香りの塔 1
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隠れ里を抱えた忍び五大国には遠く及ばないけど、この大陸にはそれはもうたくさんの国々がある。
小さな集落が村となり、村が町となり、町が国へ。 人がたくさん集まれば新リーダーが出るでしょう?
そのリーダー“国”を名乗ればいい。 それだけで大小の規模に関わらず、大陸に国が誕生するの。
その国が住みよい所なら、自ずと噂を聞きつけて人が集まってくる。 そしてより強固な国になる。
何を隠そう、私もその噂を聞きつけて、この国に住みついた民。 うふふ、新天地を求めて、ってヤツ。
強いカリスマを持ったリーダーが現れ、その人に惹かれてまた人が集まってくる。 だからこう思うの。
確かに昔ながらの由緒ある一族が治めている国がほとんどだけど、それも一番最初はそうだったはず。
最初から由緒ある人なんて現れる訳ないもの。 いつしかそう呼ばれるようになった、ってだけ。
きっと誰でも・・・・ と言うか、今の国主や国王と呼ばれてる人達は、人を魅了する力があるんだわ。
それはその人物の性格であったり、容姿であったり、知性や知識であったり、様々だけど。
私の新天地たるこの国は、香華〈こうか〉の国。 大陸の中で国として認識されて、まだ十数年の小国。
・・・・え? なんでそんな所を新天地に選んだか? だってとっても素敵な女性が治める国だと聞いたから!
私達のお仕えしてる麗香〈れいか〉様は、どの国に招かれても人の目を惹く、我が国 自慢の国主。
見目は関係ないと思う? もちろんそれだけじゃないけど、見た目はかなり重要だと思うの、私。
だって国主のお仕事は、主に外交でしょう? パッと見て忘れられちゃうような存在感ではダメ。
言うだけはタダだから言っちゃうけど、国の顔なら他国にその存在感をアピール出来るようでなきゃね!
「うふふ! 麗香様はその点は合格よね? この前の、織の国の使者の顔、見た??」
「見た見た! 覚えてるっ! ボケーっと鼻の下伸ばしちゃって、もう最高っ!」
「“これ、織の国の使者殿。 ワタシに書簡を預かったのではないのか?”」
「“・・・はっ!! 申し訳ありません、噂にたがわぬその美貌・・・・”」
「「だもんね〜vv あはははっ!!」」
麗香様はその名の通り、見目麗しい女帝。 他国の国主や国王にも引けをとらない素晴らしいお方なの。
その名の通りと言えばもう一つ。 女性ならではの発想ね、香華の国の収入源は香り。 香木を作ってるのよ?
麗しく香る華・・・・ うふふふv まさに麗香様そのものが、この国の代名詞だと思わない?
・・・・・あ! 噂をすればなんとやら。 麗香様のお帰りだわ! さあ、お出迎えに行かなくちゃ!
お洗濯からクリーニング、衣類の保管管理までが、私達のお仕事。 その時にも香りは重要でしょう?
だから当然、ウチの国で作った香木を使って香り付けするの。 もう、毎日フワフワ、イイ気分な訳!
「「お帰りなさいませ、麗香様。」」
こうやって私達は、いつも外交からお戻りになられる麗香様をお迎えする。 これも女中の立派なお仕事。
主が帰ってきたのにお洗濯? 冗談、私達にはいつも時間があるんだから。 誰が言い出した事でもないの。
城の女中は、女官から下働きに至るまで、いつも麗香様を門までお迎えするのよ? ちょっとした行事v
私達下々の者にも気さくに話しかけて下さる、とってもお優しい旦那様、松葉 〈まつば〉 様の時もね。
皆、お元気でお戻りになるお姿を一番最初に見たいのよ。 だってこの国は麗香様ご夫婦あっての国。
ふふふ、奥処ももちろんあるのよ? 皆、どっかの大名の子息だとかいう噂。 とっても羨ましいわ〜v
でも当然よね? どの国の国主も同じでしょう? 国の代表となる顔が男か女か、というだけの違い。
「皆、喜べ。 我が国も隠れ里を抱える事にした。 これで他国からの侵略に怯える事もないぞ?」
「「わ! 凄いっ! とうとうお抱えの隠れ里が?!」」
「「ひょっとして忍び五大国の仲間入りをするかも?!」」
「我が夫、松葉はどこぞ? 隠れ里創設に向け、支援に着手してほしかったのだが・・・・・」
「あれ? そう言えば。 松葉様は・・・・ ??」
「どこかしら? いつも一番にお出迎えになるのに・・・・・」
「まあよい。 ワタシは旅の疲れを癒し【香りの塔】に籠る。 誰も近付けさせるな。」
「「「「はいっ!」」」」
うわー さすが!! 香華の国として大陸では認知はされてるけど、国内に忍びの隠れ里はなかったの。
今まではずっと、忍び五大国の各隠れ里に任務依頼をして、近隣諸国からの侵略を阻止してきたのよ?
麗香様はそういう手腕も素晴らしい。 侵略国と敵対している隠れ里を率先して雇う様にしていたの。
そうすれば私怨から、勝手に敵意を剥き出して戦ってくれるでしょう? 香華の国は高みの見物。
任務依頼通りに敵を撃退してくれた忍び五大国の隠れ里の忍びは、香華の国へのチョッカイはかけない。
だって麗香様が、その要請する忍び数も全て調節して依頼なさるから。 必要最小限の人数の忍びを。
ここぞとばかりに私怨のある敵、ギリギリの人数で暴れ回れば、他に余力はないでしょう?
はぁ・・・ やっぱり麗香様あっての香華の国だわ・・・・・ お世継ぎ作りに励んでほしいけど。
そこだけが男と女の違いで厄介な所よね? 腹ボテになるのは女だもの、麗香様が公務をお休みになる。
そんな事になったら、もう大変だわ。 だって、麗香様の代わりに外交に行くのは、夫の松葉様でしょう?
なんというか、松葉様が他国の古狐や古狸ばかりの中にだなんて・・・・・ 駄目、駄目! 絶対駄目っ!!
松葉様は本当にお優しい方。 洗濯して荒れた私達の手を見て、保湿クリームを差し入れて下さったの。
“こういうのをつけておくと、手にいいそうだぞ?”って。 この国の国主の伴侶、そんな立場の方なのに。
お優し過ぎて・・・・ 誰か守ってあげて! って。 だから余計に思うのよ、忍びの里は絶対必要不可欠!
麗香様と松葉様の中身が入れ替わったら、理想の国主夫妻なのに・・・・・・・ ううん、それは違うわね。
それこそ、どっちが女でも男でもいいじゃない! あのご夫婦だからこそ、こうやって皆が慕うんだから。