紅葉の痣 17
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第三次忍界大戦の終わり頃だった。 俺達アカデミー生の親はほどんどが忍びで、戦場に出てたから。
火影の座を四代目に譲り、隠居していた三代目は、よくアカデミーに来て一緒に遊んでくれた。
俺も含めたアカデミー生は、毎回登場の仕方が違う三代目の突然の来訪が楽しくて仕方がなかった。
俺が仕掛けたバレバレのいたずらでも、必ず引っかかってくれたり。 俺達を気にかけてくれてた。
ちゃんと分かってたよ、先代火影様はわざといたずらに引っかかってくれてるんだな、って。
今思えば、三代目は俺達と遊ぶ事で、逝ってしまった数多くの下忍の死を悼んでいたんじゃないかな。
アカデミーなんて飛び級で卒業した優秀な生徒は、もう既に下忍として戦場で戦ってたんだ。
終戦に向けて沈下してたけど。 いたるところで忍びの里同士が衝突してた、不安定な時代。
俺達がアカデミーで三代目にじゃれてる時、あまり変らない年の子が忍びとして戦場で死んでた。
この顔の傷は嫌でも視界に入る。 俺を見る度に三代目は、当時の事を思い出すんだ。
戦場でもない里内で、下忍にもなっていない子を傷つけてしまった。 それが三代目の罪悪感。
でもそんなのは、階段から落っこちたりするのと一緒。 里内でも子供は怪我をするものだろ?
もうとっくに塞がってるし、自分の不注意のせいだ、罪悪感を持ち続けるほどの事じゃない。
今まで俺は自分が特別扱いされるのが嫌だった。 罪悪感で甘やかしてほしくないと。
でもそれは俺だけの理由。 もっと深いところにある三代目の心の傷を見ていなかったんだ。
・・・・・・代表で甘やかされてたんだな。 当時死んじゃった下忍を代表して甘やかされてたんだ。
戦争だったんだ。 三代目のせいで多くの下忍が死んだ訳じゃない。 そんなこと言ったら俺だって。
何も知らないで里でいたずらばかりしていた俺だって、同罪だ。 ・・・・・だから言ってあげなきゃ。
死んでしまった下忍たちはもう、甘える事も甘やかされる事も出来ない。 甘やかされるぞ、俺。
三代目の気の済むまで甘やかされる事にする! 俺も甘える。 よーし、いっぱい甘えるぞっ!
「・・・・じっちゃん。 俺がたまに甘えると嬉しい、って本当?」
「ぅっ! そ・・・・ そんな事、誰が言ったんじゃ?! ・・・・・・ぅ、うむ。 その・・・・ な?」
「この傷は・・・・ じっちゃんのせいじゃないっ! いいかげん、自分を許してあげてよ!」
「・・・・・・・・イルカ。」
「俺は・・・・ じっちゃんが見守ってくれてるだけでいいんだ、本当だよ?!」
「よう分かっておる。 お主はそういう奴じゃ、よう分かっておる。 ・・・・ワシの我儘じゃよ。」
「過保護が・・・ 俺を甘やかすのは・・・・ 我儘なの??」
「そうじゃ。 償える者が目の前におれば何かせずにはいられない、ワシの・・・・ 自己満足じゃよ。」
「・・・・・・・じっちゃん・・・。」
「ワシは償いきれん間違いをたくさんやってきた。 もう逝ってしまった連中には無理じゃが・・・・・」
「“目の前の小さな事は出来る”・・・・・俺は生きてる。 ・・・・だからなんだね。」
「お主が呆れて、腹いせに援助金で贅沢な食材を買おうが。 ワシは嬉しいんじゃよ。」
「・・・・俺が甘えるともっと嬉しいなら。 これから一杯甘える事にする。」
温泉にも連れて行ってくれた、生活費もたくさんくれた、俺が嫌がってもいつも気にかけてくれて。
俺、贅沢者だ。 じっちゃん、今までありがとう。 素直にありがとう、って言えなくてごめんね?
これでぐらいで三代目の気持ちが救われるなら。 死んで逝った名前も知らない同世代の忍びの分も。
俺の嫌な気持ちぐらい、そんなのポイだ、ポイッ! 依怙贔屓?! 上等だ、好きなように言え!
・・・・?? 確かに甘えると言ったけど。 それって・・・・ どうなの?? ずーっと昔だよ??
じっちゃんの“俺に甘えてほしい第一号のお願い”は、背中にくっついて“大好き!”って、言う事。
そうだった。 子供の頃の俺は・・・ 三代目の背中にピョンと飛び移って、首にぶら下がったんだよな。
“いたずらしてごめんね”や“遊んでくれてありがとう”の代わりに。 はは、よく覚えてんなぁ。
う〜 今の俺がやったら三代目つぶれそうだぞ? まあ、いいか、昔に戻ったつもりで・・・・・ えいっ!!
あんなに大きかった背中が小さくなった。 もう首にぶら下がれないよ。 でも、この温もりは変わらない。
「・・・・・じっちゃんっ! 大好きっっ!!」
「おおぉぉ・・・・ 昔に戻った様じゃ、ほほほほ! ちっこかったのぉ、お主は。」
「くすっ! 今では三代目の方がちっこいですよ? ・・・・・・大好きです、三代目。 ありがとう。」
「・・・・お主を甘やかすのは。 ワシの唯一の楽しみなんじゃ・・・・ すまんの?」
「これからは甘やかし解禁です、任せて下さい。」
俺がお願いしたから。 あんなに凄い忍びを就けてくれて。 本当にありがとうございます、三代目。
しかし凄いですよね、半日ですよ?! 半日!! やっぱりウチの里の黄金コンビは違いますねー。
三代目に言われたからって、嫌々割に合わない仕事をしてる風でもなく。 楽しそうでしたし。
血を流すことなく、他里の長や他国の大名と渡り合って来たんですよ?! もう俺、大ファンです!!
あ。 噂をすれば、ですよ? ウロウロしてますね。 呼んであげて下さい、夕飯にしましょう?