びに行った大名家の者も含め、その場にいた人全員が、波にのまれたらしい。
死んだのは何も最上家の者だけじゃない、一般人も。 大波がくるなんて、誰も想像できないよ。
それに最上家にはまだ、本家じゃなくても分家の子供もわんさかいるじゃないか。 ・・・・なのに。
どうしても本家の血筋の者が欲しかったんだ、最上様は。 だからあの子を本家の者と偽った。
同情はするけど、最上様は間違ってる。 亡くなった子らの代わりに依頼人の娘を攫うなんて。
確かに他人の空似、駆け落ちしたという姫にそっくりだけど。 ・・・・・全くの別人なのに。
最上本家の血筋の者に遺伝で現れる紅葉型の痣がある、間違いなく自分の孫娘だ・・・・・ などと。
けれどそれを見た者は誰もいない。 当たり前だ、そんな痣、どこにもついてないのだから。
なるほど、だから“胸にある”と噂されているんだ。 胸元をさらけ出しては人前に出ないもんな。
これが二つ目の依頼に繋がるんだ。 依頼人の娘が最上家とは縁も所縁もない事を証明してる。
もしも本物なら攫って大金を送れば済む。 依頼人だって娘の幸せを勝手に決め、身を引いたかも。
でも皮膚を移植してほしい、という依頼とセットになってるなら。 それはあの子が関係ないから。
顔はそっくりだから変える必要はない。 なら皮膚の移植というのはこれしかない、痣の移植。
それがあれば最上本家だという証拠になるモノがないから、だから移植をしなくちゃならない。
今は公表するだけでいいが、後々痣がないと偽物だとバレる。 化けの皮を剥がされる前に・・・・
彼女を本物に仕立てるつもりなんだ。 紅葉型の痣がある皮膚を移植して・・・・ 動かぬ証拠に。
・・・・・もしかしたら。 最上様ご自身の紅葉の痣を移植するつもりなのかもしれない・・・・・。
もしも本物の姫がみつかったら? 孫もいたら・・・・ あの子はすぐに殺されてしまうだろう。
無理やり孫娘に仕立て上げられた挙句、もし本物が見つかればお払い箱。 そんな事、絶対に許せないっ!