紅葉の痣 2
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・・・・これでよかったんだよな? 骨折り損でも。 だってあんなに真っ青になって・・・・。
まだ家に帰ってこない自分の娘を、どうか探してはもらえないでしょうか、と取り乱すばかりで。
村はずれにある薬草学の学び舎から戻ってこないそうだ。 今日は午前中で終わるはずだったのにと。
村役場では、父親の誕生日ならプレゼントを買いに寄り道してるんだろ? と言われたらしい。
本人もハタと我に返り、少しばかり待ってみたそうだ。 娘さんの通学路を巡回しながら。
・・・・・その通学路で、散乱してる雑草をみつけた。 だからもの凄く心配になって木の葉に来た。
うん、町に降りて行ってお役所へ届け出たとしても、こういう話は取り合ってもらえないだろう。
いつどこで何があったのか、それすらわかってないのだから。 待てと言われて終わり、だろうな・・・・・
ハッキリとした理由もなしに、人員と時間を割く訳にはいかない、一般軽犯罪取り締まりで手一杯だから。
手に握っていたのはシオシオになった草の束。 娘が摘んだものかもしれない、と不安になった父親。
薬草学を家でも独学していて、毎日のように道端の雑草を摘んで帰ってきたから。 が、根底にある。
根拠がしおれた草だけじゃ・・・・ ね? でもあの父親の気が済むなら、それでいいやと思った。
俺がちょこっと山中花店へ足を運べば済むだけだから。 イノイチさんに頼めば、あっという間だし!
・・・・・とまあ。 こんなやり取りを、今受付所でしてきたところです。 なんだかほっとけなくて。
依頼人には任務依頼として受理します、って言ったんですけど。 正式な任務依頼にすると時間が・・・・
だって任務依頼書を作成するでしょう? おそらくDランク扱いです、で、通達を出して召集して・・・・
それだけでも半日かかっちゃうじゃないですか。 イノイチさんにお願いすれば一発だな、って。
ちゃっちゃと心潜術で覗いて頂けると助かります。 え? もちろん見返りは用意してますよ。
ほら、前に・・・・ イノちゃんと一緒に家族で出かけたいっ! ってぼやいてたじゃないですか。
お出かけ中、店番をかって出てでますよ。 お客様の対応なら受付とほぼ変わらないですよね?
「その話乗った! お前が一日、店番をしてくれるのか、イルカッ! いやー 助かるなぁ〜!」
「入れ違いで娘さんが帰ってたら逆に心配します。 だから少しでも早く村に戻った方がいいと・・・・」
「イルカらしい発想だな? 店番は気にするな。 おれも娘を持つ一人の親として協力するよ。」
「イノイチさん、ありがとうございます。 これがその雑草なんですが・・・・・」
イノイチさんは、山中一族の長。 木の葉の山中一族は、血継限界の心潜術を持つ一族で知られている。
・・・・が。 なぜか超お花好き。 忍びのくせに二足のわらじで里内の商店街に生花店を経営。
花柄エプロンつけて、謎の歌をハミングしつつ、嬉しそうに水切りをしている様は、忍びとは思えない。
忍びとは思えない、っていうのは俺もよくそういわれるから・・・・ お前が言うな、って話だけどな。
お、もう終わったみたいだ。 さすがイノイチさん! で。 どうでしたか? なにか見えましたか??
「・・・・ああ。 その親父さんを・・・・ 余計に不安にしてしまいそうなモノが見えた・・・・・」
「え゛?! 娘さんの帰宅時間が遅い事と関連がありそうな事柄が・・・ 見えたんですか?!」
「ヘロヘロだけど、この草の細胞がまだ生きてたから見えたんだ。 まさに親の勘ってやつだな。」
「・・・・・・・その顔。 よくない事が娘さんの身に起きた・・・・ とか言います?」
「ああ。 ・・・・理由は判らんが。 この娘さん、待ち伏せされて拉致られた様だ。」
「・・・・まさか他里の忍びが関わってる、なんて事はいくらなんでもあり・・・・・・」
「ある。 そのまさかだ。 あの身のこなしは忍びで間違いない。」
「?!」
あり得ない。 だって本人も言ってた通り父子家庭で・・・・・ お世辞にも裕福とは思えない。
どっかの商家の娘とか、そんなんじゃないから・・・ 身代金を要求されてもきっと払えないだろう。
他里の忍びが乱暴したのならその場で済ませるはず、運が悪ければその後・・・ 殺されちゃう事も。
だからこの二つは考えられないとして・・・・ わざわざ待ち伏せしてまで個人を狙う必要が?
生きているという点では朗報だろうけど、他里の忍びに拉致されたというのは・・・・ 悲報だ。
なんて説明すればいい? あの心配そうな父親の不安材料を早く取り除いてあげたかっただけなのに。
「そう落ち込むな、イルカ。 娘の毎日の様子を見ていた親だから気づけたんだ、違うか?」
「そうですね。 しおれた草を見ただけで娘が摘んだモノかもと。 それを持参してくれましたから。」
「そうだ。 もう少し遅かったら、この草は完全に枯れてて、さすがのおれでも覗けなかったよ。」
「お前がこうやって直接動いたから、ってのもあるんだからな? その親子はツイてるよ。」
「俺・・・・ 依頼人に知らせてきます! 受付所で待ってもらってるんですよ、今。」
「よし、おれは三代目に知らせてくる。 火影室にその親父さんを連れてこい。」
はいっ! ・・・・・そうだ、いいように考えよう。 まだ拉致の段階で、事はこれから動き出す。
忍びがその場で殺さないという事は、きっと何か目的があるはずだ。 娘さんはきっと生きてる!
まだ数時間しかたってない、人質の救出は時間との勝負。 一日以上経過してたら手の打ちようがなかった。
町に降りて行かず直接木の葉に来た事が幸いした。 道端に落ちてた草も時間がたてばやがて枯れる。
忍びは証拠を残さない。 全部、あなたの行動の速さが功を奏したんです、そう言ってあげよう。
まだ細胞が死んでおらず、草花の記憶を覗ける忍びがいるこの里を訪ねた。 わずかな慰めだとしても。
あなたと娘さんをいつも見守っている亡き奥様が、協力して下さったのかもしれませんよ、と。
少しでも、あの不安そうな父親の力になってあげたい。 俺には孝行する肉親はもういないから。
・・・・・というか。 俺達忍びには、と言った方がいいかな。 血の繋がった親がいる方が稀だし。
その代りと言ってはおかしいけど。 木の葉の里にはたくさんの忍びがいる、全員が家族みたいなもの。
三代目自らが、自分を俺達里の忍びの父だと公言してる。 とっても人間味あふれる忍びの長。
だからあの依頼人の気持ちが痛いほど分かると思う。 三代目も俺に対して思いっきり過保護だしな。