香りの塔 10
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本来、雨射は火の国の温泉街で情報収集する潜入員だからネ。 目的があって草津屋に潜ってるんだヨ。
情報収集目的じゃない潜入、普通に按摩師として他国に来てて、じっとしてるワケがないと思ってたケド。
ホント、自分の心に忠実というか・・・・ ま、オレ達はそれが心地よくてハマっちゃったんだけどネ。
その時感じたままを言葉に出す。 それがツレナイ言葉でもなんでも、心を温かくするんだヨ、不思議。
「雨射が香木の製法を知ったなんてバレたら、生きて帰れないヨ?」
「そうですよ! あくまでも草津屋の按摩師、なんだからね?!」
「違うんです、そっちは不可抗力。 興味があったのは事実ですが。 いや、それじゃないんです!!」
「「???」」
「お二人が捜索に向かった後、俺、言われた通りこの部屋に待機してたんですが・・・・・・」
・・・・・・・・・・・。 なんとまあ。 愛人にマッサージをしてあげたらしい。 しかも無料で。
というか、麗香様に奥処がねぇ・・・・。 やっぱり国主というか、国の要人は皆、血を残すのが責務か。
ま、オレ達忍びも優秀な子種は重宝がられるけど、特に制限はない。 忍術でかけ合わせが自由だからネ。
精子や卵子、細胞等を提供するのは、成人の忍びとしての一環だもん。 いつ死ぬか分かんないし。
そういう特殊な遺伝子・・・・ つまり、忍びの血を引く者、ってコトだケド。 それがない一般人なら・・・・
自力で繁殖活動するしかないからネ。 忍びの里を頼ってもいケド、遺伝子情報を全部渡すワケでショ?
国の要人はなんでか、己の血筋に誇りをもってるからネ。 家系ルーツを辿られるのが嫌なんだヨ。
だから奥処なんて設けて、子作りに励むワケ。 この国の国主も例外じゃない、ってコトだネ。
よっぽどのコトがなければ、忍びの里の力を借りようとは思わないヨ。 強い結び付きがないと無理。
それこそ忍び五大国の様に、国と忍びの里がしっかりと信頼で繋がっているところでなきゃネ。
ウチも国主の精子を保存してる。 時宗様が子を成さなくても、炎一族の血が絶えるコトはないんだヨ。
雨射のマッサージならさぞ、口が軽くなっただろうネ・・・・・ へぇー 軽めの暗示も?? ウ〜ン・・・・
明日になったら大忙し、まずは城内にいる全ての者の頭の中を覗こうと思っていた。 オレの瞳術でネ。
思わぬところから有力情報を得られるとは、露とも思わずに。 これは潜入員として褒めるべきか??
それとも按摩師として無料奉仕を怒るべきなの?? ま、結果オーライ、ってコトでヨシとしまショ?
「その愛人、桃井とかいう男、なんでか雨射が来る事を知ってたんですよ。」
「・・・・・この国に到着した時、誰も知らなかったですよね、松葉様の行方。」
「・・・・・というコトは、その桃井は知ってた、ってコトになるよネ。」
「はい。 だから探ってみたんです。 ちょっと夢心地になって頂きました。」
「「くすっ! さすがゴールドフィンガーvv」」
松葉様を含めた使者団は、麗香様が外交に出ている間に隠密で、草津屋と木の葉を訪ねたそうだ。
どうしてそれを桃井が知っていたかと言うと、草津屋へ伝言を頼んだ使者というのが、その男だったから。
つまり、愛人も使者団の中に加わっていたというコトだ。 香り集団の中で一つだけ別れた香りが桃井。
実際に自分が伝言を残して来たから、こんなに早く雨射が到着するとは思ってなかったんだろうネ。
草津屋の旦那さんや里からの対応で、雨射が自国に来るのは予約順だろうと思っていただろうから。
三代目がお忍びの松葉様を発見し、海野中忍に任務として出国を命じたなんて、裏事情は知らない。
行動を共にしていたなら、どうして麗香様に進言しないのか。 それは一役買っているからだ。
結婚十周年のお祝いを、松葉様と一緒になって考えたから。 国主を喜ばせようとしていたから。
愛人と本妻・・・・ じゃない、この場合は夫と愛人だケド、その二人が仲がいいなんて珍しい。
しかもその桃井とかいう愛人は、自分は麗香様のお気に入りだと公言してる。 ・・・・・・・・ン??
「海野中忍、ひょっとして使者団は、奥処の愛人軍団で構成されてたりする??」
「あ、そうです。 皆、文武に長けたどっかのお偉いさんの子息ですからね。」
「なるほど、それは心強い用心棒ですね。 そこらの賊じゃ相手にならないでしょう。」
「桃井さんは一人別行動したじゃないですか、草津屋に戻って伝言を。」
「「うん、匂いも一個だけ別れてた。」」
草津屋への使者団は全部で4人。 松葉様と桃井、他二名。 一つと三つに分かれた匂い、一致するヨ。
だから歯がゆかったらしい。 出国の理由を知っているのに、麗香様に何も言ってあげられないから。
せめてお慰めしようと、香りの塔のこの部屋に来たそうだ。 そのうちお戻りになられますよ、と。
桃井は、松葉様が雨射の他にも何かを贈るつもりで、皆寄り道をしていると思っているらしかった。
自分と別れた後、松葉様と愛人三号・四号は、火の国のどこかの町で買い物をしてから帰ってくると。
自分一人だけが戻り、別れた一団は戻らないのに、どうしてそう思ったのか。 それがネックだヨ。
「・・・・・・・・・・・誰かが桃井にそう吹き込んだ、ってコトだネ。」
「そうです。 だって松葉様ご一行の方が、桃井さんよりも早く戻っていたはずですから。」
「桃井が別行動しなければ、一緒に行方不明になってた可能性も??」
「・・・・・・・はい多分。 俺が聞き出した話から想定すると・・・・・・・」
松葉様には子種が無く、麗香様がどんなに望んでも子は成せない、そこで松葉様 自らが、奥処を設けた。
夫とはいえ、松葉様も国の要人。 その血を残すという国主の責務を、誰よりも重んじていたらしい。
桃井は自分でお気に入りと言うだけあって、国主夫妻から信頼を寄せられている人物らしかった。
そして、隠密で出国した使者団は皆、奥処の中でも特に国主夫妻から信頼されている者達だったんだ。
国主の血を残す為という従来の奥処とは違い、この国の奥処は権力そのものに直結しているというコトか。
香華の国の奥処にいるのはただの妾じゃなく、皆、松葉様と麗香様が選んだ優秀な人材、ってコトだ。
奥処とは名ばかりで、その実、内政に携わるような人物も多くその中に含まれているのかもしれない。
「本来、奥処とは国主をお慰めし、国主の責務に協力する為の場所、ですよね?」
「ウン、カッコよく言えばネ。 要は、権力者のステータスとストレス発散場所でショ。」
「・・・・ぶっ!! そんな身も蓋もない・・・・ あははは!」
「だって本当の事ですよ。 有り余る金の使い道の一つ、ってだけですよ、単に。」
「あははは! いや、その通りなんですけども。 くすくす。 そこが権力と結びついてたら・・・・・」
「「・・・・・・思い上がる輩が出ても不思議じゃない。」」
はー まいった。 手掛かりは目と鼻の先にあったなんて。 というか、桃井は命拾いしたのかもしれない。
奥処に囲われている誰の陰謀かは分からないけど、ひょっとしたら纏めてどうにかするつもりだったんじゃ??